骨折り損のくたびれ撮影会

                                          

 

 

<今度こそ晴れた夜空が待っている>

 

 

4月の下旬、ちょうど明け方の東の空に最近話題のブラッドフィールド彗星とリニア彗星が明るく見えるということで、是非写真に納めるべく4月28日から29日にかけて出張ってきました。オークションで防具76EDを始めここのところいろんな機材を買いあさり、おかげさまで「直焦成功祈願セット」もほぼ完成に近づきましたので、その使用感も試してみたいところです。

GWを翌日に控えた28日の夜空は、霞の多い春の時期には珍しくすごく澄み渡っていて、夕方西の空に輝く金星も一段と輝きを増しています。これですよ、これ。こんな夜空を欲していたんです。過去の観望会や撮影会では雲がひっきりなしに流れたり、突風が吹いたりと、星が出ていてもイライラさせるような天候ばかりでしたので、やっとこさスカッとした天気に巡り会えました。しかも、直焦成功祈願セットの最後のアイテム ベルボン雲台が丁度この日届きましたし、出だしは大変好調と言っていいでしょう。

仕事はさっさと切り上げます。もはや今の自分の目には、巨大な彗星が朝焼けの空にたなびく光景しか映りません。家に戻るやクルマに機材を積み込んで、イオの入浴を済ませた後の22時前、はやる気持ちをそのまま持っていざ出発です。月は2時頃沈むということで、現地に到着してもしばらくは夜空は明るいでしょうが、極軸の設定やらカメラのピント合わせやら、いろいろすることはいっぱいあるのです。

 

今回の場所は、「いつもの山」から南に約5kmほど下ったところの「船長っの場所」です。

船長っが発見したスポットで、「いつもの山」よりも観望に向いた場所だそうです。幹線道路から脇に入って登ることおよそ9kmあまり。登り始めこそ竹藪ひしめく狭い道ですが途中からは比較的道幅も広くなり、目的地までのアクセスは良好な部類に入るかと思います。「船長っの場所」は道路脇にある少し小高い雑草地帯で、なるほど周りには外灯もなく特に東から南東にかけてはなかなかの暗さです。広さは「いつもの山」よりは狭く、当初はクルマ3台入り込めるかちょっと心配したぐらいですが、後で船長っの誘導でクルマを配置したところ、クルマ3台+機材3セットを適度な間隔を持って設置できる一応の広さでした。

自分が到着したときは、船長っは登っている途中と言うことで、とりあえず直焦成功祈願セットを組み上げながら船長っの到着を待つことにしました。

 

 

 

 

<怪しい船出>

 

架台の組み立てを終わって、マルチプレートを取り付けようとした時に船長っが到着しました。船長っにクルマや機材のセッティング位置を聞いたところ、もう少し自分の車は奥の方に行った方がいいということ。クルマを移動させるためには、今据え付けたばかりの架台を少し移動させないといけません。ということで、架台移動。程よい位置にクルマを移動して、さて

再び組み立ての続きに入りましょうかね。アリミゾプレートをマルチプレートに付けて…ありゃ?ネジがない??

何と、アリミゾプレートを固定する2本のネジのうち1本がないのです。どうもさっき架台を移動したときに落っことしたみたいです。船長っを巻き添えにして、周囲をクルマのライトで照らしながらネジ探しの始まりです。困ったことに、さっき据え付けた架台の場所を忘れてしまってネジが落ちたと思われるルートがなかなか思い出せません。こうなるとコンタクトを探しているようなもんです。ライトを灯けているとは言ってもやはり暗いし、もとより黒いネジを探すなんて時間がいくらあっても足りません。船長っはしぶとく探そうとしてくれましたが、諦めの早い自分は「とりあえず1本でも問題ない(だろう)から」ということで、捜索は一時中断となりました。

ネジ1本で望遠鏡を固定するということには一抹の不安がないわけではありませんが、とにもかくにも力の限りネジを締め付けておきましょう。

 

さて、今回初披露の直焦成功祈願セットは下の写真のようになります。防具の方は本日到着したベルボンのカメラ雲台に載せます。防具の自重が約3kg弱ですので、おそらく雲台でも大丈夫だと思います。難点は雲台をマルチプレートに固定する方法で、普通のカメラネジを使っているためギュウギュウに固定出来ないことです。まぁ、防具は軽いですので多分これでも固定できるとは思うんですが…。

 

直焦成功祈願セット全景

防具の固定はベルボン雲台で

カメラはVX−1,ガイドはGA−4を使います

 

なんて考えははちみつ以上に甘かったですねー。ED115Sと防具にそれぞれガイドアイピースを取り付けて、お互い同じ方向に星がずれてくれるかどうか確認したんですが、てんで違う方向に動いちゃうんですよ。おそらく正しい挙動を見せているのはED115Sで、防具は怪しげです。どうもベルボン雲台の固定が甘いようで、時間の経過とともに防具の自重に耐えきれず雲台がシレッと少しずつ傾いてしまうようです。これではガイド鏡の役目を果たさんではないか!!

