甦る?小さな古赤道儀

                  

 

 

 

                            【心の準備ができてません】

 

オークションに、とある旧い赤道儀が出品されていました。一昔前に一時代を築いたアストロ光学のLNという赤道儀です。アストロ光学と言えば堅牢なマウントMEGAが有名で、某ショップの店長をして「この赤道儀はとてもよかっち」と唸らせていたのが今でも記憶に残っています。LNはMEGAの小型版みたいなもので、当時のミザールARシリーズとか、ビクセンのポラリス、タカハシで言えばP型と競合する架台でした(と思います)。

アストロ光学の製品は結局扱う機会はありませんでしたが、天文ガイドの広告に載っていた、MEGAに載ったコバルトブルーの175mm反射望遠鏡のセットはまさに憧れの君みたいな存在でした。

ところが、そんな甘酸っぱいノスタルジックな思い出に浸るだけならよかったのですが、「さてこのLN赤道儀、自分が値を付けるとしたらいくらぐらいかな?」と、変な考えを持ってしまったのがいけませんでした。

 

オークションには当時のカタログの切れ端みたいなものが掲載されていて、そこには販売価格が記載されていました。それによれば三脚を含まない架台のみの価格で56000円。ビクセンのポラリスだったらいいとこ5000円ぐらいでの取引だけど、アストロと言えばマニアには結構評価の高そうなメーカだから、相場も高いだろうな。三脚付きなのでおそらく20000円は下らんでしょう。ただ、モータードライブがないので16000円ぐらいか。ならばもし自分が13000円ぐらいでゲットできれば結構お買い得かもしれないな・・・・・(以上自己分析終了)・・・・・・・・・。

 

それほど気合いも入れずに13000円で入札。自分の予想としては16000円前後で落札されるはずですので、まず自分が落札することはないでしょう。そういう風に軽く考えて成り行きを見守っていましたら

落札したよ?!!

 

これを買ってどう扱おうかとか、どこに置こうかとか全く考えていなかったので、思わぬ展開に頭の中が真っ白になってしまいました。具体的な使用イメージも湧かないまま、相手方との話はトントン拍子で進み、落札して3日後に我が実家にLNが届いたのでした。

 

 

 

 

【モーターが付いてくれれば】

 

到着したLNを開梱すると、小さい箱の中に絶妙な配置で本体、三脚、バランスウェイト云々が収められています。本体を手に取ってみると、小さいにもかかわらずズシリと重みがあるのにビックリしました。ビクセンのニューポラリス赤道儀はもうちょっとこう軽かったような気がするんですが、こちらは見た目以上に重量があります。三脚はもっと仰々しくて、でっかい石突きが目を引きます。本体よりも一回りサイズが大きく、EM200を載せても遜色ないほど。本体を載せたら下半身にボリュームが感じられるちょっとアンバランスな外観ですが、どっしりした安定感を印象づけます。

 

それにしても、クランプを締めると赤緯、赤径軸がびくともしないのにはびっくりです。クランプを締めても軽々と回すことの出来たニューポラリスを扱っていた身としては、その昔タカハシのEM−1を扱わせてもらった時以来の感動です。目を閉じれば、EM−1のクランプの強さに驚愕したあの日の出来事が、まるで昨日のように思い起こされます↓。

 

  Y−da: 「せ、船長っ!!船長っ!!」

  船長っ: 「何や、どうしたんや」

  Y−da: 「こ、このEM−1さ、クランプ締めたら鏡筒が全然動かんぞ。

めっちゃスゴかなぁ!」

  船長っ: 「(-ω-;)・・・・・・普通クランプ締めたら動いたらいけんやろう」

  Y−da: 「えー?でもオレのニューポラリスはちゃんと動くぞ?」

  船長っ: 「(゜ω゜)・・・・・・お前の赤道儀は素晴らしいっ!!」

 

組み上げてみると、小さいながらもしっかりとした造りでガタはなく、両軸の動きもスムーズです。アストロが標榜する「搭載重量20kg」はさすがに眉唾ものですが、ホタロンぐらいなら載せられそうな気がします。となれば、ホタロンでの惑星撮影も並行して出来るのではないか、という期待が膨らんできます。あるいはちょっと欲を出して、出張り先ではホタロンをLNに載せて直焦撮影、WB25はEM200に積載して惑星撮影という独立したシステムも組めたら最高です。

ただ、そのためにはLNにモータードライブを付ける必要があります。今回の品物にはモータードライブは付属してなかったので、どこかの販売店に中古の専用モータードライブがないか探してみましたが見つけることは出来ませんでした。さてどうしたものか・・・。

