プロジェクト25

 

 

 

 

                           【またも悪い癖】

 

 

衝撃のホタロン購入から2年が経とうとしています。買った当初こそ、なかなか満足できる像や写真を得ることが出来なかったものの、2年も過ぎればそこそこ使いこなせるようになりました(直焦撮影は相変わらず浮き沈みが激しいですが)。特に、2005年に撮った木星なんか見ると、「これがホタロンの実力か!!」と失神しそうな感動を覚え、**万(拙HP倫理により非公開)という大枚をはたいて買った甲斐があったというものです。

ところが、そんな現状に満足していた自分の頭の中に、最近(正しくは半年ぐらい前から)変なささやきが聞こえるようになりました。

 

                           大っきい望遠鏡が欲しくないかい?

 

こんなささやきが聞こえるきっかけとなったのは、ケンコーから出た格安の20cm反射が「思ったよりも使える」という話を耳にした時ぐらいからです。アストロアーツのギャラリーでも、それで撮った素晴らしい写真が紹介されていますし、コーチさんのサイトではため息が出るような見事な天体写真が、それこそ星の数ほどアップされています。ニュートン反射と言うことで、眼視での観測もそこそこ行けるかもしれません。思わず食指が動きそうになりました。

しかし、そこで端と思い直します。20cmだったら「自分にはVC200Lがあるじゃないか」と。高倍率での惑星観望は期待外れでしたが、低倍率で見るオリオン星雲や球状星団の迫力は、とてもホタロンでは得られないものです。そう、自分にはVC200Lがあれば20cmは十分なのです・・・・と、ここで終了すれば、話のネタにもなりません。

 

            もっと大っきい望遠鏡が欲しくないかい?

 

とささやかれるからこそ、観望大作戦のネタとして成り立つわけでして・・・。

もっと大きい口径となると、最低でも25cm、しかもカセグレン系はVC200Lで懲りたのでニュートン式がほしいところです。でも、このクラスになれば、でかい、重い、価格が高い、という負の要素が何となく浮かんできます。ところが、「でかい」以外の要素は意外にも当たっていないことが、その後の情報で分かります。特に目を引いたのは、その価格の安さです。ほうき星さんに紹介されて、最初に見ることとなった笠井トレーディングの「銀次250」は、ドブソニアンタイプで9万円を切る価格設定。うおー!安い、安すぎる!!

一気に物欲指数が跳ね上がったのは言うまでもありません。またも価格に釣られるという悪い癖が引き金となって、以来悶々とする日々が続くこととなったのでした。

 

 

 

 

 【3人の勇者現る】

 

最初、「欲しいな」候補に挙がっていたのは、先述の「銀次250」で、しかも赤道儀に積載できる「N」タイプでした。価格は10万円弱。ドブソニアンタイプをあえて選ばなかったのは、赤道儀に乗せての撮影も視野に入れていたからで、手動で操作しなければならないドブソニアンでは、惑星撮影すらままならないと考えたためでした。

ただ、赤道儀に乗せるとなると、鏡筒重量が問題になります。「銀次250N」の仕様によれば、鏡筒重量はトータル15kg。一方で、架台のEM200が持つ積載重量は16kg。ギリチョンです。いわんや、これにサブスコープやらEOS−Dやらくっつけてしまえば、あっさり重量オーバーです。一時期は「なんとかなるさ」と楽観視していたものの、考えてみれば15kgとはEM200とほぼ同じ重さです。つまりはEM200にEM200が載るようなもので、だんだん「大丈夫かいな」と思うようになってきました。

銀次の場合、重量が一番のネックとなって、注文PBを押すことを躊躇いました。

 

じゃあ、軽いのはないのでしょうか?いやそんなことはありません。kussiさんの掲示板で、「オライオン」の情報が出てきました。ここで出てくるオライオンとは、Orion Opticsというメーカーの事で、ここがサプライしている25cmニュートンが、その重量が何と10kg前後!!うおー!軽い、軽すぎる!写真を見るとビクセンの小型赤道儀に載ってるよ!軽いことをアピールしているとは言え無茶し過ぎ。

でも価格を見ると19万円弱!!うおー!高い、高すぎる!オライオンは、価格が一番のネックとなって、注文PBを押すことにはやっぱり躊躇いました。

 

ならば、軽くて安いのはないんでしょうか?いやいや、少なくとも価格についてはそんなことはありません。コーチさんからの情報でWhitey DOBが名乗りを上げてきました。これは、国際光器からたしか2006年の春ぐらいに販売されたドブソニアンで、超低価格がウリだと天文雑誌で紹介されていた記憶があります。しかし、具体的な内容は全く知らなかったので、コーチさんの情報をきっかけに調べてみることにしました。

すると、その価格ゴッキュッパッ(59800)!!!

