9.道交法38条に泣く!!
エピソード−1 エピソード−2
人間、誰しもジンクスめいたものは持っているものである。ワタシの場合、「クルマを洗えば3日以内に雨が降る」に代表されるように、「あぁ、ワタシもそういうクチだ」と頷いてくれること請け合いの方程式が当たり前のように成り立っているのである。 そんな自分には3年の1回の周期で交通違反がつきまとう。それも免許を更新して1年以内に必ず何か起こる。おかげで、これまで一度たりともゴールド免許を手にしたことがないのである。ある年はスピード違反、ある年は駐車違反、そしてまたある年は一時不停止。まるで怪人21面相の下りのようだ。しかもこの21面相は必ず明智君に捕まってしまう。幸いなのは、いずれの場合もバイクでの違反なので若干罰金は軽減されることか(スピード違反は別だけど)。 そして、今回もその悪しきジンクスは健在だった。またもや捕まったのである。しかも今回の違反はちょっと違う。 どこが違うかというと、「違反した」という自覚を匂わせない違反なのである。 いや、「単にお前が交通ルールに疎いだけじゃん」と言いたくなるかもしれない。たしかにそれはある。しかし、あえて言わせていただきたい。会社の知人15人にこの話をしたとき、全員「え?そうなの?」と知らなかったのである。 いつもはエアトレックの話ばかりで少々飽き飽きしている方に、あるいは教習所で習った交通ルールのイロハを忘れかけた方に、このおかしくも愚かしいストーリーを捧ぐ。 ワタシは大抵バイクで通勤する。基本的に「混む」ことが嫌いな自分にとって、車で「混み」あう朝の通勤ラッシュに、人で「混み」まくるバスに乗って通勤するなんて、拷問以外何ものでもない。 バイクのイイところは、どんなに車が混んでいようとほとんどの場合はすり抜けて走れることである。この日も渋滞にはまったクルマの左横を、自分は側溝ロード(側溝の蓋でできた路肩)をゴトゴト音を立てながらすり抜ける。こんな時ちょっとした優越感に浸ってしまう。 側溝ロードは信号のない横断歩道でいったん終点を迎える。渋滞の列はその50m先の信号まで続いているので、信号が赤になっている間に渋滞の先頭に立つべく一気に走り抜けた。 思惑通り、信号が赤の間に信号待ちのクルマの先頭に立つことが出来た。前輪一つ分停車線からはみ出しているが横断している小学生の列には全く邪魔になっていない。まっこの程度なら良かろう。青になった瞬間一気にダッシュである。 と、その後の戦略を立てていたところ、周囲に警察がいることに気が付いた。どうやら、何かの取り締まりをやっているようだ。今回は何の取り締まりかな?多分中央線をはみ出して右側通行するバイクだろうな。でも自分は以前捕まった経歴があるので、それ以降この場所では右側通行はしないことにしている。ちゃんとクルマの左側を通ってきたし問題ない。 その警察官、何やらトランシーバで確認を取りながらこちらに寄ってくる。どうも違反を起こした間抜けなヤツがいるようだ。警察官はワタシの横に寄ってきて「クロのヘルメットですね?」と詳細な運転者の確認を摂っている。ワタシのヘルメットはガンメタだ。まず自分じゃないことは間違いない(当たり前のことだが)。しかし、「誰が違反したのかなぁ」と思って後ろの様子をうかがったときである。 「ちょっとあなた、あちらの方へバイクを寄せていただけますか?」と、ワタシの肩を叩いたのだ。 (間抜けなヤツはオレかいっ!!) Y: 「はぁ!?ちょ、ちょっとちょっと!自分が何ばしたとですか?」 警: 「いや、横断歩行者妨害と言うことで。まぁ、詳しくはあちらで説明しますのでとにかくバイクを移動してください」 んな事言われても納得いくわけがない。横断歩行者妨害つったって、どの場所でやったのかすら覚えがないのである。えん罪作戦でノルマ達成を目論んでいるのか?ならば、徹底的に戦ってやろうじゃねえか!! ルールを知らないことによって、ここまで人間は強くなれる。 取り調べ車は、何と小学校の通学路に停車している。当然、そこにバイクを停めてクルマの中に入ろうとする自分は、小学生のあどけなくも残酷な好奇心の格好の餌食だ。「やめてくれ!そんな無垢な眼でオレを見つめいないでくれ!」。これはとても恥ずかしいものがある。きっと犯罪者もこんな心境になってくるのだろうな、と思うと更に腹立たしくなってきた。なぜなら、違反したなんて自覚は皆無なのだ。 取り調べ車の中には既に先客がいた。婦人警官らしき人から説明を受け、神妙な顔をしている。どうやらうまい具合に言いくるめられたに違いない。軟弱者めが!こうなればオレ様が警察の横暴を暴いてくれるわ! というわけで、どっかりと椅子に座る。ワタシの担当は、体格のがっしりしたイカツイおっさんで、まさに 「キング オブ 道交法」 とでも言わんばかり。手強そうだ。 警: 「えーっと。おタクさんにこちらに来ていただいたのは、横断歩行者妨害違反ということで…。」 Y: 「ちょっと待ってくれんですか。どこで、どのように妨害したのか説明してくれんですか」 警: 「あぁ、ここの横断歩道で一時停止しなかったのですな」 といいつつ簡単な図を書いて説明する。 |
