カサイの80mm屈折インプレ

 

                                           

 

 

< は じ め に >

 

ちょっと訳あって7080mmクラスのコンパクトな屈折望遠鏡を物色していました。狙っていたのはビクセンのフローライトでしたが、既に生産中止となっているこの品、オークションでも結構なお値段がしていましたので、なかなか手が出せずにいました。

そんな中、2010年12月に笠井トレーディング扱いのネリウス80LDという屈折がオークションで出ていたのを見てつい琴線に触れてしまい落札。これで落ち着いたかと思いきや、2011年1月には同じく笠井トレーディングのカプリ80EDがオークションで出ていて、これも落札。同じジャンルの望遠鏡が僅か1ヶ月弱の間に2台も入ってきたのでした。

さすがに競合する2つの望遠鏡を手元に置いておくわけにも行かないので、ゆくゆくはネリウスの方を里子に出すつもりではありますが、せっかくの機会でもありますので、2つの望遠鏡を見比べたその印象を簡単にまとめておきたいと思います。

 

それぞれのプロフィールは、

ネリウス80LD: 口径80mm  焦点距離480mm  F6  セミアポクロマート  鏡筒長350435mm(アクセサリ含まず)  

   カプリ80ED : 口径80mm  焦点距離560mm  F7  EDアポクロマート  鏡筒長430525mm(アクセサリ含まず)

で、EDレンズを使用しているカプリ80EDが光学性能としては上と言うことになります。また、ネリウス80LDは既に生産はされておらず、現在笠井トレーディングで販売されているネリウスシリーズは10cmEDアポのみとなっているようです。(カプリシリーズは、この80mmの他100mmの2種がリリース)。

 

 

 

 

 

 

 

< 外観とか取り扱いとか >

 

<外観>

ネリウス80LDは、黒色をベースにフード部にゴールドのリングがあしらわれています。見た目には高級感があり、新品価格で48000円とは思えないほどの質感があると思います。接眼部に至るラインは個人的にとても気に入っている造形で、他の望遠鏡にはないおしゃれ感があります。

鏡筒長はフードを縮めると約33cm、フードを引き出しても約44cmと大変コンパクトですが、その割に手に持つとずしりと重く、見た目以上に重量感があります。

鏡筒はビクセンのアリ溝に取り付けが可能です。ただし、アリ型が鈎型になって長さが非常に短く、また鏡筒直づけとなっているため、鏡筒を前後にスライドさせてのバランスを取ることはできません。ネリウス80LDは基本的に天頂ミラーを併用しての観望を主眼にしていると思われ、その限りにおいてはこの構造でもバランスが大きく崩れることはありませんが、直視での観望や直焦撮影で後ろにカメラを取り付けるような場合はバランスが取りにくいのが難点です。

 

カプリ80EDは、ホワイトの鏡筒にフード先端とフード末端、それに接眼部と鏡筒の接続部にブルーのリングがさりげなく入っていて、さわやかな印象があります。標準的な望遠鏡らしい外観の鏡筒で、ネリウスと比べるとしゃれっ気は少ないですが、飽きのこないデザインだと思います。

鏡筒長はフードの伸縮で約43cm〜53cmとなり、ネリウス80LDと比べるとやや長いものの、気軽に持ち出せる範囲にはあると思います。

鏡筒はバンドで固定されていますが、コンパクト屈折には似つかわしくないほど無骨な形をしています。しかし、バンドの締付ボルトの操作性や鏡筒のスライドの滑らかさは大変素晴らしく、外観に似合わず軽いタッチで扱えるギャップさがなかなか面白いと思います。赤道儀への取り付けはビクセンのアリ溝に取り付け可能。こちらはアリ型レールを採用していますので、ネリウスよりはバランス取りが容易に行うことが出来ます。

 

フードを縮めた状態

フードをのばした状態

架台への取付部

接眼部(1)

(上部から見たところ)

接眼部(2)

(後ろから見たところ)

 

<接眼部>

ネリウス80LDもカプリ80EDも接眼部にはクレイフォード式を採用しています。カプリの方は前の使用者がちょっとデラックスな接眼部にしてくれていたようで、特に接眼レンズの固定強度がアップしています。具体的には2インチスリーブ部に用意されている固定ネジがネリウスは1点止めで、カプリは3点止め。もっとも、1点止めのネリウスの方も観望する分には十分な固定強度がありましたので、差が出るのは撮影機材を取り付けた場合でしょうか。

接眼部の操作性はどちらも甲乙付けがたく、繰り出しは大変滑らかです。ドローチューブの繰り出しの固さを調整するネジは接眼部の下部に付いていますが、このネジを開放状態にしてもLVW3.5mm程度のアイピースなら特に滑りなどは発生しませんでした。もちろん、ネジを締め付ければドローチューブを確実に固定することができ、EOS−D X4を付けた状態で鏡筒を天頂に向けてもドローチューブの下がりはなかったので、撮影でも十分使えると思います。

つまみは微動用も備えられていて、これがピント合わせをする上で結構便利です。特にカプリ80EDの通常用のつまみは固いときと滑らかなときの波があって、ピント合わせにコツがいるだけに微動用つまみは重宝します。

 

標準的なインターフェイスは、どちらも2インチスリーブと31.7mmスリーブ。カプリの方はこれに加えて2インチスリーブ部にM57メスネジが切られていて、ボーグのアクセサリを直接付けることができます。

合焦方法は使い分けが面倒で、天頂ミラーを併用しないとほとんどのアイピースでピントが出ませんでした。ですので天頂ミラーを介さずに見るときは延長チューブを取り付けます。自分の場合は、ボーグ製の2インチスリーブ→M60のアダプタに、M60/M60の中間リングを間に挿入し、ビクセンのM60延長チューブを取り付けています。これで大体のアイピースでピントが出るようになりました。