 

 

 

 

【陽の目を見る古モーター】

 

そんな時、ニューポラリスを使っていた時に、なけなしのお金をはたいて買ったモータードライブ(MD−5)が頭に浮かびました。ニューポラリスの望遠鏡と架台は親戚に譲ったんですが、「親戚はおそらくお気軽観望しかしないだろう」と考えて、バランスウェイトとかモータードライブはあえて残しておいたのでした。多分実家を探せば見つかるはずです。ということで実家に行ってタンスやら何やらを探してみました。

 

あるある!ありましたよ!バッテリーはありませんでしたが、モーターにコントロールボックス、電源コードはちゃんと残っていました。

ニューポラリスとLNの赤径ウォームギヤの歯数が同じかどうかはこの際置いといて、まずはモーターがちゃんと動作するかどうか確認しないといけません。何しろ15年以上も眠っていた品ですから。えーと、

電圧仕様を忘れてしまった・・・・

 

何か「6」という数字だけ覚えているんですが、これが「乾電池6本」だったか「6Vバッテリーで動かしていた」のか判然としません。手元の12Vバッテリーでは、過電圧で壊してしまうのではないかという心配があります。

 

 

ネットで調べても具体的な仕様が分からず、結局ビクセンに問い合わせてみました。ビクセンの方からは即日回答があり(早い早い)、標準9Vで駆動範囲は6.5V12Vと言うこと。それなら12Vバッテリーで動かせます。早速電源コードをバッテリーにつないで、コントロールコードをモーターに接続して、電源スイッチをONします。

カタカタカタカタカタ・・・・

 

ここでネタを期待していた皆さん、すみません。ちゃんと動いてくれました。モーターの駆動音が心持ち大きいような気がしますが、2倍速、8倍速、停止とも問題なく機能しました。ひとまず最初のハードルはクリアできました。

 

次に取り付けです。モーターの軸はカップリングを介してLNの赤径ハンドル軸に直結させますが、カップリング径とハンドル軸径がうまく適合するでしょうか・・・・。くくくっ、かなりギチギチですが何とか入りそう。ここは無理矢理ねじ込んでみます。ぬおおおおおおおおおお(中略)おおおおお・・・・・!!

 

渾身の力を込めてやっとこさ入りました。が、今度は抜けません。とぉりゃぁあぁあぁあぁぁぁ(中略)ぁぁぁ・・・・・・・!!!

 

数分間の格闘の末やっと抜けました。・・・いやいや、抜いてはいけなかったんだ。取り付け方法を計画するんだった。もう一度差し込みです。

ぬおおおおおおお・・・・お?

 

今度は割とあっさり入りましたね。グリグリしている間に軸がこすれたのか、はたまた長年のさびが取れてクリアランスが取れたのか。

 

モーターとLN本体は、アングルとステーを組み合わせて取り付けることにします。測定した寸法に極力適合する金具をホームセンターで買ってきて組み上げました。ちょっとはみ出し部分があったりしますが、固定に問題はなさそうです。念のためモーターを駆動させて、金具にねじれが出ないかチェックしてみましょう。・・・・・

よしよし!ここでもネタが出ませんでした(イイヨイイヨー)。我が運勢上昇傾向にあり、です。

モータードライブを直結させたために微動ハンドルでの操作はできませんが、長年手で動かしてませんから気にはなりません。LNをモーター駆動させることに関してはひとまず目処が立ちました。

 

 

 

 

 

 

【待てど暮らせど】

 

とりあえずモーターが取り付いて自動追尾できる環境は整いました。アストロに聞いたところ、LNの赤径側ウォームギヤの歯数はニューポラリスと同じ144枚ということだったので、モーターを改造することなくそのまま使えると分かりホッとしました。あとは実際に鏡筒を載せてみて、「モーターの駆動力に問題ないか」とか「振動が出ないか」とかの確認をすることになります。・・・が、その前に鏡筒を載せる方法をひねらないといけませんでした。写真の通り鏡筒の台座に汎用性がありません。鏡筒はアリガタアリミゾで脱着を容易にしたいものです。

ということで、アルミプレートでアタッチメントを作って台座に取り付けることとします。

 

 

アルミプレートの製作は、以前WB25をEM200に積載するときに製作依頼した光映舎に再びお願いすることにしました。経験上ここが一番安いコストで仕上げてくれます。難点を言えば、メール連絡ではなかなか返事が来ませんし、メール確認後のレスも遅いことですが、なぁにS社を経験していれば多少のことでは動じません。前回と同じく設計図をチャチャッと作ってメールで見積依頼をしました。

