バースデー観望会

                                                                 

 

 

 

【プロローグ】

 

 

11月は自分の誕生月です。今年も1つ齢を重ねて24歳になりました。偽造・ねつ造・詐称に厳しい目が注がれるこのご時世、「Y−daよ、お前もか!!」と言われるであろうことは元より覚悟の上で、あえて24歳となったことをここでご報告させていただきます。思い起こせば・・・・いやいや強調したいことはこんなことではありません。

 

ここ半年近く、すっかり出張り観望会とご無沙汰しています。ともすれば「庭先で惑星撮影に興じるだけでも良いじゃないか」と思い始めている中にあって、それを思いとどまらせるような出来事がありました。それはもちろん、ちまたで世間を賑わせているホームズ彗星の大増光です。

この彗星、11月8日時点でもまだ肉眼彗星となっていて、コマの集光度も高いことから短時間の露出でも写真に収めることが出来る大変ありがたい彗星です。そのため、街灯がひしめく自宅の庭で撮影してもそれなりの写真を撮ることが出来ました。もちろん、自宅からでは尾までは写せる環境にはありませんが、地球と彗星の位置関係から尾は向こう側に伸びて見えないだろうと割り切っての撮影です。

ところが、コーチさんを初め、百戦錬磨の達人たちが公開されている写真にはたこ足のような、エイのようなイオンの尾が見事に写し出されています。これを見ると、自分も撮れないだろうかと思うのは実に自然な成り行きで、久しぶりの出張り観望に行ってみるかという気になりました。

 

そこに11月という自分の誕生月です。いつもなら出張りの前には「今日星見に行っても良いかな?」と上目遣いに申告している肩身の狭い自分も、この月だけは気楽に申告できます。そう、「俺の誕生日にケーキもプレゼントもいらない、ただ星見に行かせてくれればそれでいい。」---これでOK

お互いの損得勘定はピタリと決まり、晴れて11月9日に出張る運びとなりました。天気も晴れ。すでに自分の頭の中には、幾重にも張り巡らされたホームズ彗星の尾が写し出された光景が浮かんでいるのでした。

 

 

 

【ネタゼロ目指して】

 

ホームズ彗星の尾を写すとなると暗い場所に赴く必要があります。一番の候補は「船長っの場所」で、幸いにして、崖崩れを起こして通行不能となっていた西側ルートがいつの間にか復旧していて、行きなれた道(?)を通ることができるようになりました。開通再会記念を兼ねて出張り先は「船長っの場所」にします。

機材は、直焦撮影がメインとなりますからWB25はお休み。ホタロンとその他の機材を積み込んで10時前に出発し、現地へは11時ちょっと前に到着しました。

道中竹藪ゾーンを過ぎて以降、延々道の両端からススキが伸び放題で、車が1台ぎりぎり通れるかどうかの道幅になっていたのには閉口(命名「ススキノゾーン」)。まるで地獄の亡者が両脇から引きずり込もうとしているような感じがして、得も言われぬ不気味さを味わいました。

観望場所も、自分の背丈ほどもある丈の高い草がびっしり。草をかき分けるとそこから死体が・・・!?みたいなシーンを想像すると、それだけでドン引きしそうです。設置場所付近の草を踏んで踏んで平らにし、何とか視界を遮られない程度のエリアを確保。パッパッと機材を組み上げて極軸の微調整を行います。が、下は暗闇では見えない草がひしめいていて、なかなか三脚がしっかり固定できません。時間が経過すると三脚が沈んで、極軸が狂ってしまうのでした。三脚を固定し直してはセッティングのやり直しを何度か繰り返し、ほぼ満足のいく追い込みができたのは、セッティングを始めてから1時間後の12時近くになった頃でした。

 

さて、出張り観望に来たならば、一晩を通じての目標を掲げておきましょう。目標と言えばやっぱり恒例のネタゼロ達成に限ります。毎回毎回「ネタゼロ」を掲げてもいつも滑ってしまい、皆さんからは「ゼロゼロ詐欺ではないか」と言われかねないこの状況、何とか打破したいものです。