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状況マップ図 警察が示した違反した箇所は、上側の 横断歩道で、そこで一時停止しなかっ たため、道交法第38条を違反したと いうことであった。 ちなみにこの時は、横断歩道を渡ろう とする人はいなかった(一応そこらは 確認している)。 |
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さぁ、これを読まれている方はどうしてワタシが捕まったかお分かりになったであろうか。えっ?説明文がわかりにくい? すみません。基本的に説明することが苦手なんです。 真実は、エピソード−2でついに明らかに!それまでシンキング、ターイム!! |
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エピソード−2 |
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この条文は道交法38条の2に記載されてある「横断歩行者の保護のための通行方法」である。ここには「(横断歩道など)の直前で停止している車両などがある場合において、車両の測方を通過する場合には通過する前に一時停止すること」とある。 そう、自分は横断歩道で止まっている車があるのに一時停止せずにすり抜けて行ったがために、横断歩行者妨害でお縄についたのであった。 何とマイナーかつマニアックな違反であろうか。これは自動車学校で習った記憶はない記憶がある(妙な表現?)。 これを理解するまでにはかなりの時間がかかった。何しろ「警察の方がおかしい」と決めてかかっていた自分である。 Y: 「横断歩道の前で一時停止せんかったとが、違反ですか?!」 (怒号) 警: 「そうですな、この場合一時停止せんといかんとですよ」 (冷静:また交通ルール知らんやつがきたよ、という感じ) Y: 「ちょっと待ってくれんですか。横断歩道には誰もおらんかったら一時停止せんでもよかとでしょ?」 警: 「いや、歩行者がいてもいなくても、一時停止せんといかんとですよ」 お気づきであろうか?警官は「横断歩道で止まっているクルマがあるときは」という前置きを一言も言っていないのだ。これじゃ分かるわけがない。かたや「一時停止せんでもよか」と主張する青年(?)、かたや「一時停止せんば」と説明する警察、全く話がかみ合わないのである。完全に頭に血が上った自分は、でたらめな発言で反撃を試みた。 Y: 「そいやったら、クルマなんて一時停止せんでバンバン走りよるじゃなかですか。ありゃどげんなっとですか?」 警: 「はぁ!?(パチクリ)…いや、走ってないでしょう。というより、走れんでしょう。」 Y: 「何ば言いよっとですか。今は渋滞しとっけん走れんだけで、渋滞がなくなれば一時停止せんでバンバン走りよるじゃ なかですか。」 警: 「???いや、走れんですけどなぁ???」 (おお、自分の「バンバン」攻撃に警察が怯んでいる) それでもしっかりキップに必要事項は書いて、ハイっとこちらに渡すのである。何とちゃっかりしているのだ!フンッ、誰が書くものかと思った瞬間、不意に「ああっ!」と警察が叫んだ。ちょうどマンガでよく出る「手をポンっと叩くと頭の横で電球が光る」あのシーンだ。どうやら、ワタシの主張が認められたか? どうよ!オレの言うことは正しかろう…ん? 警: 「オタク、普通の通行状態のことば言いよっとですな。いやいや、たしかに歩行者がいない場合は基本的に一時停止しなくても いいんだけど、横断歩道の手前でクルマが止まっている場合は一時停止しないといかんとですよ。これ道交法38条 に書かれとるとですけどね。」 Y: 「はぁ!?…」 (目が点) 警: 「つまりですな。この横断歩道でクルマが止まっとったわけですよ。この場合オタクは一旦停止せんといかんかったとですよ。」 Y: 「横断する人が全くおらんとに、ですか?」 警: 「まぁ、それが交通ルールですけん。」 Y: 「(何ですとぉ!)」 この時の自分はまさに金魚。何か言いいたくても言葉が出ず、口がパクパクするだけなのである。無念だ、無念である。 冷静に考えれば、確かに道理は叶っている。横断歩道の手前で車が止まっていれば、もしかしたら歩行者がわたっているかも知れない。それを予測して止まるのは至極もっともな話ではある。しかし、ここであえて言わせていただきたい。 止まっているクルマは決して歩行者のために止まっていたのではない、渋滞で止まっていただけだ!!(しかも横断歩道のど真ん中で) どんなにかこのことをキング オブ 道交法に言いたかったことか。しかし「負けを認めれば潔く」、これがワタシの身上だ。切られたキップは懐にさっさと取り調べ車を出た。 入れ替わるように新しい獲物がワタシとすれ違い取り調べ車へと入っていく。ワタシは爽やかな笑顔(?)で彼の健闘を祈った…。 世の中はどんなに気を付けていてもそれを凌駕する事態に満ちている。また一つワタシは7800円分の成長を遂げた。 (完) |
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