それから2日が経過。予想通りまだ返事が来ません。こりゃやっぱり電話で一報入れといた方がいいみたいです。

 

  Y: 「もしもし。先日メールでプレートの見積依頼をしたY−daですが、見て頂けたでしょうか?」

  光: 「あぁ、いやいや、ちょっと外に出ていましてまだ見ていないんですよ。とりあえず今日見て夜にはご連絡致しますので。」

 

それから4日経ちました。まだメール来ません。ええいくそ、もう1回入れてみるか。

 

  Y: 「もしもし。先日電話で連絡しましたY−daですが、見積の件いかがでしょうか。」

  光: 「あぁ、いや実は忙しくてちょっとしか見ていなかったんですよ。今日の夜にはお見積もり連絡致します。」

 

そして2日経ちました。やっぱり連絡来ていません。うーーん、、もう1回入れた方がいいのかなぁ。

逡巡していたらこちらの思いが伝わったのでしょうか、ようやくメールが来ました。見積を見てみると、プレート、キリ穴4つ、ネジ穴2つで送料込み3587円。大体想定していた値段なのでこちらは即座に製作依頼&振り込み完了。依頼から着手に至るまで1週間近くを要しました。急ぎの場合は、ここはちょっとお薦めできません、ハイ。

納期は大体10日ということで気長に待つこと2週間。最初のメールを流してからほぼ3週間でやっとアルミプレートが届きました。仕上げはあまりきれいではありませんが、安いし見た目は大して重要ではないですから特に問題はありません。それよりも早速LNに取り付けてみましょう。うまく付くかな?

 

おお!ぴったりですよ。まさに自分が予想していたとおりの取り付け状況です。いやぁ、順調に事が運んでいるじゃないですか。本当に今は運勢が上向きなのかもしれませんよ。

これは早くホタロンを載っけて全体の搭載イメージを見てみたいところです。しかし、この日は時間が遅いこともあって、鏡筒を載せることは見合わせました。

その代わり、アリガタプレートをはめ込んで、鏡筒の脱着がスムーズに行くものか念のため確認しておこうと思います。そしたら・・・

 

プレートとキャップボルトの頭が干渉して嵌りません! ><;

 

ぬはーっ!ここに来てY−daスタイル炸裂ですか!やっぱり1つはネタを作らないと気が済みませんか。プレートの左上だけ微妙にクリアランスがなくて、アリミゾにぴたりと嵌りませんでした。

しかたなく、干渉する部分だけボルトのサイズを一廻り小さいものに変え、プレートをはめ込むことにします。ちょっとかっこ悪いですけど、見た目は大して重要ではないですから。

(その実トホホと思っている自分がいる・・・。)

 

まっ、とりあえずこれでホタロンを載せるところまで来ました。次は晴れた日を見計らって、赤道儀に鏡筒を載せてみて極軸のセッティングやら、モーターの追尾状況やらを確認してみたいと思います。さぁ、いよいよ甦る瞬間が刻一刻と近づいてきました(?)

 

 

 

 

 

【古赤道儀甦るか?】

 

 

梅雨の時期を迎えたのでLNの初運転はしばらく先かなーと考えていたら、そういうときに限って天気がいい日が続きます(いっそのこと毎日考えてみるか?)。これはチャンスです。

平日は木星撮影との兼ね合いでじっくり扱うことが出来ませんが、ドラえもんの絵描き歌にも出てくる6月6日、LNにホタロンを載っけて取り回しを確認してみました。

 

まずLNの組み立てです。やっぱりスピーディさにはかけます。三脚の取り付け穴は切りかきのため三脚を開く途中でうっかり脱落しそうになりますし、三角板の取り付けはベロにネジ止めで手間を食いますし、高度調整と調整後のクランプはいずれも工具が必要ですし、後で述べる極軸のセッティングは前もって北極星の時角を求めておかないといけません。本体が軽いので億劫に感じることはありませんが、組み立て・セッティングに要する時間はEM200の倍近くかかりました。

 

鏡筒の積載はアリガタ・アリミゾにしましたのでパッと行えます。ホタロンを載せてみましたが、架台が貧弱に感じることはなく適正積載の範囲にあると思います。実際LN本体にガタツキはありません。赤径・赤緯軸のクランプもがっちり決まりますし、強度的にはビクセンのGPDクラスにもそうひけは取らないだろうと感じました。