自分がいつも泣かされる(=皆さんには喜んで頂ける?)ネタの要因は、雲、電池切れ、ピンぼけ、ガイドミスのこの4つに尽きると思います。いかにこれらを排除するかで、本日の成果が大きく左右されます。

雲の襲来は、この日の天気を見る限りでは心配せずに済みそうです。

電池切れも、対策として12Vバッテリーからカメラ電源を取る変換装置(S社製)を購入。カメラ用バッテリーが切れても最後の砦は万全です。

ピンぼけに対しては、連日自宅からホームズ彗星の撮影を繰り返したおかげで、ピント出しがほぼ確実に行えるようになりました。「ピンぼけ王」は今は昔の話になりつつあります。

唯一不安があるとすればガイドミス。この日は風があって、入魂のタッチガイドにも影響がありそうな強さですが、上の3つを解消して上り調子の今、波に乗って切れ味鋭いガイドが出来そうな気がします。

 

 

 

 

【尾は写るか?】

 

今回の撮影プランで抑えておきたいツボは2つあります。1つはホームズ彗星の撮影で、尾が写ってくれれば御の字です。自宅の撮影においては、街灯の影響を受けないよう数秒〜数十秒のオーダーでの露出に止めていますが、今日はいつもの短時間露出に加えて、長めの露出もかけて尾の撮影に臨みます。

長時間モードでは単体3分で5枚撮影し、画像処理の段階で加算コンポを施す方法でトライしてみました。こうすることで、固有運動による彗星像の流れを抑えられるのではないかとの、行き当たりばったりの作戦です。

 

彗星をファインダーで見ると、月の半分くらいに広がった丸い雲状の彗星が周りの微光星に囲まれて輝いています。尾の存在は分かりませんでした。

ホタロンに50倍ほどをかけて見たら、視野内にたくさんの星が散りばめられて、それだけでも時間を忘れるほどの光景です。その微光星を包むように彗星のコマが白く広がり、南西側の輪郭がぼやけているのが分かります。中央の集光部分はらっきょのようなアーモンドのような感じでした。彗星らしい形になったと思います。

バースト間もない頃、見た瞬間にその存在が分かるほど目立っていた核は、彗星の物質に遮られているのか注視しないと分からないほどかすかです。あわよくば核ガイドしてもう少し露出をかけようかという狙いもありましたが、この分だと実行するのは難しいと思い諦めます。

 

眼視で楽しんだら撮影に入ります。ピント合わせも上々。まずピンぼけで泣くことはなさそうです。さ〜よな〜らピンぼけ王。

ホタロンを彗星に向け、「船長っオリジナル タイマーコントローラー」に露出時間(3分)と撮影枚数(5枚)を2進数でセットし、撮影を開始しました。あとはこの強風の中いかに入魂ガイドを行えるかにかかっています。ガイドアイピースではガイド星がひっきりなしに動いています。風のフェイントか、あるいはピリオディックエラーなのか次々に幻惑攻撃を繰り出してくる相手に対し、こちらは顔に感じる風の強さから星の動き具合を瞬時に図り、無視か修正か即座に判断して対抗。傍目には単にジッと座っているだけのように見えますが、実はものすごいスピードで(?)真剣勝負が繰り広げられていたのです。

1枚目のシャッターが上がったとき、我ながら半年のブランクを感じさせない集中力でガイドすることが出来たと握り拳1つ!それだけに

                               スイスイ流れまくりの写真に泣いた

 

テキトーなガイドをしていた方がいい結果につながりました。・・・・・・・orz

何とか所定の5枚を得ることが出来ました。プレビューで見たところ、尾が写っている様子はなさそうです。青い色調ですからノーマルのEOS−Dでも何とかなるかと気楽に考えていましたが、そうそう簡単には写させてはもらえないようです。加算コンポすれば少しは出てきてくれるでしょうか?それを期待して次のステップにシフトします。

