光軸調整大さ・・・苦戦

 

 

 

 

                           【再現しないことの再現性】

 

 

「いつもの山」で発覚したWB25の光軸調整の再現性のなさ・・・。この原因を突き止めて、ベストな光軸調整を目指すべく、観望会から一夜明けた24日、自宅の一室にこもって対策を講じることにしました。

まず初心に返って、光軸調整の要領を確認します。レーザーコリメータと一緒に入っていた、「光軸調整方法」という説明書を見てみました。それによれば、

 

  @接眼部から除いて、斜鏡に映る主鏡の像が均等に映るよう、斜鏡の位置を調整する。

  Aコリメータを取り付けてレーザーを照射し、主鏡のセンターマークの中心に光が当たるよう、斜鏡の傾きを調整する。

  Bドローチューブを前後させ、レーザーがセンターマークからずれないか確認。ずれるようであれば、接眼部の取り付けが鏡筒に対して直角になっていない

ので、スペーサなどかまして対策する。

  C反射して戻ってきたレーザが、コリメータの中心に来るよう、主鏡の傾きを調整する。

 

だそうです。これにしたがって、作業を進めてみます。まず@はOK。Aも調整してOK。Bはドローチューブのガタツキで、時々カクッとセンターから外れますが、接眼部の取り付け自体は問題ないようです。最後にC。これはAと共に血が滲むような(?)練習を積んできましたので、いわんや昼間の作業ならマーピームシケラ(アラビア語で『問題ない』という意味らしい)ですよ!

 

ここからが本題です。一旦コリメータを外して、半回転ずらした状態で再取り付け。レーザーを照射してみます。

やっぱりずれる!!

 

困ったことに、再現性のなさが再現されてしまいました。ここで自分は思いました。このコリメータは偏芯している、と。

 

 

 

 

 【自分で自分の首を絞める】

 

 

コリメータに偏芯があると結論づけた以上、軸出しをなければなりません。軸出しは、コリメータの側面に120度間隔で付いている小さいネジで調整することができます。

やり方としては、コリメータを連続的に回転させて、レーザー光が動かないように調整します。昔極軸望遠鏡が外付けだった時代、極軸望遠鏡の方向を赤径の回転軸と平行にする作業をやっていましたが、あれと同じ方法です。

ただし、コリメータの軸出しはメーカー出荷時に調整されています。そして、調整後はネジをコーキングみたいなもので塞いでいて、ユーザーがいじれないようにしています。コーキングみたいなものは針でかきむしれば取れますが、取るとメーカー保証が効かなくなります。「ネジはいじってない」と主張しても、保証の対象外となります。

本来であれば、ここで躊躇するのが自分なんですが、なぜかこの時に限って「オレに不可能なことはない」と強気に出てしまい、迷うことなくコーキングみたいなものを取り去りました。

これで後戻りは出来なくなりました。いざ前へ突き進まん!!

 

おっと、その前にコリメータを連続して回転させる装置が必要です。これはボーグの回転装置を利用します。もちろん、「この回転装置には偏芯がない」ことが前提です。しかし、それを証明する手だてがないですので、ここはそう思いこむことにします。

ボーグの回転装置にビクセンのカメラアダプターをつけて(←後々、アダプターを取り付けたことが間違いだったと気付く)、コリメータを取り付けます。そして、この状態で光軸を合わせ、さぁ、いよいよコリメータを回転させてみます。

何と、レーザは大きな円を描いているではないですか!!うわー、全然だめじゃん。

 

これをみて、コリメータの偏芯疑惑はますます深まり、もはや「これ以上の原因は考えられぬ!」と頭がロックされてしまいました。小さい六角レンチをネジに突っ込み、グイグイ締め上げてはコリメータを回転させ、レーザーが動かないように調整します。

30分ほど格闘して、やっとレーザーの光がほとんど動かなくなりました。すごいぜ、オレってヤツは。やれば出来るじゃないか!!

嬉しさのあまり、ビール1本空けたくなりました。

いやいや、喜ぶのは早いです。この後再現性があるのか確認が必要です。

回転装置を外してもう一度取り付け、コリメータをグルッと回転させてレーザーが動かないことを確認します。・・・おーし、動かん!バッチリだ。これはもう1リットルビールで祝杯でしょう。

いや、待て待て。次はWB25標準の接眼リングに交換して、同じようにグルグルしてみましょう。これで動かなければ、その時こそ軸出しが完了することになります。よし、グルグルッと・・・。

回ってる、回ってるよぅ!?

 

9回裏、2アウトで2ストライクまで追い込んだのに、逆転サヨナラホームランを喫したような衝撃です。大きな弧を描いているんですよ。一体、何なんですか、この奇っ怪な現象は。もしかして、オレはなにか思い違いをしているのだろうか・・・?

 

8086CPUに相当する自分の脳をフル回転させて、もう一度考え直した時、ハタと気付きました。

そう言えばコリメータはちゃんと中央に入っていたのだろうか??