一方、直焦撮影でカメラを取り付ける場合はどうなるかというと、ビクセンのM60延長チューブを付けてしまうとピントが出ないので、M60/M60の中間リングに直接カメラアダプタを取り付けます。

リング地獄にはあまり足を踏み入れたくないので、このあたりの簡略化にもう少し検討したいと思います。

 

直視で見る場合や直焦撮影でカメラを接続する時は、ビクセンの規格に合わせるために、ボーグ製の2インチ→M60アダプタにM60/M60中間リングを取り付けたものを併用しています。

 

天頂ミラーを併用して見る場合

標準的なインターフェイス(2インチスリーブ+31.7mmスリーブ)でピントが出ます。

ただし、カプリ80EDではアイピースによっては延長チューブを介さないとピントが出ない場合があるようです。何とも面倒です。

直視で見る場合

標準のインターフェイスではピントが出ないため、さっきのアダプタに延長チューブを取り付けてアイピースを取り付けます。

直焦撮影の場合

直焦撮影だと、上の延長チューブを併用するとピントが出ないため、延長チューブを外してカメラを取り付けます。

 

 

 

< 見 え 味 と か >

 

▼シリウスを見てみました

 

両者を並べての見え味をリゲルでチェックしてみました。使用したアイピースは、LVW13mm、LVW8mm、LVW5mm、LVW3.5mmの4つです。

 

まずネリウス80LDですが、率直な感想としては低倍率から中倍率(口径mmの1倍)までが適正だと思いました。

LVW13mmでは倍率としては37倍となります。この倍率でのリゲルは色のにじみも目立たず、青白い星像が印象的でした。若干周囲に青い光芒が見えますが気になるほどではなく、星像もシャープです。

LVW8mmでは倍率60倍。やや黄色みがかった色合いに変わり、周辺の青い光芒もLVW13mmより目立つようになりますが、星像はシャープな状態を維持します。

LVW5mmだと倍率96倍で、口径mmの1.2倍の倍率になりますが、まだ全体的に暗くなったという印象はありません。一方で星の色彩は明らかに黄色になってしまい、まるでカペラを見ているような錯覚に陥りました。星周辺の光芒もはっきりとわかり、そのせいかバックが全体的に青っぽい感じを受けます。中心像のシャープさも少し失われ、リゲルの伴星はこの時点では確認できませんでした。

LVW3.5mmを使うと倍率137倍。口径mmの約1.7倍強となります。リゲルの伴星がかろうじて分かります。星の色合いやその周りを包む青い光芒はLVW5mmとあまり差は感じませんでした。

 

カプリ80EDでは、中倍率以上でも色の崩れが少なく、さすがにEDらしい像を見せてくれました。

LVW13mm(43倍)からLVW8mm(70倍)までは、青いにじみが少ない分やや引き締まった印象を受けますが、全体的にはネリウスとそれほど差を感じませんでした。星像もシャープで申し分ありません。

LVW5mm(112倍)で見るとリゲルの伴星がはっきり分かり、リゲル本体の色も綺麗な白色を保っています。周辺は青い光芒が星を包むようにぼんやり見えてきますが程度は小さく、星像の鋭さも保たれています。

LVW3.5mm(160倍)だとさすがにシャープさが失われてきますが、リゲルの着色はなく自然な色合いで見ることが出来ます。シーイング次第ではもう少し短焦点のアイピースもカバーできそうです。

 

▼月を見てみました

 

月はLVW8mmで見てみました。ネリウスの場合は、月の縁で半周分が黄色、もう半周が青色の着色がありますが、エッジ部分は十分シャープで像のボケはこの倍率では感じられませんでした。ただ、全体的に青紫がかった感じで、色収差の影響があるようです。

カプリの方は月の周囲に青い着色が見られるものの、アポクロマートらしい自然な色合いの月面を楽しむことが出来ます。クレーターの明暗のコントラストがしっかりしていて、大変切れのある像質です。

 

 

 

 撮 影 と か >

 

▼直焦撮影でリゲルを撮ってみました

 

直焦撮影でリゲルを撮ってみました。撮影はISO800、露出時間は15秒、画質モードはJPGです。

ネリウスの方ですが、15秒の露出でも割と明るめの星では周囲に青色の着色がついています。リゲルなどの明るい星になると青い光芒の内側に紫色の着色も目立ちます。長時間露出の場合は、色収差が派手に現れて全体的に妙なカラーバランスになるのではないかと思われます。

一方で星像の方は周辺部でコマ収差の影響が目立ってくるものの像の崩れは小さく、写野全体にわたって鑑賞に堪えうるだけのシャープさはあると感じます。

 

中央部

中央から3分の2辺り

周辺部

 

 

 

カプリの方は色収差の影響も少なく、長時間の露出でも自然なイメージで写真が撮れそうです。一方で周辺部の星像の崩れはネリウスよりも大きく、良好な星像のエリアは若干狭まるのが残念なところ。互いに離れた天体を同一の写野に収めようとするとき、それぞれが端っこに来るような構図になるのであれば、像質の悪化は免れないようです。

 

中央部

中央から3分の2辺り

周辺部

 

 

 

▼直焦撮影で月を撮ってみました

 

下の写真はぞれぞれの望遠鏡で直焦点で撮影した月です。左がネリウス、右がカプリで撮ったものです。大きさの違いはお互いの焦点距離の違いによります。

ネリウスの方は月の周辺部に若干黄色みがかった着色が認められますが、程度は小さく気になるほどではないかと思います。

ネリウスで撮影した月

カプリで撮影した月

 

 

 

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