火星食ミッション2007

 

                 

 

 

 

                         【今回は土曜日ですから】

  

4月14日は、火星が月に隠される火星食が起こりました。これは昨年末に天文年鑑を買ってからチェックしていた現象でした。自分が以前に見た火星食はたしか1986年の7月の時。万年干支男の自分は今年も24歳ですから、かれこれ3歳の時になります(書いてて空しく感じます、ハイ)。このときは、宵の時間帯に大接近直後のすごく大きな火星が満月近く(あるいは満月だったか)の月に隠されるという、おそらく一生に一度あるかないかの最高の現象でした。今回の火星食は、視直径が5秒ちょっと→非常に小さい、月は月齢26→非常に細い、起こる時間帯は白昼→非常に見えづらい、と褒めるべき点が見つからないという、1986年の火星食と比べれば見応えがなさそうなイベントです。

しかし、望遠鏡を使えば一応観望可能ですし、昼間に火星を見たことは今までなかったので、どこまで見えるものなのか興味があります。「Webカメラで写せばもしかしたら大シルチスぐらいなら見えるんじゃないかなー」と、火星の模様以上の淡い期待もよぎります(注: 火星食が起こる時間帯には大シルチスは出ていないようでした)。それに、6月に控えている白昼の土星食に向けて格好の練習台にもなります。そう考えると、やはりこのイベントは逃すわけにはいかないでしょう。昔の感動の一端を味わうべく、ここにミッションを立ち上げたのでした。

 

 

 

 

今回の火星食はイベント的には大変注目度の低い現象ですが、あえて賞賛すべき点があるとしたら土曜日に起こることでしょう。ここ最近展開した白昼の観望ミッションはいずれも平日で、会社に休暇届を出しての作戦だったのですが、神様はそういう自分の過剰とも言える熱意を良しとしなかったのか、雲を引っ張り出したり、雨を降らせたりでろくな結果に終わりませんでした。

でもこの日は後ろめたい気持ちで観望に臨む必要がありません。週間天気は毎日毎日「14日は雨マーク」を連発しますが、冷静に考えれば神様が雲を呼び起こす理由はなく、きっと自分のやる気を試しているのだろうと思われます。ここはただただモチベーションの維持を図り、当日抜かりなく作戦を遂行できるように入念な計画を立てるに限ります。

ところで、休日の現象は大変良いことなんですが、難点は保育園もお休みと言うことで、イオのちょっかいが厄介です。おそらくベランダにやってきては、「自分の相手をしろ」とドンガドンガと跳ね回り、ともすれば機材に体当たりするかもしれません。これでは十中八九観望どころではなくなることは容易に想像できます。願わくば実家で少しの間面倒見てもらいたいところですが、生憎両方の実家とも所用で預けられませんで、苦肉の策として母ちゃんと歯医者さんに行ってもらうことで協力を仰いだのでした(報酬はショートケーキ)。

これでとりあえず観望のための下地は出来上がりです。

 

 

 

 

【雨が降っても片づけません】

 

 

では具体的な観望の計画に入ります。

観望とは言っても、昨年の水星日面通過の時と同様、ホタロンにWebカメラをつないでの動画記録がメインとなります。PCはVAIOがいいでしょう。これならフレーム落ちとかPCフリーズする確率が限りなく低く抑えられると思います。

観望場所は、月が南に低いことから必然的にベランダになります。火星食が起こる時間は、福岡で潜入が大体11時10分前後、出現時刻が12時16分ぐらい。この時間帯は月・火星とも南中をすぎたぐらいでまだまだ高く、隣家の影に隠される心配はありません。

 

次にどうやって月(あるいは火星)を見つけるかです。この日の月齢は26。これは2003年5月の金星食のときとほぼ同じ月齢です。あの時は輝度が高かった金星の方が先に見つかり、月の存在が分かったのは食が始まるまさに直前のことでした。火星の光度は1等級で金星よりもかなり暗く、自分の眼力では探しあてることはほぼ不可能です。それを考えると月も火星も日中に探すのは至難の業で、日の出の前から月か火星を導入しておき、延々と追尾させておく必要がありそうです。

ということで、極軸もそれなりに合わせなければなりません。できれば、1時間近く追尾してもモニタ外に火星が出て行かないぐらいに追い込めれば理想的ですが、例えば10分とか20分とかで星がモニタ上でどれだけずれるかを事前に把握しておけば、その時間毎に修正をかけていくことで何とかモニタ内に収められると思います。これぞ名付けて星ズレメトカーフガイド!