 

11月10日のホームズ彗星

データはギャラリーに記載しています。

かなり強い処理をかけても尾を浮き立たせることはできませんでした・・・

 

 

 

 

 

 

 

【砦崩壊】

 

ホームズ彗星の撮影後は、普通の天体撮影に入ります。事前にどんな天体を撮るか特に決めていなかったので、思いつきで撮っていこうと思います。

まずは、天高く上がったオリオン星雲行ってみます。露出は5分×4枚。LPS−P2を併用しているおかげか、プレビューで撮影結果を見ると、カブリもなく色彩、コントラストとも自分好みのいい調子に仕上がっています。これは帰っての処理が楽しみです。星の流れ具合は、1枚だけ大きく流れた他は何とか許容できる範囲でした。もう目くじら立てるのはヤメにします(←事実上のネタゼロ敗北宣言)。

お次は、初挑戦となるうさぎ座の球状星団M79にトライ。元々が小さい天体なのに、レデューサーで焦点距離が短くなっているため、ポツンとしか写りません。とりあえずギャラリーには掲載できそうな結果でしたので、M天体撮影計画達成にまた1つ前進したと言っていいかと思います。

 

 

 

M42 オリオン星雲

球状星団 M79

 

・・・・と、ここで1本目のバッテリー切れとなりました。思ったよりも早い段階での交換ですが、バッタモンですからこんなものでしょう。2本目のバッテリーは純正品を使って電池交換の手間を省き、一気に撮影枚数を稼ぎたいと思います。

交換して最初の天体は、鬼門の散開星団M46に挑戦です。惑星状星雲が星団の中にあり、個人的にはM35と並んで好きな散開星団ですが、毎回毎回ピンぼけとガイドミスに泣かされ続け、撮影では苦手意識が付きまといます。それを払拭するのは今!眠気で時々意識が遠のくのを必死につなぎ止め、入魂レベルを最大に上げてガイドに集中します。そして出来上がった写真は、またもガイドミスで沈没。本当にうまく撮れない天体です。

次回のリベンジを固く誓い、見切りを付けて次なる天体にシフトします。選んだ対象はこれも過去にピンぼけ+ガイドミスでKO負けした散開星団M93。心を落ち着け、新たな気持ちで撮影に入ろうとしたら・・・・スカスカ・・・・・

バッテリーがカラとなっ!?

 

たった20分足らずでエンプティですか?お前は純正品としての誇りがないのか!と言いたくなる有様です。後日充電したところ、5秒でフル充電になったところを見るとへたってしまったみたいです。同じ時期に買ったバッタモンが頑張っているというのに何という根性なし。

何はともあれ最後のバッテリー(バッタモン)をつけて再開。怒りで集中力が高まったか、M93の撮影結果は星の流れ具合も少なく、今日撮影した中では一番良好な内容でした。よぅし、この調子をキープして今度は高く昇ってきたM81と82のペアに行ってみましょうか。ファインダーで場所を確かめ、試験撮影を重ねて両者を写野の中央部に持って行きます。北の方角は市街地の明かりの影響が大きいのですが、LPS−P2が何とかしてくれます。いざ本番・・・スカスカ・・・・

貴様もバッテリー切れかーー!!

 

これもへたっていたのでした。バッタモンを見直した矢先にこの始末。もうね、どうしてくれようって感じです。

一方で、今日は最後の砦電源変換装置がありますから、逆に言えばこちらの狙い通りの展開と言えなくもありません。根性無しのバッテリーたちに変わって、今こそその実力を見せつけるときが来ました。EM200用12Vバッテリーにプラグを接続して、カメラにカプラを取り付け、動作テストも問題なし・・・・・・・・・・あれ?

12Vバッテリーの残量がありません??

