百 武 彗 星 観 望 記

 

1996年3月15日仕事で使っているコンピュータがいきなりハングアップし、「お前はもう疲れている。今日はもう帰れ…。」という神の御言葉を聞いた自分は、素直に会社を退社。道すがらふと空を見上げると晴れ間がのぞいていました。その時です。今話題になっている百武彗星が頭をよぎってしまいました。

この彗星、「かなり明るくなっているぞ」という情報を前々からキャッチしていたので、翌16日に撮影に行こうと思っていました。ところが予報では16日は天気が悪くなるというし、見られる時に見た方がいいかなぁ、という考えがもたげてきたわけです。あぁ、こうなるともう止まりません。

いま見なくていつ見るのか!!

 

(16日だったでしょ?)という突っ込みは置いといて、帰宅するや早々に準備を整えいつもの観望地に向かいました。

到着時には完全に雲もなくなり絶好の観測条件。我ながら自分の読みの鋭さに思わず酔いしれてしまいました。彗星のあるてんびん座は既に昇っており、驚いたことに彗星までこの目で確かめられたのです!!見積もり4等程度でしょうか?てんびん座の主な星よりは若干暗いのですが、ぼんやりした恒星状の百武彗星がまるでてんびん座の一部のように輝いていました。

さすがに肉眼では尾が伸びている様子までは分かりませんが、双眼鏡を使うと頭部が大変明るく西南西方向にうっすら尾が伸びているのが分かります。

これなら虎の子の20cm望遠鏡で見るとさぞ素晴らしかろう、と思って望遠鏡に低倍率をかけて見たところ、彗星が大きすぎて視野全体に広がってしまい彗星らしい姿が望めません!今回ばかりは望遠鏡で見た彗星は美しくないです。

程良く彗星が上がってから再度双眼鏡で彗星を見てみます。やっぱりこっちがよく見えます。これならば、135mmの望遠レンズでも十分写るかもしれません。

ただ困ったことに、今手元にあるフィルムは古いのです。去年買ったまま、今の今まで行方知れずになっていたヤツなのです。しかも、夏の暑いさなかクルマの中でじっくり燻された代物なのです。おそらく発色など望むべくもないでしょう。…でも写したい…。

練習だと思やいいじゃん。そうだ、これは練習なんだ!!

 

自分をだましました。あっさり騙された自分はさっさと準備にかかります。大体の構図を決めて撮影開始。露出は10分。ガイドは彗星のモーションに合わせて行います。

この日は5枚ほど撮影し、いい感触でした。初めて明るい彗星を見ることが出来た喜びを胸に、観望後リンガーハットでチャンポンを食べました。

数日後、できあがった写真を見ると5度ほど伸びた尾がしっかり写し出されていました。

 

 

 

百武彗星

 

撮影日: 1996年3月16日 2:05〜

露出 :  10分

 

使用機材:

キャノンFX + 135mm望遠レンズ(f 3.6)

タカハシ EM200に同架

(彗星に合わせてガイド撮影)

 フジカラーHG400…だったと思います

 

 

 

1996年3月22日。初めて彗星らしい写真が撮れた日から1週間後のこと。その朝会社で突然体調が崩れて高熱を出し、途中退社するというアクシデントに見舞われました。未だに原因不明のこの変調いったいY−daに何が起こったのでしょう。危うし!!

ところがその夜、時折晴れ間がのぞく夜空を見ていきなり復活。このところずっと曇り一辺倒で全く彗星が見られない日が続いていました。当然このチャンスを逃すわけにはいきません。先ほどまでウンウン唸っていたのはどこへやら?脱兎のごとく現地へと向かいました。この時ほど「自分は仮病だったのか?」と思ったことはありませんでした。

観測場所はこの前と同じです。到着後に空を見上げるとところどころ晴れ間が見えますが、雲量90%の悪条件です。とにかくひっきりなしに雲が流れていきます。そんな中、ものすごい衝撃がY−daを襲いました。うしかい座の1等星アルクトゥルスの東南東にもはや0等級以上の百武彗星が!!!さらには、10度以上も伸びたダストテイルが西南西に伸びていてかなりの拡がりを持っていました。

これだけ大きいと、11×80双眼鏡でも全体を見るには倍率が高すぎて全体を見渡すことができず、もっと低倍率の双眼鏡が欲しいところです。

本来ならゆっくりと鑑賞したいのですが、こんな天気ではそうも言っていられません。急いで撮影の準備をして大彗星の姿を捉えておきましょう。135mmの望遠レンズでは視野からはみ出すかも知れないと思いつつも、1週間前とはどれだけの大きさの変化があったか確認するため、まずは135mmでの撮影を試みます。ちなみにフィルムは先ほどまで冷蔵庫で冷やされていた新品です。抜かりはありません。

望遠鏡のセッティングを完了して、撮影を始める前に彗星のモーションを確認するためガイドの練習をします。今回も彗星が明るいのでガイドは楽勝でしょう。

…なんて思ってたら、視野中心に合わせた彗星がみるみるうちに視野の外に飛ばされていくではないですか!?それはもう絶望的な速さでずれていくのです。あまりのショックに「うぉ?うぉ?うぉぉ??」と思わずオットセイ鳴き。まさか望遠鏡のセッティングを間違ったのかぁ!!

