水星日面通過雪辱戦!

 

 

 

 

                            【君を信じて】

 

 

11月9日に水星が太陽面を横切る「日面通過」が見られます。これを逃すと、日本で次に見られるのは26年後ということですので、これは是非見ておきたいところです。3年前の水星日面通過は土砂降りの憂き目に遭い、心眼で楽しむというシュールな結果に終わってしまいました。今年は9月後半から天候の良い日が続いていますので、9日の日面通過観望も期待できそうです。

 

今回の日面通過は既に日の出前から始まっていて、太陽が昇る頃には水星は半分以上太陽面を通過しています。現象が終わるのは9時10分頃ですので、日の出後約2時間ちょっとぐらいしか見ることが出来ません。その上、ベランダから観望しようとしている自分の場合、建物から太陽が出てくるのは更に遅くなり8時10分頃。そうなると楽しめるのは正味1時間もなさそうです。まぁ、通過中の水星をちょこちょこっと撮って、出て行く様子を見ることが出来れば一応の目的は果たせますから、この際利便性を重視したいと思います(現象が平日と言うことで、イオを保育園に送らないとならず、どこかに出撃するというのが難しいという事情もあります)。

 

水星日面通過の様子

(アストロアーツのHPより引用)

 

一番左の図は東京での様子です。

長崎では

水星の出: 6時46分00秒

第3接触: 9時8分42秒

第4接触: 9時10分36秒

と予報されています。

 

 

 

日面通過を観望&撮影するに当たってのシステム構築は、基本的には2004年の金星日面通過の時と同じです。メインにホタロンを載っけて撮影用、サブで防具76EDを載せて眼視観望。果たして、撮影しながら観望しながらと言うのが1時間という短い時間でできるのか・・・、「二兎を追う者は一兎をも得ず」という結果にならないよう、脳内シミュレーションはばっちりやっておく必要がありそうです。

ところで、今回の最大の目玉は「水星が太陽から出て行く様子をWEBカメラで追ってみよう」という計画です。水星が太陽の縁に接触してから完全に出て行くまでに要する時間はおよそ2分。画面サイズ640×480で、フレームレート15fpsで動画撮影する場合、消費するHDDはおよそ850MB。多少余裕を見て1GB消費したとしても容量的には問題はありません。

それよりも心配されるのは、WEBカメラが途中でウンともスンとも言わなくなる」とか「フレーム落ちが続出する」とか、過去何度も泣かされてきたトラブルに見舞われないかと言うことです。加えて、10月後半にはPCの電源が入らないというトラブルも発生し、成功するかどうかかなり怪しいものがあります。100%勝つと分かっているギャンブルにしか手を出さない自分の性格からして、確実性を狙うならデジカメで連続撮影していく方が無難と言えます。ですが、ここはあえてWEBカメラ撮影を実行することにしました。たまには博打に出ても良いじゃないですか。それが男気というものです。きっとキタロウもPCもその勇気に応えてくれるに違いありません。

 

 

 

 【二転三転して元の鞘】

 

 

日面通過まで2週間と迫った10月下旬。考えもしなかった事態が発生しました。

何と、EM200の電源が入らなくなったのです。「10月21日のバッテリー突然低下」、「謎のPCブラックアウト」に続く、電源トラブル第3弾ってやつですか。EM200は両軸完全電動で手動操作機構が全くないため、電源が入らなければ高倍率での日面通過撮影なんてとてもできません。

しかしここで修理に出してしまうと、戻ってくるまでには最低でも3週間近くはかかることが予想されます。それだと物理的に日面通過には間に合わないので、自分の手で何とか復旧させるべくあれこれ調べてみました。が、結局時間を浪費しただけで原因が特定できません。お手上げです。EM200修理行き決定!!あぁ、雪辱に燃えた日面通過はまたしても心眼で楽しむことになるのでしょうか。

 

いや、別にミザールの経緯台があるから、一応眼視観望だけならできるんです。だけど、できれば動画撮影だけはしておきたいなぁ・・・・・。

そうだ!!バイパーの架台があるじゃないか!!!