 

予想外です。先ほどまでは3つぐらい点灯していた残量ランプが、2つ落ちの1個に急落しているではないですか。露出開始時に瞬間的に落ち込んだのかと思いきや、カメラの電源をOFFにしても回復の兆しがありません。12Vバッテリーすら一気に消耗させるだけのパワーを、このEOS−Dは持っているというのでしょうか。

もしかしたら、残量1個でしぶとく生き長らえる可能性も考えられなくはないですが、この後にもう1つのツボが控えているので、EM200まで共倒れになる最悪の展開だけは避けたいところ。ここは安全のため涙を呑んで撮影を取り止めることにしました。あぁ、また今回も電源に泣かされた・・・・。

 

 

 

散開星団 M46

散開星団 M93

 

 

 

【惑星リレー撮影】

 

直焦撮影を中止したことで、予定を早めて惑星撮影に切り替えることにしました。これから明け方にかけて、火星−土星−金星−水星とリレー撮影を敢行します。これが撮影プランのもう1つのツボです。

特に水星はまだ日面通過以外写真に収めたことがなく、おまけに明け方や夕方の水星というのはまだ見たこともないのでした。最大離角を数日後に控えている今が、これら未体験をクリアする絶好のチャンスです。まさに水星観望はツボ中のツボ、キング オブ ツボと言って過言ではありません。

それにしても今日のこの風の強さは、ホタロンですらモニタ内の惑星を飛びまくらせるほどでした。シーイングもひどくて、火星はまぁどうにかこうにか見られるレベルに抑えられたものの、土星はカッシニが写っただけでもマシ、金星は総フレーム数3600枚の中で使えるフレームがたった150枚ぽっち。

ホタロンにしてみれば、「久しぶりに主役の座を与えられたのに、持ち味が出せんやないけ!!」という気持ちになったかもしれないと思うと、ちょっと気の毒でした。これではWB25を持ってきたとしてもお話にならなかったでしょう。

 

 

 

 

火星

土星

 

 

金星

水星

 

 

芳しくない惑星撮影にやや落胆しながら水星の出を待ちます。ステラナビゲータで位置関係を見たところ、金星のほぼ真下から昇ってくるようです。もう姿を現している時間帯にはありますが、その方向には標高の低い山があって、山の陰から出るまで少し時間がかるのではないかと思っていたら・・・?山の頂上付近にかすかに光る星が見えているのに気付きました。落ち着きのある輝きで、惑星のようにも思えます。もしかするともしかしますかね?

ファインダーで見てみると、明らかに面積を持っていることが分かりました。これはひょっとするとひょっとしますよ?

望遠鏡で見てみると・・・・ビンゴ!やっぱり水星でした。・・・が、低空の激しいシンチレーションにかき乱され、赤・青・黄・緑と絶え間なく色変わりしながら踊りまくっています。欠けている様子どころかどれが本体なのかさっぱり分かりません。見つけた感動がある一方で、水星を見ている気になれない複雑な思いです。もう少し時間をおけば改善するか?・・・・(30分経過)ダメ。大体高度が30度以上ある金星でもグニャグニャしていたのですから、水星に至っては言わずもがな、なのかもしれません。

見切りを付けて、勝ち目のない撮影を敢行してみます。ピントも画質調整も、どれがベストのポイントか皆目見当がつかず、記録だけに終わりそうな案配です。さしものREGISTAXでも選定できないだろうなぁ・・・・と考えつつ4つの動画を撮影して、5時頃全行程を終了しました。

 

今回のバースデー観望会、夜が明けるまで頑張ったのはずいぶんと久しぶりのことで、充実したひとときを過ごすことが出来ました。ネタがなければ更に良かったのでしょうが、まぁいつものことですし?

機材を片づけながら、ちょこちょこ水星の方に目をやると、白ずんでいく空の中に溶け込んでいく光景がとても印象に残りました。

諦めていた水星の画像処理については、REGISTAXの驚異的な選定能力でかすかながらも半月状の形を見事叩き出し、改めてこのソフトの偉大さを実感させられた次第です。今度は、シーイングが安定した白昼のときに狙ってみたいと思います(←過去に視認できながら、撮影準備中に見失うという苦い経験あり)。

 

 

 

 

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