ホタロン初陣

 

 

 

<葛藤から始まるプロローグ>

 

 

冬です。冬は寒くて、天気の悪い日が続くのが世の常です。昨年11月に出張ったのを最後に、その後は月のあるなしに関わらず、自分の住んでる地域ではパッとしない天気が延々と続きました。12月にホタロンを買ったのはいいものの、ずーーーーーーっとベランダに出陣するのみで、腹立つことにそのほとんどが「シリウスを見ただけで終わる」とか、「極軸合わせただけで撤収(未明の木星観望が雲でペケになる)」の連続。大きな主砲を持っても撃たなきゃ意味がありません。

そんなこんなで1月も出張ることなく終わり、ついに2月に突入しました。

 

今年は、星見…特に天体撮影をするのに適しているのは月の前半に集中します。2月で言うなら5日か〜6日、もしくは11日〜13日になります。

もちろん、カレンダーには一番目標を5日、保険の意味で11日、更に保険をかけて12日という3段構えで「父ちゃん星見」をシレッと書き込んだ…つもりでした。

ところが、いざ2月の2日にカレンダーを見てみると、ありゃ?書いていたつもりの「父ちゃん星見」が消えてます??

実は間違って3月に書いていたのでした。

家内の頭の中には既に「今月の星見はなさそうだ」とインプットされているのですから、これを覆すのが大変です。更に悪いことに3日はイオが熱を出してしまって、雲行きはますます星見に行けなそうな方向に流れてきました。そいでもって、こんな時に限って天気予報は「晴れ」やがるのです。

 

その5日、日中は雲って晴れる気配がなかったのでターゲットを11日にずらそうとしていたら、夕方頃から少しずつ晴れ間が見えてきました。透明度はそれほど良くないもののこのまま晴れてくれれば星見は可能な案配です。そして後ろを振り返ると、そこには熱が下がって暴れ回るミニコングのようなイオの姿が。その目には、「父ちゃん頑張れ」という熱いエールが込められている気がします。

よくぞ言ってくれた!!!!

 

家内はブツクサモードでひたすら呪いをかけようとしますが、「出発は21時頃だから」とこちらが言えば、「それなら食器洗いから寝かしつけまでやってくれそうね」の一言で何とか交渉成立。いやはや、最近は星見に行くのにも苦労が絶えません。

 

慌ただしく準備をして、さっさとイオを寝かしつけた後、21時前に出発です。今回は久しぶりに「百武彗星記念の地」に行ってみました。

 

 

 

<いざ初撮影>

 

 

今回行ってみた「百武彗星記念の地」は、昨年涙のさすらい観望会でちょこっと行ってみたところですが、それを遡ること10年ほど前はよく利用していた観測地です。ここで見た0等級の百武彗星が今でも忘れられず、その思いを込めて勝手に「百武彗星記念の地」と呼んでいます。当たり前のことですが、百武彗星がここで発見されたわけではありません。

記念の地は船長っの場所からさらに南に下ったところにあります。ここは敷地が広くてアクセスも良く、空の暗さは網状星雲が見えた10年前とほとんど変わりません。クルマを下りると見事に微光星が散りばめられていました。…が、西側に点滅灯があるのは予想外でした。目と鼻の先にあるためピカッと光るとかなり明るく、撮影中はなんか影響がありそうです。かと言って他の場所に気力もありませんし、今日は試験的意味合いが強いですから果たして点滅灯の影響があるのかもついでに調べてみることにしましょう。

風の具合は、到着した時点ではそれ程強くなく時折ビューっと吹くぐらいでした。しかし、2月最初の大寒波が来て間もなかったので、風はなくとも十分に寒さが染み渡ります。これまで「森の熊さん」「樹海の熊さん」レベルの防寒をして臨んできましたが、この日は更に高い「ジャングルの熊さん」ルックで防寒します。すなわち、下は綿パン+スエットパンツ+スエットパンツ、上はTシャツ+チョッキ+厚手のYシャツ+フリース+安いウインドブレーカ+高級なウインドブレーカ+革ジャン+はんてん、です。シルエットだけ見るならクマというよりはお相撲さんです。おかげさまで上下は全く寒くなかったのですが、一つ誤算があったことにこの時点では気付かず、これが後日影響してくることなど微塵のかけらも予想していませんでした。

 

そんなことはさておき、今日の目標は何にしましょう。何せホタロンでの初めての撮影ですんで、色収差とか周辺像の崩れ具合など、とにかく写り具合に興味があるところです。また、レデューサーも新調しましたから、レデューサーを付けないときと付けたときでどんな違いがあるのかを見てみたい気がします。更には土星とか木星の撮影も出張ったこの日こそモノにするチャンスです。