 

 

暗闇の中に一筋の光明が自分を照らした瞬間でした。考えてみればバイパーがあったんです。バイパーは自動追尾はできませんが、ジョイスティックレバーで任意の方向に望遠鏡を動かすことができます。これに防具76EDを載せてWEBカメラをつなげれば、ひょっとしたら撮影が可能になるかもしれません。早速物置にしまわれ、存在すら忘れかけていたバイパーの架台を引っ張り出してセッティングしてみます。初めてバイパーの架台を手に取って、そのチャチな作りに思わず苦笑。本当にこれで大丈夫か?

とりあえず、防具76EDを載せてみて動作確認してみました。

 

結論、コイツには荷が重すぎる!!

 

 

ジョイスティックを上方向に持って行ったところ、モーターはピーシャカシャカシャカとけたたましい音をがなり立てるんですが、対物側に重心が行きすぎているのか、全然頭が持ち上がりません。なんて非力なモーターなんだ!!防具はコンパクトな反面前後のバランスが取りにくく、普通にアイピースを付けただけでも完璧にバランスを取るのは至難の業です。いわんやこれにWEBカメラがくっついてくると大変なことになるのは容易に想像できます。果たしてその予想は当たり、WEBカメラをつなぐと今度は接眼部に重心が移って、上の方にカックン。ジョイスティックを下に下げても、ただただ「苦しいよぅ」とばかりにモーターがピーピー泣きを入れるだけで、防具は天を仰いだままなのでした。

やはりミザール経緯台に載せて眼視観望に徹せよということなのか・・・。

 

行き詰まって頭を抱えている自分のところに、修理に送ったEM200の状況報告が入ったのは、それから2日後の11月1日のことでした。

ショップからのメールを見てみると、「動いてますよ?」とのご回答。親切にも駆動ランプが付いている様子の写真まで添付してくれています。

はぁ?どういうこっちゃ。また、PCと同じオチですか。またアナザーワールドに引き込まれたとでも言うのでしょうか?

なんか完全におちょくられている気がしてなりませんが、しかし考え方を変えればこれは一打同点のチャンスです。修理の必要はなさそうですから、即返却してもらえれば日面通過には十分間に合います。万一こちらで動作しなかったときは、その時こそ諦めて眼視観望に徹すれば良いわけで、これ以上のチェックは依頼せず返却してもらうよう頼んだのでした(正直ショップの人にはすまなかったと思います)。

EM200は、送って1週間も経たない11月4日に戻ってきました。プチ旅行を楽しんで満足したのか、こちらの動作チェックでも全然問題ないことが分かり、二転三転した架台問題は結局当初の計画通りに進むことになりました。

 

さぁ、後は当日の日面通過を待つのみです。ばっち来―い!(でも何か起こりそうな予感!)

 

 

 

 

 【万全を期したはずが】

 

 

日面通過を明日に控え、前日の8日夜にベランダに機材をセッティングします。ベランダでメインとサブの望遠鏡を同架するってことは滅多にない(多分、引っ越してからは初めて)ことなので、極軸の方位修正には往生しました。というのも、三脚の脚を持って強引に左右に動かすので、上が重いとなかなか持ち上がらないし、力を入れすぎれば一気に倒れてしまう可能性もあり、繊細に力を込めるという一種相反する技が必要なのです。

1時間後に極軸調整・バランス調整含め全ての設置が完了しました。後は当日減光フィルターを望遠鏡にかぶせればokです。ただ、念のためカメラ類は外しておき、アイピースもしまっておきましょう。・・・・・・あれ?アイピースのキャップが1つないですね?んー、ベランダを行き来している間にどこかに置いたかな?・・・・まぁいいか。明日終わった後にゆっくり見つけますか(←ここポイント!!)。

 