なにー!安い、安すぎる!!重量は鏡筒単体で13kgと、「銀次250N」とほぼ変わりませんが、1kgでも軽ければ架台への負担は少なくてすみます。

しかし、ここでブレーキが入ります。安いが故に、ちゃんとした代物なのだろうか?と、思ってしまうわけです。例えば、主鏡は高倍率に耐えうるだけの精度があるんだろうか?斜鏡のスパイダーはヘタレじゃなかろうか?接眼部はガタガタしてるんじゃなかろうか?・・・

ということで、Whitey DOBもまた、安さがネックとなって、注文PBの一気押しには至らなかったのでした。

 

 

 

 

銀次シリーズ

オライオンシリーズ

Whitey DOBシリーズ

 

こうやって、あれこれと考えているウチに、「銀次250」は諸々の理由から「N」タイプがカタログ落ちして、ドブソニアンのみの供給となり、逆に、Whitey DOBは当初ドブソニアンタイプのみのリリースだったものが、その後鏡筒バンドも販売され、架台への取り付けが可能になるなど、事情が変わってきます。

それがきっかけで、最初は何が何でも赤道儀に取り付けることしか考えていなかったのが、「ドブソニアンでお気楽観望してもいいじゃないか、鏡筒バンドがあれば赤道儀に付けられるわけだし」とマルチな使い方を考えるようになりました。ですので、「銀次250D」に適合する鏡筒バンドがどこかで売られていれば、ドブソニアンで問題ないわけで、最終的に検討項目として上がったのは、この3機種だったのでした。

 

 

 

【安さにはしる】

 

 

ここで、3機種の特徴をさらっと見てみます。こうしてみると、案外と棲み分けができているような気がします。

 

 

価格

鏡筒重量

納期

鏡筒のウリ

銀次250D

89,000

14kg

即納

クレイフォード接眼、主鏡冷却ファンが標準付属

オライオン250

189,000(*1)

9.8kg

3ヶ月

軽い鏡筒、高精度主鏡、クレイフォード接眼標準付属、豊富なオプション

Whitey DOB250

59,800

13kg

即納

安さが魅力。別売りで専用鏡筒バンドあり

                        *1:オライオンの価格は鏡筒セットの価格であり、ドブソニアン仕様にした場合は別途費用がかかります

 

 ここで、もう一度検討してみます。

まずは、軽さが魅力のオライオン。

軽さの秘密は、鏡筒の素材にアルミを使っているところにあるようです。ところが、このアルミ鏡筒は評判が宜しくなく、ユーザーサイトを見てみると「強度がイマイチ」と評価されています。そう言えば、昔使っていた10cm反射の筒もアルミ製でしたが、とかくペコペコして鏡筒バンドを締めればへこみ、カメラをつければ撓み・・・と、強度に関してはとてもヘタレな鏡筒でした。オライオンの場合は、それよりは幾分マシかもしれませんが、価格が高いだけに、この評価はちょっと考えものです。

ついでに、ドブソニアンとして使おうとすると、更に出費がかさんで22万円以上になるようです。写真見ると、「ええ?こんな架台で3万アップ?」と言いたくなるような代物なんですが。まぁ、見た目では判断できない要素が盛り込まれているのでしょうけど。

個人輸入してみれば少しは安くなるかもとオライオンのHPで調べてみたところ、逆に高くついてしまうことが判明。こりゃダメだ。

 

次に安さが魅力のWhitey DOBを見てみましょう。

59800円とは破格の安さです。その昔、親に買ってもらった10cm反射赤道儀一式とほぼ同じ値段です。ドブソニアンとは言え、こんな価格で25cmの反射が買えて良いんでしょうか!と思ってしまいます。

しかしそこで思い出すのが、鏡筒が貧弱だった10cm反射です。鏡だけはすごくいいのに、それを無にする鏡筒のあの造り。Whitey DOBのウリである安さが、ついつい10cm反射のイメージに重ねてしまうのです。

