金環沈没

                                                                

  

 

【ジンクスを打ち破れるか】

  

2012年5月21日に国内の太平洋側で金環食が観測されました。金環食は、太陽を隠す月の大きさが太陽よりも若干小さいため完全に太陽を隠しきれず、太陽がリング状に見える日食のことを言います。太陽が完全に隠れると皆既日食となって、ダイヤモンドリングや普段目にすることのないコロナを見ることができますが、金環食では太陽の光が強いためコロナを見ることはできないそうです。皆既食前後に一瞬だけ輝くダイヤモンドリング、黒い太陽(?)とその周りを薄ぼんやりと包むコロナのが醸し出す幻想的な世界などなど、皆既食は日食の花形といってもいい存在ですが、欠けていたはずの太陽が突然リング状に輝く金環食も負けず劣らず見応えがある現象だと思います。

記憶に新しい2009年の「世紀の皆既日食」は、国内ではごく限られた地域でしか見られませんでしたが、今回の金環食は冒頭の通り国内の太平洋側で見ることができます(これほど広い範囲で見られる金環食は実に平安時代以来らしいです)。真円の金環食にこだわらなければクルマで移動可能な地域ばかりですので、自分としてはこちらの方を本命としていました。もありりっしょくすからですから想的な世界などなど、皆既日んやりととをのないいおきさが

 

 

金環食帯と各地域の最大食時の様子

(アストロアーツの金環食特集より転載)

 

一点鎖線部分が中心帯を示します。

この中心帯が通る地域では真円での

金環食が見られます。

 

 

 

ということで、金環食を迎える前から俄然力が入りました。

昨年初めに入手した8cmクラスの屈折(カプリ80EDと今はなきネリウス80LD)も、元はといえばこの日のためでした。

また、今年初めに買ったメッキガラスタイプの太陽フィルタも、金環食をシャープに写したい一心で取りそろえたもの。

加えて、EOS−D用に買った大容量SDカード、オリンパスデジカメ用の大容量コンパクトフラッシュやリモコン装置といった小物類も、金環食の撮影を万事遺漏なく進めるために買ったわけです。

これで金環食や6月の金星日面通過が曇りに見舞われでもしたらどうしましょう。何しろ、5月21日は月曜日。金環食を見るなら当然休暇を取って出張らなければなりません。これまで「休みを取っての観望会に成功なし」のジンクスに幾度となく涙をのみました。もし今回も炸裂するようなら・・・・、もうね、世をはかなんでこの世界から身を引くかもしれません。

果たしてこの金環日食では、壁を打ち破ることができるのでしょうか?

らないかかが会社での会議などは日程のでの会議などは日程の調整。

 

  

 

【悩みは尽きず】

 

投資にも力を入れた一方、システム構成や撮影方法なども入念に検討しました。あまりに入念に検討しすぎてコロコロ方針が変わり、「一体俺はなにを求めているんだ?」と自分を見失いかけたぐらいです。

最終的には、動画、撮影、観望全てを満足するために望遠鏡3台体制にする事にしました。概略こんな感じです。

 

 ●EM200:           ホタロン+EOS−D X4 → 部分食の経過撮影と金環状態の動画記録

                            VMC110L → 眼視観望

 ●LN赤道儀:        カプリ+オリンパスC5050(コンデジ) → 金環状態の経過撮影

 

・・・佳境の金環状態の時はかなり慌ただしくなる事が予想されますが、まぁ動画の方は記録を開始すれば基本ほったらかしでいいでしょうし、コンデジによる撮影もリモコンでシャッターを切っていけば眼視で楽しみながらの撮影は出来そうです。

 

一番検討しなければならない重要なことは観望場所です。九州中央部から金環食は見られますが、なるべくなら偏りのないリングを見たいところ。

九州でそのような食を見られるのは佐多岬から都井岬にかけての地域となりますが、土地鑑がないだけにどこに行けば落ち着いて見られるかわかりません。一応、5月に入ってからGOOGLEマップなどで適当な場所がないか探していましたが、琴線に触れるような場所は見あたりませんでした。