ということで、目標としては@撮影対象数は多くせずに、一つの天体を数多く撮る(失敗時の保険と、コンポジットを考えて)、A頃合いを見て惑星撮影やってみる、Bオメガ星団は必ず撮る、としてみます。

目標が決まれば、まずは極軸のセッティングです。今回はとにかく慎重に合わせます。というのもホタロンは910mmと焦点距離が長く、ちょっとのガイドズレでも失敗につながりやすくなるからです。もちろん架台のEM200は東西南北どちらにも微調整が効きますので、理想的にはちょこっと星がずれてもすぐ修正できそうな感じがします。ところがなぜか南北方向のモーターは微調整時のレスポンスがすこぶる悪く、ボタンを押してもなかなか動いてくれません。よっこらしょっとモーターが動き始めた頃には既にガイド失敗の領域に星がずれてしまった後なのです。そういうわけで、星が南北にずれないようにするためには極軸の完全なセッティングが必要となります。「完全な」とは言っても、露出時間の5分間だけ南北にずれてくれなければOKですので、たいそうなことをやったわけではないのですが。

 

半時間ほどセッティングに時間を費やしたら、いざ撮影に踏み切ります。まずはお決まりとしてオリオン星雲を狙ってみます。時刻は23時前。この季節この時間になるとオリオン座も西に傾き始めていますので、さっさと撮影に入らないといけません(なにしろ、レデューサー有りと無しでそれぞれ6回ほど撮る予定なのです)。

カメラを付けて、改良ピント合わせツール2穴式で(今度こそ慎重に)明るい星でピントを合わせ、オリオン星雲に向けていざ撮影開始。

ヒュゴオゥーーーーー!!!

 

ぬはっー!?さっきまで大人しかった風が撮影と同時に強くなりますか!!おお、ガイドアイピースの中でガイド星が東西南北好き勝手に暴れまくります。しかし焦ってはなりません。こういうときこそ過去幾度となく風で悩まされてきた経験を生かすときです。南北の星の揺れは、先ほどの極軸セッティングでずれることなど(多分)あり得ないので、全て風のフェイントと読むことが出来ます。東西方向は一瞬風が止んだときにどこに星がいるかを瞬時に見切れば何てこたありません(?)これぞ魂を込めたタッチガイド撮影の醍醐味でしょう。

 

5分経過し1枚目の撮影終了。液晶に映し出されたオリオン星雲を見てみると、…うんうん、かなりいい感じで撮れているようです(ちょっと構図がずれてました)、ピントもOKのようです。

思ったよりガイドも良好で、これなら残り2枚は行けそう。ちょっと気をよくして風がビュンビュン吹き荒れる中、快調に撮影を進めるのでした。

 

ホタロンでの初ショット(単品:画像処理なし)

 

 

<惑星撮影は今ひとつ>

 

ノーマル直焦点で3枚ほどオリオン星雲を撮った後は、レデューサーを付けて同じく3枚ほど撮ってみました。結果はホタロンインプレでも書いてありますが、星像の劣化も大きくなく十分使えることが分かりました。パパッと撮りたいときや大きい天体を撮る場合には重宝しそうです。

 

ある程度撮ったら、天高く上った土星に対象を切り替えました。まずは眼視で見たいと思います。これまでベランダでほんの数回しか見てなくて、それほどいい土星面をみたわけではありませんので、何も障害のない場所でどのように見えるか楽しみです。

………ちょっとシーイング悪いですかねぇ……。輪郭はそこそこはっきりするんですが、表面の模様とかは何か眠たいというか何というか。切り札のアポダイジングを通してみると、模様は見やすくなるものの、もうちょっとこうメリとハリが効いた見え味になって欲しいものです。来月少しシーイングが良くなる頃に再度確認してみましょう。

 

撮影の方は、アポダイジングを付けた場合と付けない場合で撮ってみました。オンラインで見る分には圧倒的にアポダイジングを付けた場合の方がよく映っています。これなら相当いい写真が出来上がるに違いありません。アポダイジングなしの写真はいわば「引き立て役」の目的で撮ったようなものです。

ところが思いも寄らぬ結果が待ち受けていました。アポダイジング有りの画像は、ノイズが目立って荒っぽいものになってしまったのでした。逆に引き立て役のつもりで撮った普通のものの方がいい案配です。あっさり下克上となってしまいました。