ただ元々のナリが小さいので、風には弱いと思います。また鏡筒に横方向の加重をかけると三脚台座部分で若干のぐらつきがあったので、直焦撮影するにはここの強度アップは不可欠です。

赤径・赤緯軸のクランプフリー時の回転はやや固めです(特に赤径軸)。ちょっとアンバランスしている程度では動きませんので、微妙なバランス取りをするときには難儀します。

ちなみに、LNに付いてきたバランスウェイトは3kgでしたが、ホタロンを載せるときにはウェイト不足のため、EM200で使用している5kgウェイトを流用しています。ウェイトの穴がφ18mmなのに対してウェイト軸がφ15mmと細く、軸と穴に隙間ができてぐらつくのが悩みの種です。

 

さて、組み立てが終わると次に極軸のセッティングです。ここでEM200の場合を先に説明すると、EM200では日付と時刻を合わせるとその時の北極星の位置が分かるようなパターンになっています(下図の左)。北極星の導入に当たっては、パターン内に記されている導入場所に持ってくるだけでOK。

LNでは、十字線と2重のサークル、そしてサークルの外周に刻み線があるだけという殺伐としたパターンが組み込まれています(下図の中央)。二重サークル内に北極星を持ってくるんでしょうが、え・・・と、どの位置に北極星を導入するんでしょうか??

実は、導入する前に北極星の位置をはじき出さないといけないのでした。いわゆる「時角を計算する」ってやつです。いろんなサイトを見て回って、例えばこちらのサイト(メインページの一番下「極軸設定方法」から参照できます)には詳しい説明があるのですが、えー?こんな面倒な計算を毎回やらないといけないの?

 

いやいや、いちいち面倒な計算をしなくても星座早見感覚で当日その時刻の北極星の位置を推算するツールがあるんです。それがミザールの北極星指示盤で、スターベースで700円で販売されていることが分かりました。

700円とは安い。これを買うかな。・・・と購入に踏み切ろうとしたその時、同じスターベースで手作り早見版がフリーで配布されていることが分かりました(メインページの「物置小屋」で紹介されています)。時角計算タイプを採用していた昔のタカハシ赤道儀を使っている人用に配布されている物でしょうか。ざっくりだったらこれでも十分です。よし、ダウンロードしてチャチャッと作ってみます(出来上がったのが上図の右です)。

 

使い方はEM200でやっている内容とほぼ同じで、日付と時間を合わせて歳差補正をすれば、その時の北極星の位置が簡単に分かるというもの。あとは、LNの実際のサークルの同じ場所に持ってくれば良いわけです。とは言っても、正確に合わせるにはそれなりの練度が必要のようです。またパターンの歳差対応が切れていることも考えられます。となれば、極望である程度セッティングして、後は星のズレを見て追い込んでいく方法が現実的かと思います。いずれにしても極軸セッティングのプロセスは、早見盤のおかげで大分短縮できます。

セッティングが終わればいよいよ星の導入です。今回は追尾精度を見るところまでが目的なので、そこら辺にある適当な明るい星を導入します。導入したらモータードライブのスイッチオン、はたしてうまく追尾してくれるか(ドキドキ)。

 

!視野中央からドンドン離れていきますよーー!!

 

・・・おぅ!モーターを逆回転させていました。正転させるとしっかりと追尾してくれました。このモーターを使うの本当に久しぶりだったからなぁ。

 

追尾時の振動は150倍程度では見受けられませんでした。後日300倍ぐらいで確認してみることにします。

気になるピリオディックモーションの方は、この後の木星撮影が迫っていたため中途半端になってしまいました。20分間監視していたんですが、どうも1周期していないようで片方向だけの変位となりました。長時間の確認はまたの機会に回すとして、20分間での変位量は約25秒程度で、ちょっと大きめかなと思います。動き自体はジワーッとしていて急な突変はなく、修正はそんなに難しくなさそうです(?)

簡単ながら一通り試運転はうまくいきました。これまで防具とかバイパーとか小型の望遠鏡を載せるにはEM200は大きすぎでしたが、LNの登場でこういった小さなものもカバーできるようになったと思います。総額はLN本体13000円、送料1000円ぐらい、アタッチメントプレートが約3600円、その他小物で300円と合計18000円ぐらいになりましたが、元が取れるよう今後活躍させたいものです。

 

次なるステップはホタロンでの直焦撮影になるかと思います。これはまた機会を見てご報告・・・・できればいいですねぇ。

 

 

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