いや違いました。彗星の固有運動が以前よりも更に速くなっていたのです。そのため日周運動に合わせてモータを回していると、(星とは動く方向が違う)彗星がどんどんずれていったのでした。その速いこと速いこと。彗星の動いていく様子が目で見てはっきり分かります。

幸い、彗星がほぼ北の方角に動いていくので、常に北方向に一定のスピードで追っていけばガイドできないことはありません。

コツを掴んで、彗星の速さを実感しながら撮影に入りました。しかし、撮影中も雲はなかなか晴れず撮れたのはわずかに4枚。観望後は、素晴らしい大彗星の姿を見ることが出来た興奮を胸に、リンガーハットで皿うどんを食べました。

撮影の結果は雲の影響で像が甘かったものが多い中、1枚だけ良好な写真に恵まれた。尾がねじれ、途中から枝状に分かれたダストの尾が印象的でした。

 

 

 

百武彗星

 

撮影日: 1996年3月22日 23:40〜

露出 :  7分

 

使用機材:

キャノンFX + 135mm望遠レンズ(f 3.6)

タカハシ EM200に同架

(彗星に合わせてガイド撮影)

フジカラーHG400…だったと思います

 

*上の赤い明るい星はアルクトゥルスです

 

 

 

1996年3月25日。あの感動からわずか3日後。予報では「一時雨」と報道されておきながら、昼間から晴れ間がのぞき、もしかしたらの期待感を持たせました。

実は3月23日も撮影に行ったのですが、この日は曇りがちで全然回復の兆しが見えず、見切りをつけてさっさと引き上げたのでした。ところが、何と翌未明になって晴れたらしく「30度以上に尾が伸びていたぞ!」と、船長っから興奮混じりの熱い報告を受けたのです。何という天気のいたずらかっ!コレには地団駄を踏みましたが、まだ希望の女神は我を見捨ててはいませんでした(アリガトウ)。

22時頃会社から帰宅して空を見上げると、雲の切れ間から北斗七星の近くに輝く彗星がはっきりと見て取れます。非常に大きいながらも拡散せず、しっかりしたイメージがあります。明日は仕事だがそんなことはどうでもいいじゃん!!取るモノもとりあえずクルマを引っ張り出し、今回は市内から50km離れた北の方角が暗い観望場所へと赴きました。なんとなれば今までの場所では北の方角が明るく、今回のように彗星が北に位置している場合ははなはだ具合が悪いのです。

到着後、はやる気持ちを抑えきれずに北斗七星を見ると、確かに船長っが言ったとおり、尾が30度以上に伸びていました。何と尾の最端部はかみのけ座まであるじゃあないですか!!(実はその先のからす座まで65度以上も伸びていたそうな)。尾っぽのほとんどはダストテイルのようです。もう望遠鏡よりも双眼鏡よりも自分の目で見た方が一番素晴らしいです。

この日も雲が多かったのですが、晴れ間がのぞく割合は22日よりもまだ良い方でした。何はともあれ早速撮影に入ります。この前の撮影でガイドのコツは大体つかめたので、撮影中に彗星を見上げる余裕もありましたし、ガイド中に望遠鏡で彗星の拡大像をじっくりと見ることもできました。どうも核付近からジェットらしき噴出物が細かく出ているようでした。うーーむ、何と活動の激しい彗星なんでしょう。

この日は夜中の1時まで粘り6枚ほど撮りましたが、その後は雲が出てきて晴れる様子が見込めず、2時頃ミッションを終了。

長大な尾を持った歴史的な彗星に敬意を表して、またまたリンガーハットでミソチャンポンなるモノを食べました。…こいつはまずかった…。

後日できあがった写真を見ると、エメラルドに輝く彗星の頭部から吹き出るように尾が伸びている様子がしっかりと写っていました。ハレー彗星をまともに撮ることの出来なかった自分にとっては、これが「彗星らしい彗星」を撮影した初めての写真でしょう。余は大満足です。

まさに彗星のごとく、一気に天空を駆け抜けていった百武彗星。あの感動とともにこの写真は一生の宝物になるに違いありません。

 

 

 

百武彗星

 

撮影日: 1996年3月26日 0:11〜

露出 :  20分

 

使用機材:

キャノンFX + 135mm望遠レンズ(f 3.6)

タカハシ EM200に同架

(彗星に合わせてガイド撮影)

フジカラーHG400…だったと思います

 

*彗星のモーションに合わせてガイドしているため

 星が流れています。

 

 

百武彗星

 

撮影日: 1996年3月26日 0:35〜

露出 :  8分

 

使用機材:

キャノンFX + 50mm望遠レンズ(f 4)

タカハシ EM200に同架

(彗星に合わせてガイド撮影)

フジカラーHG400…だったと思います

 

*尾を浮きだたせるため、画質を明るめに調整

  してみました。

 

 

               

                      前に戻る    観望大作戦に戻る     次に進む