バ イ パ ー 出 陣

 

 

 

 

<寄せる期待は数多く>

 

 

9月に予定していた「父ちゃん星見」は家内の傘マーク攻撃にあえなく撃沈。本当に9月は天候不順でさっぱりの月でした。台風は来るし、晴れ間はないし、おまけに暑いし、7月に逆戻りしたんじゃない?と思うような天気でした。全く、家内の呪いは恐ろしいものがあります。

8月のお盆前に観測会をしてから2ヶ月…10月ともなると季節はすっかり秋です。次なるXデーは月明かりの影響がない15日か16日ぐらいがベストで、「父ちゃん星見」のマーキングは9月の時点で抜かりなくやっておきました。あとは家内の呪いがかからないことを祈るばかりです。普通であればこれを見た瞬間に即座に傘マークをかけてくるからです。

しかし、今回は不気味なまでに沈黙を保っています。一体これはどうしたことでしょう?

傘マークがないせいか、天気の方は9日ぐらいから快晴の日が続きました。予報では10月16日ぐらいまでは続きそうだということで、モチベーションが日を追う毎に高まります。

 

今回の観望では星雲・星団の直焦撮影もさることながら、7月にゲットしたバイパーの初陣に期待を寄せていました。バイパーは口径90mm、焦点距離1200mmのマクストフカセグレン形式の望遠鏡です。焦点距離が防具の500mmに比べて2倍以上も長いため、これをガイド鏡として使うとガイドの精度が2倍近くも上がることになります。これまで防具をガイド鏡にして直焦撮影をすると、半分近くはガイド不十分で失敗していましたが、この失敗率が低減されるわけです(?)

もう一つ、新調したEM200のモータードライブコントローラーにも期待が持たれます。10数年来使ってきたコントローラーがここ最近不調で、例えば右方向のボタンを押すと、やたらトリッキーな挙動を見せたり、下方向のボタンに至っては全く効かないという危篤状態に陥っていたのでした。

アイベルに問い合わせたところ、1個だけ在庫ありということで、いつものことではありますが思い切って新調。投資額は1万7千円と、決して安い買い物ではありませんが、おかげでトリッキーな動きは全く影を潜め、すこぶるイイ調子です。これならガイドの失敗はさらに軽減されることでしょう。

ガイド鏡にバイパー(左)を搭載した状態

 

 

この他にも期待したいことは多々あります。その中でも土星のWebカメラ撮影は、直焦撮影と並んでこの日の大捕物です。なにせベランダ観測ではシーイングがめちゃくちゃで、会心の一枚に巡り会えません。障害物の少ない出張り先ならば今年3月に撮影したハッブルライクな写真が撮れるのではないか?そう思うともはやモチベーションは230%付近まで振り切れてしまうのです。

 

そんな期待を膨らませて迎えた10月15日(金)、ちょっと雲は出ていますが透明度は悪くありません。やるなら今日です。

会社には午後休暇の届けを出し、家に帰ればそそくさと出張りの準備を整え、イオのご入浴を済ませた7時頃、久方ぶりの「船長っの場所」めがけて突進したのでした。それ行けーーーー!!

ちなみにこの日の船長っとオクヒデ君は、翌日に控えた釣りに集中するためご休憩です。スミマセン、撮らせて頂きます。

 

 

 

 

<行けるか?バイパー>

 

思ったよりも渋滞に見舞われることなく、現地に到着したのは8時過ぎのことでした。到着後クルマを出ると、ヒュゴォゥーー!!