再びカメラネジの増し締め開始です。握力がなくなるまでギュウギュウに締め付けてやる。しかしカメラネジのつまみ部が小さくて握りが浅くなり、力を込めても思うように締め付け出来ません。数十分後、もはや満足に拳を握れないほど締め付けたつもりでしたが、ガイドアイピース内の星はお互い好き勝手に動いていくのでした。。。

よかっ!今回もノータッチやっっ!!

こっちは、とにかく撮りたくて撮りたくてウズウズしてるんです。ED115Sでの星のズレを見ていたら、そんなに大きくないじゃないですか。OKや、問題なしや(?) 多少星が流れてもメトカーフガイドをしていた、と言えばすむ話や(??)

ということで、せっかく進水式を行った直焦成功祈願セットはあっさりとドック入りとなり、今回の防具は単なる「撮影中の星見道具」となり果ててしまいました。

 

 

 

 

<苦難は続く>

 

 

2時頃になると月も沈んでいよいよ星雲・星団の撮影が始められる環境になりました。この日のために新調した祈願セットの一つ「天体撮影専用一眼レフ ビクセンVX−1」のその真価が問われるときです。これまで使っていたキャノンのFXはファインダーのスクリーンが見にくく、ピントが合っているのか合ってないのか、それ以前に対象の天体が入っているのかよく分かりませんでした。それを一気に解消するのがこのVX−1(中古)です。

カメラをED115Sに取り付けて、アンタレス辺りでピントを見てみましょう。おお、おお!分かりやすい。何と近くにある球状星団もはっきりと見えます。これならOKです。念のため、ナイフエッジでピントが合っているか確認してみましょう。…問題なさそうです。よし、早速撮影に入ることにしましょう。

フィルムを装填し何回か空シャッターを切ってフィルムを巻き上げます。フィルム巻き上げてシャッター切って(カシャッ!)、フィルム巻き上げて(カシャッ!)シャッター切って、フィルム巻き上げて(カシャッ!)シャッター切って、?………コラコラ!ちょっと待て、シャッターが切れるタイミングが違ってませんか??

もう一度やってみます。

フィルム巻き上げて(カシャッ!)シャッター切って

 

うげっ!巻き上げレバーを戻すタイミングで勝手にシャッターが切れてしまうやんけ!何やコレ?壊れとるやないか!不良品やないか!!

船長っが出張って原因を探るも分からず、Y−da得意のビンタ攻撃でも解消されず、またまた暗雲が立ちこめて参りました。以前はキャノンFXの「シャッターを開くと戻ってこない」というご臨終現象に悩まされ、今回は不整脈ですか…。つくづく一眼レフには縁がないですなぁ。

しばらくして、船長っが「シャッターを下ろした後、何度かシャッターボタンを押せば解消されるみたいだ」と応急処置方法を見いだしてくれたので何とか事なきを得たんですが、ここまで半分近くフィルムが空打ちされてしまいました。これではさすがに勿体ないので一旦フィルムを巻き戻し、再度装填し直します。実はこの時点で大敗北が決定づけられていたのですが、それはまた後ほど。

 

 

 

<しゃにむに撮影>

 

 

何から何までトラブルに見舞われ今回もくろこげ同然の状態になってきましたが、気を取り直して撮影開始です。今回は、VX−1をED115Sにつないで直焦撮影をする一方で、修理上がりのキャノンFXも一緒に載っけてカメラレンズで星野撮影(一般的に星座全景を撮ること)もやってみました。信じられないことですが、この20年間さそり座あたりの星野は撮ったことがなかったんですよ。「船長っの場所」は天の川が大変綺麗に見えるので、さそり座〜いて座辺りの天の川中心部を撮ってみたいと思います。それ行け!

 

まずは直焦撮影です。

M4、M22、M13、M8、M20、M17、M57、M27と主立ったM天体を怒濤のごとく撮っていきます。「撮るべし 撮るべし 撮るべし!! 

