PROJECT ED(前編)

 

 

                                     

 

<その時Y−daが動いた>

 

思えば、8月にやったミッション赤まりもが引き金でした。船長っの所有するフローライト屈折望遠鏡FS−102で見る火星のその美しさ。ガーネットのごとくオレンジ色に輝く本体に暗緑色の大シルチスがくっきりと浮かび上がり、さながら赤いトンボ玉のような芸術性さえ感じました。これに比べれば、自分の反射望遠鏡VC200Lで見る火星はまりもそのもの。ボーッと何かしら頼りなく、誰が見てもFS−102の圧倒的な勝利でした。

そう、あの日から自分の心臓の右心室当たりに「屈折病」という小さな小さなくさびが穿たれたに違いありません。

 

このくさびは、9月ぐらいに船長っが撮影した土星の写真で更に大きくなりました。何はともあれ見て下さい、下の写真。

土星の本体を横切る一筋の縞。A環とB環を分けるカッシニの隙間。実に明瞭に写し出されているではないですか。これが船長っの画像付きBBSにアップされたときに自分が受けた衝撃と言ったら、ボブサップのビーストラッシュを受けたようなものでした。

10cmでこれだけ撮れるなんて驚異的です。シャープな像を結ぶフローライトならではの写真と言えるでしょう。小さなくさびは、いよいよ左心室にも転移してしまいました。

とは言え、そうそうあっさりと屈折病に屈するわけにはいきません。何と言ってもこちらは20cm。ToUcamとのコンビネーションならば必ずや船長っの土星に迫る(「超える」と言い切れないところが切ない)写真を撮影できるはず!

ということで、自分も負けじと土星の撮影に挑戦です。土星撮影のために接眼レンズも新調し、暇を見てはバシャバシャ撮影→画像処理する日々が続きました。そして出来上がった結果は、たしかにこれまで自分が撮影してきた土星写真の中で一番イイ出来なのですが、それでも船長っの写真には遠く及びません。船長っの望遠鏡の方が20cmではないかと思わせる程です。

小さなくさびがだんだん大きくなってきました。まずいです。ヒジョーにまずいです。

 

 

土星(撮影者:船長っ)

 

撮影日:9月27日

使用機材: 

望遠鏡FS−102

 Or5mm(160倍)

IXY−DVM

1000枚コンポジット処理

 

土星(撮影者:Y−da)

 

撮影日: 11月16日

使用機材:

望遠鏡VC200L

LV25mm(72倍)

ToUcam Pro

639枚コンポジット処理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トドメは11月の3連休にやったアナタル撮影会で船長っが撮影した土星と木星の写真でした。Y−daが23日に撮影したモノと船長っが翌24日に撮影した写真を見比べてみて下さい。船長っの方は9月の土星よりもさらに細部が描写されています。撮影した11月24日は非常にシーイングが良かったとのことですが、これぞハッブル宇宙望遠鏡で撮ったような写真です。一方で自分が撮影した土星と木星は色の表現は豊かですが、シャープさにおいては213歩ほど譲ってしまいます。

屈折望遠鏡で撮ればこんなに写せるのかぁ!!(グサッ←屈折病に屈した瞬間)

 

おいおい、そのパターンは「ToUcamを買えばハッブル宇宙望遠鏡のように撮れるのかぁ!!」と全く同じじゃないですか。という突っ込みは置いといて、今まさに屈折病が発病した瞬間でした。

 

 

 

 

 

 

土星(撮影者:船長)

撮影日: 11月24日

1500枚をコンポジット(使用機材は同じ)

木星(撮影者:船長っ)

撮影日: 11月23日

1500枚をコンポジット(使用機材は同じ)

木星(撮影者:船長っ)

撮影日: 11月24日

1500枚をコンポジット(使用機材は同じ)

 

 

土星と木星 (撮影者:Y−da)

撮影日: 11月23日

使用機材は同じ

土星は1230枚コンポジット

木星は1709枚コンポジット

 

 

 

しかし、ちょっと待ってください。自分はこの夏火星のために10万円も投資してデジカメというカンフル剤を打ったばかり。更には火星のためにToUcamという1万数千円の栄養剤まで打ったのです。

これ以上ドーピングを打って何とするつもりなのでしょうか?