うぉぅ、強い風のお出迎えにビックリです。

予報では「土曜日は昼ぐらいから等圧線の間隔が狭くなり風が強くなる見込み」となっていました。なので、金曜日はまだ大丈夫だろうと予想していたら、既に強風が吹きすさんでいるのです。今年3月の突風撮影会がつい頭の中をよぎります。あの時は、星がぶれまくってとても撮影どころではありませんでした。

おまけに体が冷えて冷えてたまりません。上半身は森の熊さんルック(ウインドブレーカ+ジャケット+革ジャン)を準備していて万全でしたが、迂闊なことに下半身は綿パン一つ。ジワリと寒さが染み渡ります。果たして土星が程よく昇るまで持ちこたえられるのか、微妙な状況です。

 

とりあえず、高めたモチベーションでオーラを張りつつセッティングを済ませます。極軸の微調整を完了した後、バイパーでのガイド撮影が出来るものなのか、ガイドアイピース(6mmなので都合200倍となります)を付けて適当な星を見てみました。すると…

 

ヒュゴォゥ!!(強風が駆け抜ける音) → ビヨヨ〜〜〜〜ン…(星が東西に振れまくる擬音語)

 

何ちゅうことですか!強風で星が踊りまくってるじゃないですか。見た目、とてもガイド撮影が成功できるとは思えない光景が目の前をビヨ〜ンビヨ〜ンと横切ります。これが本日のイオの呪いか!?

いや待て、ここで引き下がっては2ヶ月越しで溜めた気合いが無駄になります。諦める前に、がっしり固定されたED115Sで星の振れ具合を見てから結論を出しましょう。

…む?こちらの方はほとんど振れず、星のずれも大きくないようです。どうも、タコ踊りはバイパーの方だけに起こっている現象みたいですね。

 

そうです。バイパーの方はガイドマウントの強度が強くないのと、200倍という高い倍率で見ていることが災いして、風の影響を強く受けているのでした。

ならば、バイパーは使えない、と言うことになるのでしょうか。…いえいえ、注意深く見てみると、風が止まった瞬間の星の位置は初めの場所から動いていないことが分かりました。これはすなわち、ビヨンビヨンと星が動いているのは、全て風のフェイントというわけです。

要は、こんな小手先のフェイントに惑わされず、時折風が弱くなった時の星の位置を見極めさえすれば、ガイドすることなど造作もないっちゅうことです。

だって、EM200はもうイカレた動きは見せることなく、こちらの操作にキレよく応答してくれるのです。一瞬のタイミングで瞬時に修正できる技がこちらにはあります。

ということで、バイパーでのガイド撮影を予定通り実行しちゃいましょう!!

思わぬ風の障害を受けつつも、9時30分頃から撮影開始と相成りました。これが苦痛と寒さにひたすら耐え忍ぶ撮影会の始まりでした。

 

 

 

 

<アメとムチ>

 

「フェイントに惑わされず…」、言うのは簡単ですが、いざ実行するとこれがまた大変。

たしかに、EM200は生き返ったかのように、こちらの微細なタッチによく反応してくれるようになりました。ガイドする上でこの上ない安心感があります。

が、いかんせん風が弱まるタイミングが全くないのです。延々ヒュゴゥ、ブオォの繰り返しで、星はビヨ〜〜〜〜ン、ビヨヨ〜〜〜〜ン。

 

どこで見極めればよかとかっ!!

 

気象庁がよく使う言葉を引用すれば、過去5回の中で一番失敗する危険性が高まっている状況です。これ程撮影結果に自信が持てない撮影は、EOS−Dにしてから初めてです。加えて寒い(下半身が)!!

こんな仕打ちに何度止めようと思ったことでしょう。それでも、撮影後のプレビューでいい具合に星雲や星団が写っているのを見ると、「お?結構よく撮れてるじゃん。よし、もういっちょ行ってみよー」と奮起したりします。まさにアメとムチに翻弄されてます。

 

アンドロメダ星雲はノイズに悩まされました

M33にも再チャレンジ

 

さて、この日の直焦撮影での大捕物と言えばオリオン大星雲がその筆頭ですが、もう3つほどターゲットがありました。

それは、前回ピンぼけに泣いたペルセウス座のh−χ二重星団とオリオン座にある馬頭星雲、そしてただ今増光中のマックホルツ彗星です。

マックホルツ彗星は、来年1月早々に6等級まで明るくなることが予想されていて、現在はうさぎ座の南に8等級の明るさでひっそりと動いています。アストロアーツなんかに紹介されている写真を見れば、僅かに尾も伸びているようです。ここは予行練習と言うことで一つ写真に収めてみましょう。

