SW彗星前哨戦に散る

 

 

 

 

プロローグ

 

SW彗星とは、今年5月に最接近するシュワスマンワハマン彗星のことで、いくつかの核に分裂している面白い彗星です。このうちのC核については、最接近時には2等級という明るい彗星になることが予想されています。

一昨年、初めて直焦撮影でニート彗星を捉えることが出来ましたが、あの時の感動を再び味わいたいと思います。

ここで気になるのが「どれで撮影しようか」ということです。ホタロンの焦点距離は、レデューサーをつけても600mm前後と、彗星の全景を捉えるにはちょっと大きすぎることが予想されます。かといって、EOS−Dの標準レンズでは物足りないし、望遠レンズを買っても多分彗星以外にはあまり使わないでしょうし・・・。

おお、そうだ、防具76EDがあるではないですか。

防具76EDは、これも一昨年にガイド鏡として買ったものですが、その座をバイパーに譲って以来全然出番がありません。一時はホタロンの資金繰りに売りに出そうと考えたこともありましたけど、売るにはちょっと程度が良くないので、押し入れに入れたまんまとなっていたのでした。そうですよ、こんな時こそキミの出番じゃないか。

 

そうと決まれば、まずは直焦撮影が出来るのか早速チェックしてみましょう。

防具のドローチューブに延長チューブを付けただけではピントが出ないので、カメラ回転装置を付けてみます。これだけだと眼視ではピントが出ませんが、幸いカメラを取り付ければギリギリピントが出ることが分かりました(ラッキー)。ついでにレデューサーをつけると楽にピントがでるようです。ますますラッキー。嬉しいことには、カメラのファインダー越しでも「あ、ここがピント位置だな、間違いないというぐらい、ピントの山が掴みやすかったことでしょうか。

こんな感覚、2003年から星見を再開して以来初めてのことです。ホタロンと比べると

かなりピント合わせがやりやすいです。これならピント合わせツールは必要ないです。(と、この時点では思っていました。)

 

防具が使えそうだと分かったら、次は機能確認をしなければなりません。タイミングがいいことに、3月上旬は日の出前の東の空にポイマンスキー彗星が明るく見えているとのニュースを聞き、まさにSW彗星の前哨戦として申し分ない条件に巡り会えました。

ということで、イオのひな祭り&誕生会を終えた3月4日の夜、母ちゃんの冷たいまなざしなど気にすることなく、「船長っの場所」へとはせ参じたのでした。

 

 

 

 

リモコン悲喜こもごも

 

船長っの場所に到着すると、少し霞みがかってコントラストが良くないですが、そこそこ星空は見えています。気温も高めで、ブルブル震えることなく観望&撮影に臨めそうです。

地面の草木を触ってみると・・・うーん、ちょっと湿ってきていますね。これは夜露に気を付けないといけま・・・あれ?

こんな所にカメラのシャッターリモコンが落ちている!!!

 

なんと、偶然にも自分がセッティングしようとしたその場所に、自分のシャッターリモコンが落ちていました。

どうも1月の撮影の時に落としたようです。あれから2ヶ月弱、雨に打たれ、風に吹かれ、過酷な環境に置かれていたはずです。ああ、その間全く気付かず放置してしまった自分を許しておくれ。

 

 

 

果たして動作するのか分かりませんが、取りあえずは再会を喜び、セッティングを続けます。この幸先の良さ、きっと今日は成功するに違いありません。

 

今日の撮影のメインは防具76EDですが、その前の惑星撮影にホタロンを駆り出します。予定としては、

ホタロンで土星を行く → 防具に切り替え直焦撮影 → ホタロンに戻して木星に行く → 防具に切り替えポイマンスキー

のちょっと慌ただしい内容。まぁ、焦らずまったりと行きたいものです。

 

ということで、ホタロンをセットして土星を見てみました。ちょっと湿り気のある空気でしたから、経験上シーイングが良いことが期待できます。実際に見てみれば、カッシニの隙間が全周に渡ってはっきりとしていて、C環もくっきりしています。10数年前の最高のシーイングの下で見た像にはまだまだ及ばないものの、思わずうっとりするような土星でした。いや、いかんいかん。後が詰まっていますから、見るのはほどほどにして撮影の方を済ませましょう(全然まったりしてないじゃないか、と)。

前回は、途中で動画撮影がすっ止まってしまうとかPCの不穏な動きに肝を冷やしましたが、今回はスムーズに進みました。ますます順調な進み具合でちょっと怖い感じです。

 

土星の撮影後は、防具76EDにシステムの組み替えをします。それにしても取り回しの何と楽なこと。ホタロンと違って防具は小さいので、カメラのファインダーを見ながら、赤径・赤偉クランプに手が届くんですよ。これ、感動です。筒の短さのメリットはやっぱり取り回しの良さにあることを痛感した次第です。

さて、ピントの方は先日の練習通りに光が収束するポイントをしっかり掴み、合わせた後はドローチューブをぎゅうぎゅうに固定します。試し撮りして液晶のプレビューで確認したところ、何となくOKな感じ(←ここがポイント)。これで、ピント合わせはばっちりでしょう。

次にシャッター動作の確認です。前回忘れた船長っオリジナルのタイマーリモコン、今日は抜かりなく持ってきました。

防具76EDに固定して、マニュアルでシャッターを切ってみます。・・・スカスカ・・・。あり?変だな?赤外線がうまく当たっていないのかな?・・・そう言えば、

・・・ランプがついていない。どうやら電池が切れているようだ・・・(ドラクエ調で)

 

あーもう、抜かっているじゃないか!!マニュアル式のシャッタースイッチは持ってきてないし、これで先ほど再会を果たしたリモコンがふてくされていればアウトですよ。動いてくれるか?頼む!動いてくれ。・・・動いたー!!