 

我慢です。ここで望遠鏡を買うなんて暴挙に出てはいけない。…

あぁ、しかししかし…!!必死に自制しようとする自分の意志とは裏腹に、手の方はインターネットで望遠鏡販売店を調査し始めるこの事実。またもや心体分離が起こってしまいました。くくくっ、止まれ止まるんだ、もう買っちゃいけないんだっ→カチカチカチカチカチカチカチ…(マウスのクリック音)。

 

 

 

 


<フローライトかEDか>

 

鉄は熱いうちに打て−今の自分にぴったり当てはまる言葉です。とにかく、我が手は自分のこの欲望が冷えないウチにと猛烈な勢いで市場価格の調査に明け暮れました。もはやこの病気を治すには現物投与が一番の特効薬です。

しかしそこに立ちはだかる価格の壁!!フローライト屈折と言えば屈折望遠鏡の最高峰に位置する高性能な望遠鏡で、いつかは所有したい憧れの君でした。しかし、10cmクラスともなると20万円は下らない代物。例えば船長っの持っているFS102は今やメーカ小売価格21万円ですし、よりお求めやすい価格で提供する庶民の味方ビクセンでも実売価格はFS102とそう大差ありません。普段の生活には一切寄与しない天体望遠鏡にこれだけ払ってよいものか?

 

21万円…、これだけあればデジタルビデオが買っちゃえます。今流行りのHDDカーナビだってそこそこのものが難なく買えちゃいます。おお、本格的なコンポを選ぶという手もあるじゃないですか。いずれも実用性はさほど高くないアイテムですが、それでも天体望遠鏡と比べればまだマシと言えるでしょう。独身の頃ならいざ知らず、既に所帯持ちで来年早々に第1子が産まれようとするこの時期に、実用性皆無の、ともすれば家族のお荷物としか認知されかねない天体望遠鏡を、20万円も出して買うなんて、一体どうやれば家内を納得させられましょう?納得してもらうどころか、最低夫の烙印という返り討ちにあうのが関の山です。・・・・・が、

それでも、この物欲は止められまへん。

 

要はいかに安く、高性能な屈折望遠鏡をゲットするかにかかっているわけです。そこで「ED屈折」という選択肢の浮上です。

ED屈折とは色分散が非常に低いEDというガラスをレンズに用いた屈折望遠鏡で、フローライトには及ばないモノの@比較的高性能、Aフローライトよりもレンズの耐久性がある、

Bフローライトよりも安価、という特徴があります。

ということでフローライトが欲しいのは山々なんですが、ED屈折望遠鏡も視野に入れていくつかの候補を選び、価格調査をしてみることにしました。

 

まずはメーカの選定です。これはもう今までお世話になっているビクセンが最有力候補です。他にもボーグ製のEDなどは価格が非常に魅力的で、船長っからも「ボーグEDはよかっち聞いたぞ」と「よかっち」情報を続々受けるのですが、今の資産を有効に使用出来るかどうかが今ひとつ不安です。もし適合しないパーツが出てきたりしたらそれを穴埋めするために思わぬ出費を強いられることになります。これまで代々ビクセンの望遠鏡を買ってきたため、パーツ類はほとんどビクセンのもの。これらをそのまま使うために、やはり次なる望遠鏡も同じメーカの方が心の安定剤になりそうです。ということでメーカーは必然的にビクセンに決定。

次に望遠鏡のピックアップ。ビクセンのフローライトやED屈折は数あるメーカの中でもバリエーションが多く、特に小型〜中型望遠鏡のラインナップが充実しています。

 

 

 

型式

使用レンズ

口径

焦点距離

鏡筒長

所感

 

 

 

FL80SWT

フローライト

80mm

640mm(F8)

650mm

高性能でコンパクト。

 

 

 

FL102SWT

フローライト

102mm

920mm(F9)

970mm

高性能。ベランダでは取り回しがきつそう

 

 

 

ED80SWT

ED

80mm

720mm(F9)

716mm

高性能でコンパクト。安い。

 

 

 

ED102SWT

ED

102mm

920mm(F9)

950mm

安いが、ベランダでは取り回しがきつそう

 

 

 

ED102SSWT

ED

102mm

660mm(F6.5)

670mm

短焦点でコンパクト。天体撮影にもよさそう

 

 

 

ED130SS

ED

130mm

860mm(F6.6)

980mm

めちゃ高っ!!欲しいけど…。

 

 