 

サーッと、血の気が引いていくのを感じました。

そうです。一番基本的な「コリメータをきちんと中央に配置する」ことがおろそかになっている可能性に、今頃気付いたのでした。

自分はボーグの回転装置にカメラアダプターをつけました。このカメラアダプターは、3つの固定ネジで3点止めされています。ここでもし、アダプターがある方向に偏って固定されていれば、コリメータの中心と回転装置の中心は一致しないため、レーザー光は下の図のように中心軸の周りをグルグル回ることになります。

 

カメラアダプターが偏って固定されている場合のレーザー光の動きを極端な図で表したものです。黒い点は回転の中心軸。赤い点はコリメータのレーザ光に相当します。アダプターが偏っていると、回転軸とレーザー光が一致しないため、回転装置を回転すると、光はグルグル回ってしまいます。<A>の時に光軸を合わせた場合、回転装置を回転すると、主鏡に映るレーザー光は、一番右のような円弧を描くことになります。

 

また、カメラアダプターから取り替えたWB25標準の接眼アダプターはネジ2点止めです。これは疑うまでもなく1方向に偏ります。

こんな状態では、回転させればレーザー光がグルグルするのは当たり前(逆にどうすれば動かないように出来たのか、そっちの方がよっぽどミステリー)。

さぁ暗澹とした気持ちになってきました。どうやら自分は、軸出しをするどころか、状況を悪化させる方向に進んでいたようです。しばらくの間、完全に虚脱してしまいました。

 

 

 

 

【自己満足しないとやってられない】

 

 

ここで別の疑問が浮かんできます。

昨日の観望会では、WB25標準の接眼リングにコリメータを付けて調整しました。この接眼リング自体は偏りがあるのは間違いありませんが、観望会ではコリメータだけ回転させました。もしコリメータに偏芯がないとしたら、コリメータだけ回しても、レーザー光はその位置から動かないはずです。

なぜ動いたんだろう?やっぱり調整されていないんじゃないだろうか・・・?

あれこれ思案しましたが、今ひとつ原因が分かりません。考えられることと言ったら、コリメータを付けたり外したりしていたので、スリーブによく差し込まれていなかったのではないか、ということぐらいですか。コリメータを己の手で狂わせてしまった今となっては、その真実は闇の中です。

 

とにかく、1リットルビールどころではなくなりました。再度軸出しのやり直しです。

まず、取り付け上偏芯がないような機構を作り出すことが先決です。これは、3点止めとかではなくて、ねじ込み部品を利用することで、影響を最小にすることができます。

そこで、回転装置にM60M43変換アダプタ、M4336.4mm変換リング、36.4mm31.7mm変換チューブという、ねじ込み部品を連結して、光軸調整用治具を作ります。唯一、コリメータだけは31.7mmスリーブ差し込みなので若干ながら偏芯が出ますが、この影響は許容範囲内と思いこむことにします(そう言う点ではコリメータも36.4mmねじ込みタイプの方がいいのではないかと)。

 

光軸調整用治具(というよりは軸出し用治具?)の外観です。これにレーザーコリメータを装着します。

パーツはいずれもねじ込みものを使っているので、装着時における中心の偏りは、基本的にない・・・はずです。

 

ですので、コリメータの軸出しがちゃんと取れた場合は、レーザー光と回転軸は一致して、コリメータを回転させてもレーザー光は動くことはありません。

もし、コリメータの軸がずれているとすれば、下の図のように回転軸と一致しなくなりますので、コリメータを回転することによって、レーザー光が円の軌跡を描くことになります。

 

 

 

 

これで、調整しては回転、調整しては回転を繰り返し、格闘すること1時間。ようやく、ほとんど動かない程度にまで軸を追い込むことが出来ました。再現性もバッチリです。多分これでコリメータの軸は直った(戻った)・・・と思います。

これで光軸合わせをした後に、WB25標準の接眼リングに替えてレーザーを当ててみましたが、戻ってきた光はやっぱりコリメータの中央には戻ってきませんでした。主鏡のセンターマークからも若干外れているようです。これは、接眼リングの中心が光軸上にない、と結論づけるしかないようです。

ただ、接眼リングが中心になくても、光軸が合っていれば星の光は光軸に平行に入ってきますから、問題はないはずです。自分はこれに気付かず、接眼部を取っ替え引っ替えする度に「光が中央に戻ってこない!」と問題視したことが、今回の一番の原因で、やらなくても良いことをやったが上に、コリメータの再調整を行う羽目になったのでした。

 

まぁ、そのおかげでコリメータの軸出しも、光軸も自分が納得できる調整が出来たと思います。そう思わないと2時間以上もドタバタした自分が報われないじゃないですかT_T ;

その夜、ベランダにWB25を出して、アルタイルで星像チェックしてみました。主観がちょっと入っていると思いますが、これまでよりも星像が良くなっているように感じられました。

 

テキストだけで、全然分かりにくかったにも関わらず、最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

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