幸いにもこの週は比較的晴れの日に恵まれたので、木星撮影を通してズレの量を確認し、10分に一回ほんのちょっと北方向に修正をかければ、月の裏側を通過中の火星を何とか追尾してくれそうだと分かりました。

 

このセッティングは火星食が終わるまでは解除厳禁です。雨が降ったとしても架台だけは片づけてはいけません。普段蝶よ花よの扱いを受けているEM200(??)に取っては、どしゃ降りの刑はなかなか過酷な話です。ブルーシート+ビニールシートで雨対策を施すとしても、電装系統が故障しないかやはり心配です。できれば雨が降ることなくこの週を乗り切ってもらいたいものです。

 

 

 

 

【本番まで暇なし!】

 

 

さぁ、準備は整いました。あとは神様がしっかり微笑んでくれるかどうかです。

週間天気の方は、14日の天気は水曜日までは「雨」予報でしたが、木曜日には「曇り時々晴れ」、そして金曜日には一転して「晴れ」に変わりました。何という逆転劇。やはり休暇届の恨みは相当なものだったのでしょうか。

実際の天気は、金曜日の午前に雨が降った程度で夕方からは薄日が射し、夜には晴れ間も見えるようになりました。心配された架台の雨対策も問題なく、三脚の脚もとがやや湿った程度でした。

これはネタゼロの予感!!

 

未明には久しぶりにホタロンで木星を撮影&観望し、6時前にマンションの影から細い月が出てきたので、当初の計画通り火星食が始まるまで月を追尾させておくことにします。これであとは10時半ぐらいまで放ったらかしにしておいていいでしょう。さぁさぁイオさん、歯医者に行くまで父ちゃんと遊んどきましょうか。・・・・・・いや待て、最初のうちはちゃんと追尾しているか確認しておいた方がいいかな?30分後にもう一度アイピースをのぞいて見ます。

 

月が見えない!?

 

 

驚くべき事に(?)中心に導入していたはずの月が視野の外に逃げています。バカな!木星撮影の時はちゃんと追尾していたはずなのに?

 

   *もしかして、無意識のうちに三脚を蹴った?(いや、そんな覚えはないぞ!)  

   *よく思い出せ(いや、ぜんぜん記憶にございません)  

   *本当は蹴ったんじゃないのか?(それなら蹴った瞬間にショックを受けるだろ?)  

   *絶対蹴ってるって!(そうかもなぁ←なんという弱気)

 

・・・・・と、頭の中で2つの人格が押し問答を延々と。冷静な第3の人格が月の固有運動のことをささやきかけるまで結構時間がかかりました。

 

月を自動追尾中のホタロン+EM200

 

 

月の固有運動で視野から外れていくとなると、こまめに視野内に戻す作業をしないといけませんが、こっちばかりにかかりっきりになると、イオから強力なクレームが入ってきます。イオが歯医者に行くまでの間、10分おきに遊んでは「ちょっと父ちゃん仕事してくるけんな」「ちょっと父ちゃんトイレ行ってくるけん」「ちょっと父ちゃんオモチャば持ってくるバイ」と、ごまかしごまかし途中退場を入れる羽目になってしまいました。全然暇無し!

 

 

 

【我 潜入撮影に成功せり】

 

10時半、イオが歯医者に行ってようやく腰を据えて撮影体勢に入ることができました。直前にステラナビゲータで月と火星の位置関係を調べたところ、視野1度以内(その時望遠鏡で見ていた視野に相当)火星が来ていることが分かりました。

実際に見てみると、おおー、確かにオレンジ色の光点が月のすぐ近くに輝いていますよ。60倍と低倍率ながら面積を持った円盤状の天体だと言うことが分かります。想像していたよりも見やすいです。ただ、ファインダーではやっぱり分かりませんで、日中に導入することは自分の力ではできないと痛感しました。

初めて日中に火星を見た喜びもそこそこに、Webカメラをつないでモニタ内に火星を導入する作業に入ります。これがなかなか難儀しました。拡大率が上がると一気に火星がバックに埋没してしまって、ピントが合っているのか合ってないのか、それ以前にモニタ内にいるのかいないのか見当が付かないのです。ドローチューブを前後させ、かつ少しずつ視野を移動させながら、バックの色と僅かに違う箇所を探します。

10数分間格闘して、やっとこさ火星がモニタの端っこに入ってきました。ここから慎重に慎重を重ねて中央に持っていきま・・・・グワッ!!ハイスピードのままだったわ。しかも逆方向に飛んでいって瞬時にいなくなってしまいました!!ここで焦ってはなりません。まずは最初の場所に戻して、そこから徐々に中央に持っていきます。

モニタ内の火星はものすごい脈動&ジャンプ振りで、シーイングが相当悪いことを伺わせます。ボヤッとすると完全にバックに埋もれて、コントラストの「コ」の字もありません。こんな状態ですので、本体が見えただけでも満足すべきであり、「大シルチスが見れるかも」なんて期待はする方が無理というものでした(しつこいですが、この時間帯には大シルチスはみえません)。

 

時刻は11時前、画面の片隅にバックとは色合いの異なる薄茶色の物体が表れました。月です。思った以上に近づくスピードが速く、初めて月が動いているという実感を持ちました。この分だと予想よりも早く11時過ぎぐらいには火星が食われそうです。潜入するまで何枚か試写するつもりでいましたが、1枚目の試写を終わった時点でバタバタと本番。11時2分ジャストに記録を開始しました。頼むから雲は来ないで下さい!