9日の天気は晴れだそうですが、8日の夜はずいぶんと雲が出ていて怪しげな雰囲気が漂います。天文人の「晴れ」は一般の晴れよりも数段上のグレードを要求しますからね。何とか「真の晴れ」になってくれることを祈りつつ、眠りにつくこととします。

 

さて、朝が来ました。空を見ると、所々で雲がありますがまずまずのコンディションです。このままの状態が少なくとも9時半まで続いてくれれば、物理的トラブルに見舞われることがない限り、今日の成功は疑うべくもありません。イオをさっさと保育園に送り出し、7時半頃から最終のセッティングに入ります(既に太陽は出ていますが、ベランダからはまだ見えない時間帯です)。減光フィルターを被せてアイピース装着、ホタロンにはデジカメをコリメートアダプタで接続してカメラの電源を入れておきます。あとは、動画撮影用のキタロウとPCもベランダの一角でスタンバイさせておき、いつでもデジカメと交換できるようにしておきます。

8時前には今自分が考え得る全てのことはやり終えました。準備万端!

嬉しいことに雲の量も少なくなってきています。イイヨイイヨー。

太陽が昇ってくる方向に向けられたホタロンと防具

望遠鏡の先にはマンション。太陽は矢印の所から出てきます

 

8時8分、予想よりも早く太陽がマンションから顔を出しました。まずは防具で太陽の様子を見てみます。中央付近は何もなくてのっぺらぼうですが、両端に黒点が見えていました。そのうちの1つはかなり大きく、周辺には白い粒状斑がびっしりと覆っています。水星はどこでしょう?・・・ありました。大黒点とは反対の、小さい黒点の近くに小さく丸い物体が浮かんでいます。一昨年の金星日面通過時の金星と比べると遙かに小さく、針でつついた穴にすぎない大きさですが、久しぶりに見る水星に思わず感動です。・・・いやいや魅入ってばかりはいられません。撮影も進めないと。おそらくデジカメの液晶にはピンぼけの太陽がぼんやり白く映し出されているはずです。ピントを合わせて水星を探して撮影・・・あれ?真っ暗じゃん。おかしいな、太陽が入ってないのか?

一度カメラを外して、アイピースから太陽を見てみます。ありますね?中央にどんぴしゃです。しかし液晶には何も映りません。何と奇っ怪な!

もしかしてプレビューモードになってない?→パラメータ数値が表示されているのでちゃんと動作しているようです。

デジカメのズームを効かせすぎているのか?→ズームを切り替えても何の変化もありません。

拡大しすぎて暗くなったか?→低倍率のアイピースに変えても真っ暗なままです。

 

左:全体写真

右:水星部分を

  トリミング

 

11月9日

8時14分撮影

 

おかしい。いつものコリメート撮影をしているはずなのに、どこをミスっているんだろう・・・。アダプタごとデジカメを外して悩んでいると、変なことに気づきました。望遠鏡から外しているというのに、液晶には何も映ってないんです。周りはこんなに明るいから、プレビューが真っ暗なんてあり得ません。あれ?キャップしたまま取り付けたのか?いや、アダプタにデジカメを付けるためにはレンズキャップを外さないといけないし・・・、と思いつつアダプタの入口側からデジカメのレンズをのぞいてみると、うわっ!アイピースのキャップがアダプタにはまりこんでいるじゃないか!昨日探してみつからなかったキャップが完全にレンズを塞いでます。こりゃ見えるモノも見えやしませんって。どうも、昨日のセッティングでキャップをしたままアダプタを取り付けたために、キャップがアダプタの内面に食い込んでしまったようです(記憶が定かではなくて)。すぐさまキャップを取り出してデジカメを再セット。おお、今度はモニタに映し出されました。ひとまず安心するも、これでロスした時間は5分近く。限られた短い時間の中でのこんなチョンボは痛いです。

 