ただ、安い分「これが当たり前なんだ」と自分を騙す術も知っています。ついでに、よく騙されます。

騙して騙して騙された挙げ句、「あぁ、これではダメなんだ」と気付くのは、おそらくずいぶん先の話になるでしょう。それだけあれば、59800円出しても十分に元を取れるに違いありません。

そして、Whitey DOBには専用の鏡筒バンドが別売りで提供されているので、赤道儀に取り付ける上で悩む必要がありません。これも大きなアドバンテージです。また、鏡は銀次やオライオンに及ばないと思いますが、期待に反してよく見えれば、何と言いますか「俺はひょっとして勝ち組?」と訳の分からない錯覚を覚えてしまうことでしょう。むむ、この時点でWhitey DOBはオライオンを押しのけてしまいました。

 

銀次はどうでしょうか。

いろんなサイトで見かける銀次の評判は悪くなく、買ってもまず失敗することはなさそうです。特にクレイフォード接眼部が自分にとっては魅力的で、その昔、三菱自動車がGDIエンジンを発表したときに相当するような欲求にかられます(GDIの場合は、そのうち「あちゃー・・・」となりましたけど)。

14kgもある重量は難点の1つで、撮影用として使うには今の架台には負担が大きいです。が、そもそも焦点距離1200mm以上もある望遠鏡を使って、セルフガイドで直焦撮影すること自体、自分の腕では荷が重すぎる気がします。眼視重視と言うことで割り切れば、EM200でも何とかなるでしょう。

とすれば、銀次の選択は、装備・価格・評価から総合的に考えて、一番の安全パイと言えそうです。

誤算だったのは鏡筒バンドでした。メーカー側は「専用の鏡筒バンドが調達できない」と言うし、別の販売店で銀次の鏡筒径に合いそうなバンドが見つかったと思ったら、9月に入って突然「しばらく望遠鏡関係の取り扱いを休止します」とアナウンスするし、入手が困難になりました。

不精者の自分としては、これ以上鏡筒バンドを捜す気力がありませんし、見つかったとしても、それが本当に銀次に適合するのか分からないのであれば、二の足を踏んでしまいます。

 

ここで思い出しました。自分が自分であり続ける理由は「鉄は熱いうちに打て!」にあるということを。

今の時点で、一番確実にドブソニアンと赤道儀スタイルのマルチで使えるのは、オライオンとWhitey DOBだけです。そして、コストパフォーマンスの高さとして期待できるのはWhitey DOBです。

よし、ここはばくちに出ることにします。クレイフォード接眼はありませんが、Whitey DOBを買うことにしましょう。

 

 

 

 

【ミッションインポッシブル】

 

 

「買う」と決めたら即実行。早速国際光器に見積を取ってもらうことにしました。必要なアイテムは、Whitey DOBに鏡筒バンド、アリガタプレート、レーザーコリメータ。

それと、赤道儀に乗せるためには、追加のバランスウェイトが必要ですので、これはアイベルから仕入れることにします。アイベルから発売されているウェイトは、色こそ純正品と異なりますが、値段が半分近くと手頃です。

送料含む総額はしめて86,200円。銀次250D単体の価格よりも安く済みました。が、家内に聞かれた場合の申告価格は4万円という事で行きたいと思います。皆様是非口裏は合わせて頂きますようm( _ _ )m

見積もらって、購入価格が分かった9月12日、正式に注文しました。Whitey DOB自体は在庫があるので、入金後の即発送は可能だとのことでしたが、レーザコリメータの納期の関係で、発送は9月15日となりました。とすれば、多分16日か17日ぐらいには到着しそうです。もちろん、届け先は我が実家。そこで実物を見て、いかに嫁さんの目に触れることなく家の中に招き入れるか、作戦を立てなければなりません。

前回ホタロンの時は、ED115Sとの入れ替え作戦により、(多分)ばれずに済みました。が、今回は入れ替える対象がない上に、ブツが巨大だと予想されるだけに、十中八九ミッションインポッシブルな予感がします。しかし、十中の一でも可能性が残されていれば、それに向かって最善を尽くすことこそ男というものです。例え「せこい」と言われようとも。

 

さて、予想通りDOBは16日に届きました。

実家に電話をかけたら、「何じゃー、この巨大な箱は!!!」といきなりの怒声。そんなにでかいのか??