更に、金環食の10日前から各地の天気の予想が発表されましたが、来る日も来る日も九州地方は曇りか雨の予報ばかりで、九州で見るべきかどうか非常に悩ましい状況になりました。逆に近畿南部から関東方面は晴れ間がのぞくとの予報でしたので、一時は名古屋か和歌山当たりで金環食を見るという選択肢も急浮上。生憎というか、5月19日に名古屋方面に出張することになりましたので、出張先までクルマで行って、仕事を終えたらそのまま金環食観望もできそうだと踏んだからです。

結局のところ、18日になって九州の天気が回復傾向にありそうという予報が出たことから、20日に出張から戻ってそのまま鹿児島方面に下りる事にしましたが、それまでどこに行くかすら混沌としていたので、具体的な観測場所を決めるに至らず、「とりあえず(昔観光で行った事がある)指宿に行くか。」と大ざっぱな計画を立てるにとどまりました。

 

日食前日の20日昼過ぎ、出張先から戻ってゆっくりする間もなく鹿児島方面に出発しました。天気は雨。まぁ、天気が回復するのは20日の夜からだと言うし、しかも北部の天気ですので最初はそんなに気にもとめませんでした。・・・が、南に行ってもなかなか雨は止む気配がなかったことから、次第に不安感が増してきました。

おまけに目的の指宿までの道のりはまだ長く、着くのは夜の見通しで、着いてもそこから場所探しとなると考えると、だんだん退嬰的な気分になってきます。「指宿まで下りても、当日曇りだったら骨折り損だなぁ」と思い始めるともうダメで、真円の金環食を見たいという気持ちもだんだん薄れてきました。

 

その頃、船長っは霧島のとあるキャンプ場で陣を構えていました。キャンプ場だけにトイレなども完備されているし、周囲が開けていて観測の障害になるようなものはないそうですし、立ち寄り温泉もあるとかで、環境的に申し分なさそうです。何より霧島ならば指宿よりも各段に近いですから疲れも軽減できます。いろいろな思惑はよぎりましたが、最後は今いるところからの距離と、開けた観望地であることが保証されていることが決め手となり、船長っが待機するキャンプ場に場所を変更して一路クルマを走らせたのでした。

 

キャンプ場に着いたのは21時前でした。イメージしていたテントが林立するキャンプ場ではなく、だだっ広い芝生のグラウンドの好きなところにテントを張るスタイルで、利用者も高々4〜5組ぐらいでした(日食があるとは言え、翌日は平日なのですから当たり前と言えば当たり前なんですが)。

船長っはグラウンドの中央付近に構えていて、既に食事も終えてくつろいでいるところでした。

何でも一人焼き肉だったそうで、もう少し早く来れば焼き肉にありつけた可能性もありましたが、その時はまだ指宿に行く可能性もあったので致し方無しです。

このあと、明日の成功を祈願して乾杯したり、近況を話したりするなどして機材のセッティングのタイミングを図っていました。しかし天候の方は回復の兆しがなく、小雨と強風が断続的にやってくる始末。ある程度天候回復が遅れそうな事は覚悟していましたが、夜半過ぎになっても星の「ほ」の時も見えないのはいかがしたものでしょうか。

途中仮眠を取って、3時から約20分おきぐらいに空の様子を見ましたが、分厚い雲が空を覆う状況は変わらず、機材は据えたものの極軸のセッティングはできないまま、いよいよ日食当日の朝を迎えました。

 

 

  

 

【ジンクス打ち破れず】

 

 

とにかく雲が切れそうで切れません。東に位置する山々から雲がわき出ては、西側にあるこっちに向かって広がってきます。地上は西から東に向かって風が吹いているのに、何で上空は東から西に吹くんでしょう?日食が始まる時刻が迫ってくるに従い、自分も船長っも自分の陣地でだんだん無口になってきました。

部分食の始まりの時刻になっても、太陽がある方向・・・って言うか、付近一帯は雲。おそらく太陽を向いているであろう望遠鏡のその哀愁と言ったら例えようがありません!それでもいつ晴れるか分かりませんから、一応向きだけは合わせて(合ってないんですが)おかないと。

 

わき上がる雲を見上げてどれだけ経過したでしょうか。だいぶん高度を上げた太陽が、やっと雲の切れ間から姿を現しました。待ってましたとばかりに、自分も船長っも望遠鏡にかじりつき、素早く太陽を導入して撮影準備にかかりました。ただ、雲による減光が思いの外大きく、この日の為に調達したはずの太陽フィルタでは暗すぎて、カメラのライブビューでは全く見えません。

