涙 の さ す ら い 観 望 会

 

 

 

 

 

<根性見せんかい>

 

 

九州地方は、例年より1週間も早く7月の10日ぐらい(だったと思います)に梅雨明けしました。これは大変いいことです。その1週間後の7月17日前後は新月と言うことで、月明かりに影響されずに一晩中星の観望もしくは撮影に身を捧げることが出来ますが、これに梅雨明けのスカッとした天気が来てくれればまさに願ったり叶ったりなわけです。当然の事ながら、家内には予めこの思いをアツク語っておき、事前の了解を得ていました。

 

ところが、です。梅雨明けしたというのに、自分の住んでいる地域は全然青空が顔を出しません。天気予報は連日「晴れ」、あるいは「晴れ時々曇り」の予報ばかりで、それを聞く分には青空:雲の比率は8:2といった感じなのですが、実際は2:8の割合で圧倒的に雲が多く、それが昼夜を問わず続くのです。気圧配置を見てみると、一応九州北部も太平洋高気圧に覆われてはいるようですが、どうもその周辺部にあたっているようで、それよりも少し南に移ると快晴になっているみたいです。もしや自分の頭上がまさに太平洋高気圧の境目ということですかな?

連日連夜、2:8のパターンが続くと太平洋高気圧の不甲斐なさには腹が立ちますが、こんな天気でありながら堂々と「晴れの良い天気でした」と言い切る天気予報にも石を投げたくなる気分です。

 

アパートのベランダから…毎日こんな調子です

 

そんなストレスが溜まる天気が1週間続き、結局Xデーの17日もベタでした。会社帰りに「船長っの場所」のある山の付近を見ると、巨大な入道雲の帯にすっぽりと覆われてます。こりゃもう「行くか行かざるべきか」迷う以前の問題です。程なくして実家に泊まってもらっていた家内から携帯メールが入り、それによりますとイオのご機嫌が麗しくないとのこと。あいたた、太平洋高気圧はイオの呪いによって完全に動きを封じられてしまったわけですか。

これじゃ勝負になりません。さっさと家に帰って腹いせに1リットルビールでも飲んでさっさと寝ましょう。

この日、何度「根性見せろよ!太平洋高気圧!!」と口走ったことよ。

 

 

 

 

<それは浜勝から始まった>

 

 

17日はペケでしたので、翌18日にかけることにしましたが、相変わらず自分のアパートの頭上は分厚い雲が南から北へ流れてます。

しかしちょっとドライブとばかりに南の方に行くと、おっとぉ?青空が広がり始めているじゃないですか。更に南の海の方を眺めると雲一つなさそうです。とことん南の方に行けばもしかしたら満天の星に出逢えるかも知れない、という淡い期待が膨らんできます。ヨシ、今日は星見を決行しましょう。

一旦家に帰って星見道具をクルマに積み込み、夕方6時半頃に出発しました。「船長っの場所」も南の方角にありますので、とりあえず今日の観測場所はそこに決めました。

あっと、そうです。途中で夕食も摂らないといけません。

普通であれば、吉例にならってここはリンガーハットで成功祈願メニューと行くところですが、よくよく考えてみれば、この3日前の16日に既にダブルチャンポン+イカ揚げ+ビール+おにぎり1個を食していたのでした。ダブルチャンポンのヘビーな余韻はそうそう簡単に抜けるモノではなく、本日はちょっと食べる気がしません。ここは、最近ご無沙汰している浜勝のトンカツを食べてみましょうか。トンカツパワーを漲らせれば何だか今日は素晴らしい夜空に巡り会えそうです。

ということで、「船長っの場所」の途中にある浜勝に寄ってみました。

ところが、折しも夕食タイムのピークにさしかかっていたため、タダでさえ混んでいる浜勝は更に輪をかけてものすごい人待ちの列でした。席に着くまで30分、それから食事が来るまで25分、何と食事にありつけるまでに1時間近くも費やしてしまいました。それだけ待たされたにもかかわらず、食事に要した時間は高々10分。元来食事するのが早い自分ですが、待たされた割に、味わう時間が妙に短いというこの現実に少々空しさを感じずにいられませんでした。

実は、この浜勝でのひとときがこの日の運命を予言していたと言っても過言ではなかったのですが、それに気付くのはそれから数時間後のことでした。

 

 

 

 

<南へ北へさすらいの旅は続く>

 