親が引くほど大きいとなると早めに引き取る必要がありそうです。そこで、台風13号が接近しているというのに、17日に取りに行くことにしました。

一応、持ち込み作戦について、頭の中でシミュレーションしてみます。

    ステップ1) エアッチの中に入れておく(多分横にすれば、荷室に入るだろう)

    ステップ2) DOBを置くべきスペースを事前に確保しておく

 ステップ3) 嫁さんがいない間にDOBを持ち込み、まるで昔からそこにあったかのような偽装を施す

    ステップ4) 組み立てた後どうしよう?? ←ここで、どうしても思考がストップする

うーん、大ざっぱにこんなところでしょうか。よし、まずは実物を確認してみましょうか。

 

さて、思い描いていたシミュレーションは、実物を見た瞬間に無意味なことだったと痛感しました。どう表現すればいいですかね。スライムキングが鎮座している感じですかね。

 

ああ、そうか。きっとこれは二重梱包で、中身はもっと小さいんだ。

外の段ボールを開けてみると、たしかに二重梱包でした。が、中身はぴっちり。ワハハ、全然小さくなかとですって。

エアッチの荷室に横向きにすれば入るなんてことは夢物語で、後部座席の2名座席を倒さないと入りません。2名座席にはチャイルドシートがデーンと座っていて、雨の中チャイルドシートの場所を入れ替える羽目になってしまいました。

えー・・・っとですね、これって、十中八九どころではありませんね。

十中三十ミッションインポッシブルですね。

 

自宅に持ち込んだ後の撮影。手前が架台部で、奥が望遠鏡です。

望遠鏡の上に載っているビクセンの箱はホタロンです(比較用)。

 

 

 

【針のむしろにくるまれて】

 

 

いつの時でも、現実は自分が考えているよりも常に斜め上にいくものですが、プロジェクト25も見事に突っ切ってしまいました。今回ばかりは嫁さんの目をごまかせるレベルではありません。奸計は逆に火に油。ここはひねりを入れずに正攻法で攻めた方が良さそうです。

自宅に到着。ちょうど玄関前で嫁さんが靴の整理をしていました。うはっ、こっちはまだ心の準備が出来てないのに!!

 

 Y: 「あ、ああ、今からぼ、望遠鏡ば入れるけん、玄関は開けとって」

  嫁: 「望遠鏡?あれ?まだクルマの中に積んでたっけ?」

  Y: (ギクゥ!しかし後戻りはできないので、一旦クルマに戻ります)

・・・・・(1分後)・・・・・・・

 

  嫁: 「・・・・・何ね、それは・・・」←声が座ってきた

  Y: 「あぁ、安かったけん、買ったっさ」

  嫁: 「・・・・。でも、そげんとば置くところはなかよ。廊下に置け、廊下に」

  Y: 「んーー、そうやなぁ・・・。まっ、子ども部屋に置いてからじっくり考えるわ」

  嫁: 「ところで、今のヤツは と う ぜ ん 捨てるわけだよねっ!!」

  Y: 「んーー、そうねぇ。引き取ってくれる人がいればなぁ」

 

母ちゃん、怒ってる怒ってる(そりゃそうだ)。

もう、下手なこと言ってしまうと、一足先に台風が吹き荒れること間違いなし!ここは、自分の全知全能を持って、のらりくらりとかわします。しかしアドリブが下手な自分には、これは結構重労働。

この日は持ち込むだけで終了。ちょっと休んだ後に組み立てようと思った矢先、台風の影響で付近一帯停電してしまったので仕方ありません。ひょっとして嫁さんの怒りが停電を呼んだ??

 

組み立ては翌18日の夜にやりました。夜ですので極力音を立てないようにするのは勿論だったんですが、今回はそれ以上に物音を立てないよう、細心の注意を払っての作業となりました。涼しいのになぜか汗ダラダラ。いやはや針のむしろにくるまれたような気分でした。そういうこともあって、作業は1時間以上もかかってしまいました。

組み上がったWhitey DOBをみると、その巨大さに唖然。品物を目の当たりにしてドン引きした買い物は多分これが初めてじゃないでしょうか?

プロジェクト25は、今後のお付き合いにおいていろんな不安材料を残したまま、一応の完了を見たのでした。

組み上がったWhitey DOB25

 

 

 

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