気を取り直し、ここからは撮影に観望にと、とにかく撮るべし見るべし撮るべし見るべしで、大忙しになりました。撮影間隔を10分ごとに取れば少しは余裕があるかな、と思ったのですが、どうしてどうして。太陽が出た途端、雲がわらわらとわいてくるものだから、太陽が出ているうちに少しでも見たり撮影しておかないといけません。特に撮影の方は全景写真と拡大写真を交互にやりましたので、太陽が雲間から姿を現している間は午後の食堂並みに大変です。

しかし、時間の経過とともに雲の量が多くなってきて、だんだんとスタンバイする時間の方が長くなってきました。雲がやってくる方角を見ると、ますます大きな雲が控えています。そろそろ太陽の縁に水星がさしかかる時間になってきているのに、いやな予感がしてきました。

 

 

 

 

【またしても接触拝めず】

 

8時55分頃の撮影を最後に、デジカメからWEBカメラに切り替えます。本当は、ぎりぎりまでデジカメ撮影したかったのですが、WEBカメラでの動画撮影はぶっつけ本番ということで設定に手間取ることが予想されましたし、雲が全然とぎれず水星の場所を特定するのにも時間がかかりそうだったためです。この判断はピタリとはまって、やっと準備が終わったのが9時5分頃。太陽の縁に接触するまで3分ちょっとしか残っていませんでした。

それにしてもこの雲の多さは何ですか?厚みを帯びて西から東へどんどん流れ込んできます。モニタ上に映っている水星は見えたり消えたりを繰り返しています。雲の流れ具合から接触時刻の9時8分頃の状態を予想しても、今とそうそう変わりはなさそうです。これはもう今のうちから動画を撮っておかないと、最悪の場合動画による記録が残らない可能性があります。4分ほどの撮影だったらHDD消費量は大目に見ても2GB内に収まり、まだまだ余裕はあります。

意を決して、9時6分30秒頃に本番撮影を開始。願うは、水星が出て行く様子が見られること、そしてPCが何事もなく仕事してくれることです。頼んます!!

 

9時7分00秒、10秒、20秒・・・雲が絶え間なく流れる中、かろうじて水星が太陽の縁に近づいている様子が見えています。7分30秒、40秒・・・撮影から1分が経ちました。あと1分後に接触するはずです。もうちょっと粘ってくれ。7分50秒、一瞬真っ黒に覆われましたがまた出てきました。よし、がんばれ。雲、こっちに来んな。そう願った途端の8分00秒、パッとモニタ上から水星が消え去り一面真っ黒。うっと思って空を見ると、分厚い巨大雲が完全に太陽を覆ってしまいました。8分20秒、30秒、40秒・・・あぁ、水星が太陽に接触する時刻になりました。PCは真っ黒な画面を記録しているだけです。

 

このときの自分の心境はまさにこれ

 

 

9分、10分・・・水星の「す」の字も現れない真っ黒な画面を、キタロウはいたって快調に記録しています。自分の男気にPCもキタロウも応えてくれているんです。しかしこれが逆に悲哀感を増幅するとは何という皮肉。9時10分40秒、おそらく水星は太陽から完全に離脱し、今回の日面通過は終了しました。これ以上は撮影しても意味がないので動画記録終了。結局、またしても接触の様子は見ることができませんでした。動画を再生すると、撮影時間4分のうち半分以上は真っ黒です。デジカメ撮影はうまく行ったと思いますが、リベンジ成功とは言い難い結末でした。

 

                                 ↓9時6分30秒から10秒おきの様子です。

以下

終  了

 

でもさ、最初のトラブルから考えれば、見ることができただけいいじゃない。そりゃ出て行く様子はだめだったけどさ、通過している様子は見たし撮ったし。そうだよ、それなりの成果は出たんだから、ヨシとしなくちゃ。ヨシとしよう、ヨシと。そう、ヨシと、ちゃんと撮れたし・・・・・・・。

 

でもやっぱり悔しいと思います

 

26年後みてろよ

 

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