                                                         *FL102SWTは平成15年12月11日に生産中止となりました。

 

自分が狙いたいクラスは10cm以上なので、そうするとFL102、ED102、ED130と言うことになりますが、EDがいくら安いとは言え130mmとなると価格があっさり40万をイっちゃいます。これでは元も子もありませんので涙を飲んでパス。結果として、下記の3機種について各販売店の価格を調べてみることになったのでした。

 

 

 

左から

FL102SWT

ED102SWT

ED102SSWT

 

 

 

 

 


<10年サイクル>

 

まず、上の3つの機種についてメーカ希望価格を調べてみましょう。ビクセンのHPで確認したところによりますと、FL102SWT=260,000円、ED102SWT=165,000

ED102SSWT=195,000円 でした。ただしビクセンの製品はその1割から1.5割引きが実際の売値になることが多いので、販売店間の価格を調べてみました。

今回引き合いに出した販売店は5社。ここではA社〜E社としておきます。各社にメールで価格、納期を問い合わせてみました(下表)。

 

 

 

 

メーカ価格

A社

B社

C社

D社

E社

 

 

 

 

FL102SWT

260,000

221,000

(-)

187,200

(1/M)

221,000

(-)

219,000

(-)

209,950

(1/M)

 

 

 

 

ED102SWT

165,000

140,000

(-)

118,800

(1/M)

132,000

()

139,000

(-)

133,230

(2/M)

 

 

 

 

ED102SSWT

195,000

165,750

(-)

140,400

(1/M)

156,000

()

164,000

(-)

160,300

(1/M)

 

 

 

 

 

 

 

別途発送費500

必要

 

 

 

( )内は納期

 

 

 

B社圧倒的に安し!!こりゃもう文句なしにB社で決定です。多少追加パーツをコミコミにしても十分おつりが来るような価格設定です。

何とFL102に至っては7万円引き。割引額から考えれば非常にお買い得と言えますが、20万に届かんとするこの価格はやっぱり考え物です。現実的に考えるとED102を選択した方が良さそうです。FL102が15万円台に乗れば文句なしなのですが。

まぁフローライトは船長っが持っていることですし、ここはEDにしてお互いの見え味の違いを比較するのも楽しいと思います。

 

ということでターゲットはED102シリーズに絞られました。あとはSWTとSSWTのどちらにするか、いよいよ最終の詰めに入ります。

価格面をみれば、SWTは12万弱ということでコストインパクトが少ないのが魅力です。だって貧乏サラリーマンだもの。安いに越したことはないのです。しかも焦点距離が比較的長めで、高倍率を必要とする惑星観測に向いています。元々船長っが撮影した土星の写真を見て望遠鏡を買いたくなったのですから、こちらの性格が自分に合っていると思います。しかし、しかしです。焦点距離が長い=鏡筒の長さが長い、というのがベランダハンターにとっての悩みのタネ。ベランダの懐が浅く1m近くの筒を振り回すとあちらこちらに望遠鏡をぶつけそうで非常に気を使うおそれがあるのです。ベランダ観測は軽いノリでやることに一番の魅力があるのですから、取り回しに気を使うようじゃ本末転倒。もちろん遠征すれば全く問題ないのですが、毎週毎週遠征するわけではないので稼働率が低くなる可能性だってあります。

SSWTはSWTの全く逆となります。価格が高い、焦点距離が短く高倍率が出しにくい一方で、670mmの長さは今使用しているVC200Lと変わらない寸法なので、今と同じ感覚でベランダ観測することが出来ます。しかも、屈折望遠鏡は筒内気流が発生しにくいという特長があり、VC200Lよりもよりフランクに星見ができるといった点からしても、短い鏡筒のSSWTはベランダ観測に向いていると言えます。

そして一番のポイント。>>鏡筒が短いと言うことは、もしかしたら安っぽいイメージがつきまとうかも知れません。これは大変なメリットです。

何となれば、自分は家内に「3万円ぐらいで望遠鏡を買いたいなぁ」と言ってのけたのですから。

どこの世の中に、10cmのED望遠鏡が、しかも新品が3万円で売っているモノか!!>>もし、家内が星の世界に僅かばかりの知識があったとしたら、即座にこう言ったことでしょう。共通の趣味を持たないと言うことはお互いへの理解が得にくい反面、いざというときのつぶしが効くのです。