見えないとピントも構図も決めようがないので、フィルタを従来のフィルムタイプ(こちらはやや減光度が小さい)に交換する事にしました。それでようやくライブビューで太陽が見えだし、さっとピントを合わせて可能な限りシャッターを切る切る切る!本来なら、この過程で何かをやらかすのが自分の自分たるゆえんでもあるのですが、珍しく何事も起こりません。このあたりにこれまでの積み重ねが生きているのかも・・・。とニヤッとしたらまた雲によってシャットアウト。それからまた延々と雲を眺めるだけの無意味な時間が流れていきました。ちくしょう、なんていやらしい天気なんだ。

 

 金環食直前の状況

 

 周囲が暗くなってきたので、もしかして天候が悪化

 してきているのではないかとはらはらしましたが、

 食分が大きくなったために日差しが弱まったためだと

 あとでわかりました。

 それにしても、この雲の量ときたら!

 この後金環の太陽が見られたことが不思議なくらい

 です。

 

時刻はそろそろ金環状態に入ろうかという頃になりました。空は相変わらず雲一色で、僅か3分の内に快晴になる見込みは皆無に近くなってきました。

船長っが「もう入った頃かなぁ」とぼやけば、自分も「入ったかもしれんねー。」とあきらめ口調で返します。もう空を見上げる気力すらなくなってきました。

そのときです。

突然、遠くの小学校(?)の方から子どもたちの歓声がワーッと上がりました。何事?と思っていると、続いてキャンプ場に来ていた同じく日食を見に来た人たちからも「おー、見えた!」という声が上がったのです!

見上げると、太陽が雲の切れ間からうっすら見えだしていました。ちょうど月が太陽に入り込んだ直後でした。

 

さか出てくると思っていなかったので、大あわてでカメラの電源を入れ、ライブ

ビューを活かして太陽が入っているか確認しました。幸運にも、あれだけざっくり

機材をセッティングしたにも関わらず太陽が写野内に残っていて、おかげで撮影に

至るまでのロスを最小限に抑える事ができました。本当はここで動画として記録する計画でしたが、動画モードにセットする時間的余裕はなく、撮影オンリーでシャッターを切りまくり。このまま金環食が終わるまで天気が持ってくれることを願ってひたすら撮影を続けましたが、残念ながらリング状の太陽を見られたのもほんの僅かの時間で、月が再接触する前にまたも雲に阻まれてアウト。そのまま金環食の終了となりました。撮影結果を確認したところ、雲に大部分を隠され、中途半端な写真が多かった中、いくつかリング状の太陽が記録されていました。

この後、途中何度か部分食を見る事ができましたが、概ね雲に隠される事の方が

いまま日食の終了時刻を迎えました。結局今回も「休みを取っての観望会に成功なし」の壁を突き崩すことはできませんでした。***********

 

 

 

日食終了後、これまでの疲れがドッと来る中機材を片付けて解散。船長っはそのまま帰路につきましたが、自分はせっかく霧島まで来たので温泉で体を休めてから帰る事にしました。帰りも天候はすぐれず熊本を過ぎてからは雨まで降り出す始末です。

ちなみに、東京・名古屋・近畿は雲に悩まされながらもツボはしっかり観測できたそうで、何ともうらやましい限りです。

今回の金環日食は、とにかく天気に翻弄されたイベントでした。金環状態の瞬間を見られたのはたしかに幸運なことで、観望終了後はそれで満足できたのですが、時間がたつにつれてこれまでに費やした金と労力を考えるようになり、それに見合った成果が得られなかったことに腹立たしい気分になりました。

ちなみに、イオも日食グラスで日食を見るべくワクワクして待っていたのに雨が降ってみられなかった!と怒ってたそうです。ワカルワカルその気持ち。

その怒り、18年後の北海道での金環日食で晴らそうな!(だから今の内からしっかりお金を貯めて、父ちゃんと母ちゃんとタカを一緒に連れてってくれ)

 

 

空しく太陽の出を待つ望遠鏡・・・

 

VMCは結局一度もふたを外すことなく、ただ架台に

載っていただけ。

カプリも減光率の大きいフィルタがついたまま、多分

その先には何もない空間を追いかけただけ。

まったく活躍の場がありませんでした・・・・。

 

 

 

 

                             前に戻る    観望大作戦3に戻る     次に進む