 

11時に撮影した火星と月

 

中央に火星、左上に月が見えます。画像処理をして火星のコントラストを強めてみました。

 

撮影機材: ホタロン+EM200

アイピース: PL17mm

カメラ:    ToUcam Pro

露出:    1/500秒 15fps 60秒間記録の中の1コマ

 

 

 

2分10秒、15秒・・・着実に月が火星に近づいていきます。火星はボヤッボヤッと頻繁に拡散してバックに埋もれますが、幸い雲に隠れることはなさそうです。よーしよし。

30秒、35秒・・・火星のトビがひどくて、一瞬月の縁にかかったようにも見える場面が頻発します。これじゃ第1接触の時刻は正確に計るのもかなり難しそうです。

50秒、55秒・・・この辺りで火星が縁に接触したっぽいです。10秒程度の現象と言うことであっという間に隠れるかと思いましたが、時間がゆっくり流れているかのようにジワリジワリと潜入しています。たまーに、ピョコンと出てきているシーンが見受けられるのはシーイングのせい??

3分0秒、3分5秒・・・・この頃に火星が完全に月に隠されました。所要時間はやっぱり10秒から12秒でした。思ったよりも見応えのある食現象で、終わった後もしばらくは興奮で胸がドキドキしていました。

 

動画の方も薄いながらしっかりと記録されていることが分かり、まずは潜入撮影は大成功。いよっし、この調子で出現もバッチリ撮って、久しぶりにお祝いチャンポンを食したいものです(食の様子はこちらから)。

 

 

 

【我 出現撮影は撃沈す】

 

 

潜入撮影の余韻に浸りながらも、次の出現の撮影に向けて少し予習をしておきます。ステラナビゲータで調べたところ、出現時刻は12時15分前後と、こちらは福岡の時刻とそう変わらないタイミングです。一応、早めにスタンバイしておき、試写を繰り返していつ出現しても記録されるようにしておいた方がいいでしょう。

 

 

 

撮影の合間に撮ったドラゴンのような雲

 

 

ということで、12時5分ぐらいから撮影を始めて(1回の記録時間は約2分ぐらい)、いきなりの出現にも万全の体勢を整えます。

12時5分、7分・・・・モニタ内にはまだまだ火星らしき像は見られません。

9分、11分・・・・そろそろ出現する時刻になってきましたが、まだ出てきていないようです。次の撮影では記録時間をエンドレスにして撮ってみます。

13分・・・記録開始

14分・・・まだのようですね。

15分・・・いよいよ出現予定時刻にさしかかりました。さあさあいつでもかかってきなさい!!

16分・・・あれ?まだ出てきませんか。おかしいな。

17分・・・んー?出ないなぁ。もう福岡では出ている時刻なんですが。

18分・・・(沈黙)

19分・・・これはいくら何でもおかしい。もしかしてモニタから外れてしまったか?いや、もうちょっと・・・。

20分・・・見えない見えない見えなーーーーい!!失敗かっーーーー! → 記録停止

 

予定時刻を5分過ぎても火星らしき像が見当たりません。空は雲一つ無い快晴で、かき消されたわけではなさそう。どこかでずれが生じてモニタから外れたのでしょうか。

Webカメラを外して火星が出現したのかどうか見てみることにしました。ところが、眼視でも火星の姿が見えなかったのです。バックがものすごく明るくて、潜入前はそれなりに見えていた月もかすかにしか見えません。察するにバックに埋没してしまって確認できない状態に陥ってしまったか?ならば、動画にはほんのかすかに写った可能性もあります。もう一度見てみましょう・・・・。

さっぱり分からーーーーん!! \(@Ш@)/

 

だめじゃ。これはもう見切りを付けた方が得策と、断腸の思いでファイルを削除。「出現の観測に失敗した」という記録は永久に抹消されました。できれば自分の脳裏からも抹消したいです。

いやはや出現の観測って本当に難しいですね。6月の土星食へ弾みを付けるには今ひとつの結果でした。

 

 

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