浜勝での夕食を終わって時計を見ると時刻はすでに8時半!余裕を持って出発したつもりでしたが、完全にプール分を食いつぶしてしまいました。急いで「船長っの場所」に向かうことにします。

浜勝を発つ前に「船長っの場所」あたりの山を見上げると、むむう?巨大な入道雲が東の方角にモクモクと立ち上っています。しかし、天頂付近から西の方角にかけては澄んだ空が広がってますので、時間が経てば晴れてくれるかもしれません。それを期待していざ出発です。

 

ここで、船長っの場所へのアクセスを再度おさらいしますと、目的地に着くまでには3つのゾーンが待ち受けています。すなわち「竹藪ゾーン」「渓谷ゾーン」「山道ゾーン」です。難儀になるのは渓谷ゾーンに入ってからで、特に鹿とか野ウサギが多くなり、あわや衝突してしまいそうな場面に遭遇することも珍しくありません。今日もご多分に漏れず、不意に野ウサギが跳んできたり、道路のど真ん中で鹿のカップルが怪しげな行為に及ぼうとしていたり、と、クレイジークライマーに出てくるキングコングさながらの障害に悩まされます。さらにこの日は、巨大なヒキガエルまで道路の真ん中でヌボーッと三つ指しているのですから始末に負えません。轢くことは簡単なのですが、自称「動物愛護協会会長」としてはそんな野蛮な行為をするだけのガッツはないわけで、車を止めてはカエルを道路脇に追い立て、また数百メートル先でヒキガエルに遭遇してはクルマを止めて…の連続で、到着が遅れ気味で気ばかり焦っても益々ペースがスローになってしまうのでした。

そんな苦労をして到着した「船長っの場所」。…愕然としました。何と、そこは水蒸気のたまり場になっていたのです。そう言えばあの入道雲は山の東側に出来ていました。山の東側には海があります。思うに、海からの水蒸気が風に煽られ東の斜面を駆け上がり、勢い余って上空でモクモクと雲を作っているに違いありません。「船長っの場所」はちょうど山の東の斜面に位置するため、モロに水蒸気の通り道となっていたのです。とてもじゃないっすが星を見る状態ではないですぜ。

 

ここで、自分には3つの選択肢が与えられました。

1.さらに南に下って、「百武彗星記念の地」に行ってみる。

      2.ちょっと北の方に戻って、「いつもの山」に行ってみる。

      3.ふてくされて帰る。もちろん、1リットルビールで憂さ晴らし

モチベーションは下がり傾向にありましたが、まだ時刻は9時ちょっと過ぎ。夜はこれからです。今日の昼のドライブから推測するに、南の方向は晴れる確率が高い、と踏みますので、ここは「百武彗星記念の地」へ行ってみることにしました。

「船長っの場所」から車を走らせること1時間。およそ10年ぶりにこの地へ帰って参りました。以前、ここでよく網状星雲を見たものですが、その時と同じくらいの夜空はまだ健在なのでしょうか?…って曇ってます!!(ガチョーン)。

たしかに、周辺の状態は10年前と変わらずなかなかの暗さですが、それも雲が出ていては何の意味もありません。誰や!南に行けば晴れている、とぬかしたのは!!

雲は南西から北東へ相変わらずズンドコズンドコ流れまくり。どう考えても、ここで粘る価値はなさそうです。

 

ここで、自分には2つの選択肢が残っています。

      1.ダメ元で北に戻って「いつもの山」を目指す。

      2.さっさと家に戻って、2リットルビールで轟沈する。

時刻は10時半。ここまで時間が過ぎるとモチベーションは10%以下の低レンジでウロチョロしています。どうすっかなぁ…。ここは折衷案として、「いつもの山」に向かう道すがらで空の状態を確認し、晴れ間が見えていたら「いつもの山」に行ってみることにしましょうか。もう、南に北に移動だけで精根尽き果てそうです。

 

 

 

<場所を探して奔走の果てに>

 

「いつもの山」に向かう途中でチラチラと空を見上げると、結構星が見えていました。これなら「いつもの山」で満天の星空に出逢えるかもしれません。疲れた体にむち打って、再度山道に足を踏み入れます。ここも、「船長っの場所」に負けず劣らず野生の鹿が不意に車道に躍り出てビックリさせられますが、まだヒキガエルが三つ指ついていないだけマシです。

既に時刻は11時前。家を出発してから優に4時間以上が経過しています!場所移動にこれだけ時間を費やしたのは、過去に記憶がないぜよ。

そうして苦労に苦労を重ねた挙げ句、やっと「いつもの山」に到着してみると…、5分の3近くがベタです!!ちょ、ちょっと待ってよ。ついさっきまでさそり座が綺麗に見えていたじゃないですか。なして到着したらさそり座が入道雲に覆われてるわけ??