 

…と意気込んだまではよかったものの、彗星の導入には苦労しました。周りに目立った星がありません。位置もネットで調べて星図におおざっぱに書いただけなので、益々導入に苦労します。何度も何度も何度も…(以下略)探した末、40分後ぐらいにようやく暗い雲状の天体が見つかり、これが目的の彗星だと分かったときはすっかり精も根も尽き果ててしまいました。そこへもってガイドに使う明るい星が近くにないのには困りました。全部がガイドアイピースのパターンの明るさに埋もれてしまうような軟弱星ばっかり。……しょうがありませんね、星ズレ覚悟でノータッチで撮りますか…。

3枚ほど撮りましたが、何とか星のズレ具合が許せそうなのは1枚だけでした。こんな悪条件ですから尾が写ってくれただけでもヨシとします。

 

マックホルツ彗星

尾がちょっぴり出ているのが分かるでしょうか

M42(オリオン星雲)

淡い構造まで出てくれました。色も自分好みです

 

マックホルツ彗星のノータッチ撮影でしばらく神経を休めた(ガイドしなくていいので、ボケッとできる)後はオリオン座の星雲の捕獲に入ります。

時刻は2時。オリオン座も程よく上がってきていい案配です。狙うはオリオン大星雲。5分露出で3枚ほど行ってみます。…ってありゃ?電池切れちゃった。既に2つ目です。8月の時期はまだ1個目で持っていたんですが、やっぱり寒いと電池の持ちが悪いです。これから更に寒くなることを考えると、今持っている3つでは足らないかもしれませんね。

そんなことを思いつつ最後の1個に取っ替えて再挑戦。嬉しいことにちょっと風が弱くなってくれました。5分後出たプレビューは、おおっ!!見事な星雲が映し出されています!!この「アメ」は消えかけた闘志を奮い立たせるに十分です。よし、調子に乗ってもういっちょ。お次も6分でもういっちょ。おしおし、次は馬頭星雲でもういっちょ。うんうん今度はウルトラの星(M78星雲)でもう二丁。

おそらくこの時間帯が一番ノリにノっていたひとときだったと思います。ただ、最後に撮ったM78星雲は2枚ともガイドがうまく行かずに星が流れてしまいました。これは次のリベンジ天体第1候補となりそうです。

 

 

 

<やはり呪いが?>

 

M78を取り終えたところで時刻は3時になりました。もう少し直焦撮影を続けたいところですが、結局風はまた強くなって、神経を使いそうな気配が濃厚になって来たため土星の撮影に切り替えることにしました。

その前に、眼視で土星を見てみます。正直これだけ風が強いと、土星もあまりパッとしない可能性が高いです。

…ビンゴ。予想通りですわ。ベランダで見るよりもひどい土星面です。これじゃ、ToUcamで撮ってもまともな写真が撮れそうにありません。久方ぶりに出張り撮影をしようと思ったのにガックシです。オリオン大星雲で高まった闘志は、ここで一気に急落。ついリンガーハットのチャンポンが頭をよぎりました。

…そうよね、寒くて体が冷えているもんね。まだ4時前だし、まだ開いているところあるかもしれないよね…。

こう考えるとダメです。撤収のコールが頭の中に響き渡ってしまいます。風は更にビュンビュン吹いてますし、それを理由に撤収です。

 

結局、この日は14天体30枚を捕獲して終了か…と、ここまではよかったんです。この後この日のこの感動を全て吹っ飛ばす落とし穴が口を開けて待っていたのでした。風が強かったのも、これから迎える悲劇に比べれば如何ほどのモノでもありません。バイパーの初陣?え?何ですか、それ?

何が起こったのか?語るも涙、聞くも涙の物語は、ひっそりと自分の胸の中に閉まっておきます。

 

翌日家内は言いました。「ほっほっほっ、やっぱりイオの呪いは健在なのよ!」

お後が宜しいようで。

 

 

 

 

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