これまでの鬱憤を晴らすがごとく、バシバシ撮影を続けました。ピントは多分合っていることでしょう。既に自分の頭の中には、微光星が散りばめられた素晴らしい星雲や星団の写真が浮かび上がっています。ふふふ直焦成功祈願セット万歳(←まだ結果が出ていないのに?)。

それと並行して星座の撮影の方も順調に進んでいきます。さそり座、いて座、こと座、わし座、はくちょう座、再びさそり座・・・・。カメラレンズでの撮影はこれまでほとんど失敗したことはないので、こちらは全然問題ないことでしょう。

 

左上: いて座 (4月29日 2時25分)

上:   さそり座 (4月29日 3時22分)

左:   わし座 (4月29日 3時42分)

共通データ: キャノンFX 50mm標準レンズ F4設定 露出5分 フジHR800

 

いて座を中心に、右側(西になります)にさそり座、上側(北になります)にわし座が続きます。ちょうどの天の川の中心方向付近に位置する星座なので、写真のように星が密集している様子を肉眼でも見ることが出来ます。もちろん、肉眼ではぼんやりした白い雲のような感じにしか見えませんが、生の天の川は大変迫力があって素晴らしいです。

今回初めてさそり座やいて座を撮りましたが、焼き上がった写真を見るとたくさんの星が集まった天の川の様子が明瞭に写し出されていてちょっと感動しました。

その様子がHPではうまく伝えられないのは残念です。

 

 

さて一方の船長っの具合ですが、船長っは前回撮影したM57リング星雲に再挑戦するそうです。なんでも前回直焦撮影したとき、そのあまりの小ささに不満が募り、今回は拡大撮影で撮ると息巻いてます。えぇ?マジっすか?拡大すると像が暗くなって露出をべらぼうにかけないといけませんし、拡大する分星のズレもシビアになってガイドするのも大変でっせ?しかし、船長っの方は事前に適切な露出になる程度の拡大率を計算していたようで大変自信に満ちあふれています。「ふふふ、まぁ見とけ」 こんな感じです。

そんな自信満々の船長っですが、それ以前に極軸の微調整に苦労されておりました。「ありゃぁ?さっき極軸が合っていたと思ったのに、またおかしゅうなっとる」  「よしよし、これでOKやろう」  「んあっ?やっぱりおかしかごたんねぇ…、なんでやぁ!!」 の一人演技が延々続いています。それでも何とか極軸セットが完了し、M57リング星雲の拡大撮影や北アメリカ星雲などの撮影に入ってました。その結果はあとで船長っのHPに貼られていましたが、その出来には脱帽です。やはり船長っです。

 

 

 

<早よ撮れ早よ撮れ明るくなるぞ>

 

時刻は4時。既に薄明が始まって空は少づつ明るくなってきました。そろそろブラッドフィールド彗星やリニア彗星が見えてもいい時間帯です。まずは明るいブラッドーフィールド彗星を確認したいところですが、苦しいことに彗星が出てくるであろう場所には小高い山があってある程度昇ってこないと見えません。本来であれば3時半頃から見つけたかったのが4時過ぎにずれ込んだのもこのせいです。「もうそろそろ上がってきてるかもしれんよ?見つけてみんね」 どこかの星雲の直焦撮影に没頭している船長っから督促が飛んできました。

 

ならばということで久々に登場の11倍80mm巨大双眼鏡でそれらしき場所を探ってみましょう。どうもあの山の麓にあるぼんやりした星が彗星みたいなのですが、いかがなものかな?さてさて…?おお!見えました。ビンゴです。これぞブラッドフィールド彗星です。しっかり尾っぽも見えているじゃないですか。

そうです、双眼鏡の視野内には薄いながらも3〜4度ほど伸びた白い尾がはっきり見て取れます。歴史に残る百武彗星やヘールボップからすると、小さくショボいですが、久しぶりに見る尾っぽが出た彗星にはやはり感動します。じっと見ていると、尾がキラキラしているような錯覚さえ覚えます。残念ながら、明るくなり始めた空のもとでは肉眼で尾を見ることは出来ませんが、写真にはバッチリ写りそう。ちなみにこの時点でリニア彗星は断念し、ブラッドフィールド彗星に集中することにしました。

 

こうしては居られません。望遠鏡もカメラもブラッドフィールド彗星に向けて、直焦撮影と星野撮影を一気にやりましょう。空がかなり明るくなってきましたので、露出は5分以内の短時間にしないといけませんね。

カメラでの撮影の方は1枚だけ50mmで撮って、2枚目以降は135mmの望遠レンズに切り替えて少し拡大して撮影してみました。

ブラッドフィールド彗星(中央右寄り)と

アンドロメダ星雲(左上)

 

ところが、このころには空が相当明るくなっていてカメラのファインダーでは彗星がどこにあるのかなかなか分かりません。「んー?何かここらへんにぼんやりしたのがあるなぁ」と思える星がありましたので、とりあえずここに構図を合わせて、しかも尾が伸びていることを見越して中央からやや外した位置に「ぼんやりしたもの」を合わせて撮影してみました。

実はアンドロメダ大星雲だと分かったのはプリントされたあとのことでした(怒)

 

そんなこととは露知らず、ここでも自分はただひたすら「撮るべし 撮るべし 撮るべし」   船長っも彗星の導入後はガンガン撮影を続けます。

撮影終了後、正直言いまして、今回の撮影は大成功だと信じて疑いませんでした。いや〜結果が楽しみだなぁ!!