多分アポダイジング有りのものはゲインを高くしたのが行けなかったのかもしれません。ホタロンでの土星撮影はまだ光が見えないですねぇ(色も単調で、ED115Sの時ほど豊富な色になってくれませんし…)。

それでは木星はどうなのでしょう。ベランダから見る木星はこれまでのところED115Sに及びません。

上:アポダイジングあり

下:アポダイジングなし

一つにはシーイングの悪さも手伝っていると思われますが、今日は障害物のない出張り先での観望なので多少の潰しは効くのではないでしょうか。程よく上がってきた3時前。期待を込めて見てみます。

………(無言)……。やっぱり眠い像です。アポダイジング付けてもそれ程向上した感じがしません。近くにあるスピカを見たところ結構瞬いていたので、シーイングの影響を受けている可能性があります。それでもED115Sではそこそこ見えたんですが、ホタロンでは口径が大きくなった分シーイングの影響を無視できなくなったのでしょうか。

 

まっ、それでもせっかく出張ってきたのですから撮影はしておきたいものです。木星は光量が十分ありアポダイジング付けても結構明るいです。ここは思い切ってドーンと大っきい木星と、倍率を抑えてちょっと小さめの木星を撮ってみましょう。オンラインで見る限りではそこそこ縞模様も見えてますので、今度こそいい写真が得られるかもしれません。

…なんて思って、翌日画像処理に引っかけてみたら、大っきい木星は無惨な結果に終わりました。こちらもゲインが高かったのが災いしたのかザラザラせんべいのような感じ。保険の意味で撮った小さい木星は、データエラーで再現できず!!うわぁぁぁ!こんな事があっていいのかぁぁぁ!!

今回も木星撮影は失敗です。

 

2月5日の木星

2分の1にリサイズしていますので、上の土星

よりも小さく感じますが、フルサイズにすると

かなり大きいです。

しかしあまりにも模様のキレがなく、ノイズも

大きいため、ちょっとでも見栄えをよくするため

縮尺しました。トホホ…。

 

 

 

<寒さに根負け>

 

木星を撮り終えると、前回撮り逃がした北斗七星付近の小さな銀河M101、M109をパッパと撮影です。風の方は全然弱まる気配はなく、ガイドアイピースの中ではガイド星がアツイ情熱を漲らせてフラメンコを踊っています。ホタロンは鏡筒が長いですので風の影響も受けやすいと思います。するといくら慎重にガイドしても最初っから星が振れまくっている可能性もあるわけで、そう考えると不毛な撮影を続けているのかなと思ったりしてきました。更にここに来て完璧なはずの防寒に思わぬ落とし穴があったのでした。靴下2枚重ねでは2月の大寒波の余韻は防げないのです。足下からジワリと寒さがしみこんで、つま先はビリビリに痛くなり、だんだん集中力が切れてきます。

いやいや、ここは頑張らねばなりません。目標のオメガ星団を撮らずしてどんな顔して帰れましょう?

しかし、現実は非情です。この「百武彗星記念の地」では、オメガ星団が木々に隠れてついぞ出てきてくれそうにないのでした。

ドッカーーン!!

 

あざ笑うかのように更に風も強くなってきました。一気にモチベーションが下がります。こうなると頭に浮かんでくるのが、「寒い」→「暖かくなりたい」→「チャンポンが一番」→「リンガーハット」の図式です。時計を見ると3時半。チャチャッと片づけて、パーッと走ればまだ閉店には間に合う時間です。

すでにリンガーモードに切り替わった自分はまたもや寒さの前に屈服し、チャチャッと機材を片づけ、パーッと夜の闇へと消えていくのでありました。食べた品はダブルチャンポン、何で朝飯前にこんなの食うのか自分でも分かりません…。

(上)M101 (下)M109

 

翌日結果を確認したところ、あの強風の中でも星は振れることなくしっかりと点像を保っているものが多く、「EM200の底力侮りがたし」と思わされた次第です。今まで強風の中で撮った写真が星ズレを起こしていたのは、どうやら自分が風のフェイントに引っかかり過ぎていたのが原因みたいですね。

ホタロンでの直焦撮影も上々でしたし、今後への弾みをつけるのに十分な結果が出たと思います。いよっし!頑張るぞぃ。

 

(その後)この日の寒さがよほど効いたのか2日後発熱して、ほぼ1週間寝込むことになりました。冬の星見はやっぱり防寒をきっちりしないといけませんねぇ…。

 

 

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