 

首の皮1枚つながりました。時間を気にしなければならない分、ガイドだけに集中することは出来ないですけど、この際贅沢は言ってられません。

 

 

 

 

成功という幻想に包まれて

 

 

リモコンでつまずいてしまいましたが、何とか撮影環境は整いました。いよいよ防具76EDでの撮影を始めます。最初のターゲットはM51子持ち星雲にしましょう。

防具76EDは焦点距離がホタロンよりも短いため、ガイドもそんなにシビアにする必要はありません。これはガイドする上で精神的に余裕が出てきます。ここのところ、ホタロンでガイドミスを多発していましたから、リハビリ代わりにいい機会ではあります。

 

また、今回からガイドマウントを少しレベルアップしてストッパー付きに更新しました。

従来のガイドマウントは押しネジと押しバネのバランスで微動部を固定するものでしたが、ガイド鏡のバランスが悪かったり、風が吹いたりすると、バネが根負けしてガイド星がずれていく現象に見舞われていました。今度のストッパー付きでは、バネ側からもネジで押してやることにより両方からネジ固定するのとほぼ同等の固定能力が得られます。これでガイドもばっちりのはずです。

ガイドしてみたその感想は一言グッド!一番効果を感じたのは、M51の後に撮ったω星団の時です。去年撮影したときに、なぜか北方向に星が動いていたことがありましたが、あれは今考えるとバネが根負けしていたのが原因だったと思います。今回ストッパーで固定したことで、ガイド星は南北方向には動くことなく、ピリオディックモーションの補正だけに集中することが出来たのでした。

ピントはOK。ガイドは上々。これで失敗することなどあるでしょうか、いやあり得ません。あっていいはずがありません!!

 

ω星団を撮った後、木星が上がってきましたので、ここで再びホタロンに切り替え、木星の撮影に移ります。防具とバイパーは夜露攻撃にさらされたため、クルマの中にピットインです(夜露対策用のカイロは消火していました)。

前半の土星の方はなかなかいい感じで見えていましたから、木星も今回こそいい結果が得られるでしょう。

・・・と思ったら、シーイングが急速に悪くなっています。おまけに明るくなったり暗くなったりしています?あれ、いつから木星は変光星になったのですか?って、わざとらしいボケはやめにして、空を見上げてみると

うわっ、薄雲張ってきとる!!!

 

な、何と本番を前にして文字通り雲行きが怪しくなってきました。時折分厚い雲に覆われ、時折快晴になったりで目まぐるしく天候が変わります。晴れ間をみてかろうじて木星を撮ったものの、その結果は惨憺たるものでした。

この後、防具システムに切り替えてM104ソンブレロやアンタレス付近を撮り、メインのポイマンスキー彗星撮影という目論見はありますが、待てば待つほど雲が占めていく割合が高くなってきました。

 

一度「もうあかんな」と思うと、急速にモチベーションが下がって、ポイマンスキー彗星のことなどどうでもいいやとなってきます。今回の収穫はM51とω星団だけでしたが、プレビューを見ればいい結果のようですし、お試し撮影としては十分。ここで引いても負けではありません(と自分に言い聞かせたりする)。

そうと決まれば撤収です。撤収時はもちろん、全部しまい込んだあとに一気に晴れ上がるという、片づけの法則が発動したのでした。どうもね、人をおちょくってるんじゃないか、と。

 

夜が明けました。ちょっと惰眠をむさぼった後、昨日の成果を見てみます。土星は、いい感じに仕上がりました。木星はヘロヘロでした。

そしてメインの直焦撮影。まずは、ノイズを取り去るため、RAW画像をRAPで読み込みます。さて、どんな画像が出てくるでしょうか・・・・。

ドーナツ乱舞!?

なー、な、な、な、なんですとぉ!?

え?何が起こったんですか?この一目で分かるピンぼけは一体どうしたんですか??

まさか、あれもこれもどれもそれも、ぜーんぶピンぼけですか?・・・・・・・沈没。

はっ、なーにが「あ、ここがピント位置だな、間違いない」ですか。なーにが「ピントはOK」ですか。なーにが「失敗などあり得ない」ですか。

このドーナツの嵐は何ですかっ!!

 

今考えれば、あの時撤収を決めた自分の判断は間違っていなかったことでしょうか。あのままポイマンスキー彗星の撮影までやっていれば、ショックと怒りと八つ当たりでホタロンが空中を舞っていたかもしれません。ピント道の何と高く険しいことよ。

 

 

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