全く理解できない天候です。雲は南側一帯が完全に雲に包まれていて、しかも南から北東に流れているので、まず南天の星空は期待できません。唯一北西から北の方角にかけて雲の割合が少ない程度です。ついでに言いますと、「いつもの山」は北の方角が市街地の明かりの影響を受けていますので、ほとんど星を見るな、と引導を渡されているようなモンです。

負けてたまるか。こうなりゃ意地です。何が何でも見てやる!!

 

ちょうど今の時期リニア彗星(注:世間を賑わせたリニア彗星とは別物です)がうしかい座を移動中で、そのうしかい座は比較的に雲が少ない北西の方角にあります。明るさは6〜7等級と言われていて、ED115Sでの直焦撮影なら十分写ってくれる対象ではあります。

そうと決まれば、さっそく直焦成功祈願セットの組み立てに入りましょう。こんな天気ですので、あまりウキウキした気分にはなれないのが悩みの種です。

それでも、手早く組み立て、すぐさま撮影…の前に、リニア彗星の大体の場所を抑えるべくまず眼視で観望してみました。明るいだけあって、おおよその見当をつけただけでもあっさり見つかりました。望遠鏡で見たイメージは、ちょっと拡散気味でぼんやりしていて、尾が出ているかどうかは分かりませんでした。明るさは世間で言われているように6等から7等の間にあるようです。

ここで撮影モードに切り替えるためEOS Kiss−Dを取り付けて、一旦明るい星を望遠鏡に導入してピントを合わせてから、再度彗星のある方向に望遠鏡を向けてみました。…あれ?さっきより明るくなっているように感じられますが?あぁ、もしかしたら薄雲が晴れて透明度が良くなった分本来の明るさで見えるようになったようですね。

しからば、露出は5分程度で彗星を撮ってみましょうか。レディゴー!!1分…2分…順調です…3分…4分…ガイドも手慣れたモンです…5分。撮影完了!!

 

さてさて、結果はいかがなモノでしょう。…?何気に球状星団っぽいですな?ブツブツしたボール状の、どう見ても彗星とは思えない天体が写ってます。

オレは一体何を写したの?狐につままれた気分でファインダーを覗くと、ブフッ!!ヘルクレス座のM13を撮ってました。何だ、道理で明るいと思ったら、彗星じゃないやんけ!!完全に雲の多さにプレッシャーをかけられてます。

気を取り直して、今度こそリニア彗星を導入してみます。あぁ、本物は暗かった。これです。これがリニア彗星でした。

実際に撮ってみると、尾もそれなりに写ってくれてます。カメラの液晶で見てみると尾が二股になっているのがよく分かります。5月のニート彗星ほど大きくはありませんが、なかなかいい写り具合に少し気合いが乗ってきました。

 

リニア彗星と間違って撮ってしまった球状星団M13(ヘルクレス座)

こっちが本物のリニア彗星 尾が二股に分かれているようです

 

よし、この勢いで星雲・星団をバシバシ………その前にこの雲どうにかならんのかっ!!

ホント、この日の雲は人をおちょくっているとしか思えない挙動です。北東側が晴れているから、そっち方面の星団を撮るべく望遠鏡を向けて撮影に入ろうとすれば、そこに雲が集中し、ならばと天頂付近にある星雲を撮ろうとすれば全雲集合とばかりにワラワラ寄り集まってくるのです。

波動砲で吹っ飛ばしてやるっ!!  こんな心境です

もし、ここで宇宙戦艦ヤマトがYahooオークションに出品されていたとしたら、怒りにまかせて落札しようとしたに違いありません?

結局、最後の最後まで雲に悩まされた挙げ句、降参して撤収することにしました。3時間近くもかけてあちこち彷徨ったのに、望遠鏡を出した時間は1時間足らずで、撮った写真は僅かに3枚。これじゃ、浜勝で1時間近くも待たされたのに食事をしたのはたった10分というパターンとおんなじです。

やっぱり星見の時はリンガーハットに限ると思った今回のさすらい観望会でした。

 

 

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