機材を片づけて、帰宅前に例のアリミゾプレート固定用ネジの捜索を再開。何と、自分の車の真下に落ちているのを船長っが発見してくれました。昨夜自分たちが見つけていた場所とは全然違いました。これじゃ見つかるわけありませんね。ともあれ、紛失せずに助かりました。船長っありがとう。

 

 

 

 

 

<時には知らない方が幸せなこともある>

 

久しぶりに充実感に満たされつつ帰路につき、しばしの眠りについた後早速現像に出すことにしました。今回の成果として、VX−1側(直焦撮影)が16枚、キャノンFX側(星野撮影)が15枚。いずれも24枚撮りフィルムの半分以上を撮りましたのでこれなら現像に出しても損な気分にはなりません。というより、早く現像したくて現像したくてウズウズしてるんです。

まずはキャノンFXのフィルムを巻き上げました。「お疲れさん、修理から帰ってきて絶好調やったな」と心の中でねぎらいの言葉をかけるほど、自分は上機嫌です。それもそのはず、「直焦撮影大成功」という幻想に包まれていたからです。

さて、お次は直焦撮影に使用したVX−1のフィルムも巻き上げますかね。リリースボタンを押して巻き戻しハンドルを回して…と、

1回転…2回転 スルスルスルスルスル……

 

はいっ!?わずか2回転しただけで急にハンドルが軽くなりました?これは、天体撮影歴20数年の経験上明らかにフィルムが巻き戻ってしまったフィーリングです。しかし、16枚撮影したフィルムを巻き上げてしまうのに僅か2回転とは、天体撮影歴20数年の経験上あり得ない話です。………か、考えるな。この先を考えてはいけません。そうだよ、もしかしたら、ハンドル1回転で実は10回転巻き戻しているかもしれないじゃないですか。何と言っても天体撮影用一眼レフボディー、ビクセンVX−1でっせ?常人には思いつかないような仕掛けが隠されているかもしれないのです。

かすかな期待と大きな不安を抱きつつ、近くのカメラ店に現像を出しました。そして2時間後…。

あのー…、一本は何も写っていなかったみたいなんですが…

 

ガチョーン、無情にも耳に突き刺さる店員のお言葉。そう、あの時フィルムを一旦巻き戻して再度装填したとき、フィルムがちゃんとローラーにかみ込んでなかったのです。そして、巻き上げた拍子にフィルムがスルッとローラーから外れてしまったんだと思います。そんなことを知らない自分は、ただひたすら撮っては巻き上げ(実は巻き上がっていない)、撮っては巻き上げ(これも空回り)して、同じフィルム面に延々露光していたわけです。

 

(↓以下、心の叫び)

こんな事が許されていいのかあああぁぁぁぁ!!!!!

元はと言えば、巻き上げレバーを戻すタイミングで勝手にシャッターが切れてしまう

VX−1が悪い!

あれさえなければ、ちゃんと撮れていた(かもしれない)んだぁぁぁ!!

喜びに打ち震えながら撮影していたあの4時間を返せぇぇぇぇ!!

(↑以上 心の叫び)

 

「いかがします?」申し訳なさそうにこちらの意向を聞く店員に、自分の答えはただ一つ。「即 刻 処 分 し て 下 さ い」 

さらには、135mmで狙ったブラッドフィールド彗星は見事に写野の外に飛び出ていて影も形もありませんし、唯一撮れていた彗星はバックが明るすぎてよく分からないし、一体あの充実した時間は一体何だったのでしょう?やり場のない怒りは一体どこに向ければいいのでしょう。

まさに、骨折り損のくたびれもうけ。今回ほど空しい気分に浸ったことはありませんでした。

 

(そして・・・・)やり場のない怒りはオークションに向けられ、激情の赴くまま一眼レフデジカメの入札という暴挙に出てしまい、困ったことに見事(?)落札。最後の最後の最後までオチが続いた珍しい撮影会でした。

 

 

                                前に戻る    観望大作戦2に戻る     次に進む