さぁ、もはや自分の心は決まりました。ED102SSWTでファイナルアンサーです。これに高倍率用のアイピースを1本買って(また買うんかい)、総額16万弱。さすがに懐具合が痛いですが、後ろを振り返ってはいけません。納期が来年1月中旬と非常に待たされるのも、一番安くで提供してくれるのであれば如何ほどの苦痛にならんや。

自分は早速B社にコンタクトを取って最終的な金額を確認し、一括振り込みで注文を果たしたのでした。

 

…思えば、自分は10年ごとに望遠鏡を新調していることに気付きます。初めて望遠鏡を買ったのが3歳、今のVC200Lが13歳、そして今度のED屈折は23歳。

次の33歳の時には一体何が訪れることか。買うたびに価格も右肩上がりに増えていく傾向があるので、考えるだけでも怖いです。

なお、望遠鏡を本当に買ったことはまだ家内は知りません。ましてや「いくらで買ったか」なんて口が裂けても言えません。買ったことがばれたとしても、コイツの価格は3万円です。もしこれをご覧になっているY−daの身近な人たち、お願いですから口裏を合わせて頂きますようお願いいたします。

 

 

 

<おしんのごとく あみんのごとく>

 

家内はここのところ自分の変貌に疑惑を感じていました。

なんとなれば、「ボーナスが出たら、望遠鏡欲しいなぁ」と毎日のごとく言っておきながら、いざボーナスが出た途端、望遠鏡の「ぼ」の字も言わなくなってしまったからです。

そりゃそうだ、、

                                 すでに注文しちゃったんですもの

 

満たされた以上、話をしなくなるのは当たり前です。しかし家内にはまだ買ったことを話していませんでした。聞かれても問われても「そろそろ買うかもしれんなぁ」の一点張り。真実をいつ打ち明けるべきか…打ち明けたときの展開に期待と恐怖感を感じつつ日々タイミングを見計らっていました。

ところが、我が友マッツンが帰省したその夜に雄志で集まって忘年会をしていた折り、ついポロッと「早く望遠鏡が来ないかなぁ」と言ってしまったから大変。

  はっ!?ちょっと!!昨日は「そろそろ買うかもしれんなぁ」って言ってなかった??

 

し、しまった!!酒の勢いでつい口が滑ってしまった!!「口は災いの元」とはまさにこのこと。「いくらで買ったか」まで根掘り葉掘り聞かれやしないか、まるで針のむしろに座っている気分です。2004年1月8日現在、まだ購入価格までは話していません。本丸は徹底して死守せねば。

とは言え、真実がちょっとばれたおかげで心のつっかえ棒が一つ外れ、晴れやかなウチに新年を迎えました。ED屈折の納期予定まであと半月足らずです。

既に船長っから1月24日当たりに撮影会をしようかとオファーも来ており、できればニュー望遠鏡のお披露目をかねてフローライト屈折との見え味比較をしたいところです。

納期は1月Mですが、気の早い自分は望遠鏡が実家に届いていないか、新年ボケもさめやらぬ1月8日に念のために実家に立ち寄ってみました。

すると、思いもかけぬ親からの「あぁ、なんか届いてたよ」のお言葉!!マジですかぁ!!

飛び上がりたい気持ちを抑えて、ブツのある部屋に行ってみました。さぁ!感動のご対面………………ありゃっ?????そこには20cm四方の小さい小さい箱がちょこんと置いてあったのです。

何これ?いくら何でも長さ670mmもある望遠鏡がこんな小さい箱に入るわけありません。しかし、発送元はたしかにB社のようです。開けてみると…さらに小さい箱の中にアイピースが申し訳なさそうに入っておりました。たしかに望遠鏡と一緒に頼んだアイピースです。そして、緑色の封筒が1通。な、何かいやな予感!?

恐る恐る封筒から何かしら書信を引き出し、何が書いてあるのか恐る恐る読んでみると…「ご注文頂いておりますED102SSWTは、メーカーにて生産が間に合わず在庫切れを起こしております。納品は1月下旬〜2月上旬と予定しております、云々…」  ガチョーーン、ガチョーーンガチョーーン(フェードアウト)………。

ぬか喜びとはまさにこの事。まだまだ、「おしん」のように忍耐強く「あみん」のように切なく待たされる日々は続きそうです。  (後編に続く)

 

 

 

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