伝説 始まる?

                                                                

  

 

【ひさびさの父ちゃん星見】

 

 

2010年も10月を迎えました。

タカが産まれて以来、出張り観望はご無沙汰になっていました。

イオの時代から「父ちゃん星見」をカレンダーに書くと、家内の機嫌が一気にマイナス方向に振り切れを起こすのですから、いわんやタカが加わってしまった日には、とてもとても星見の「ほ」の字も書けやしませんでした。

しかし、タカも2歳を過ぎてからは少なくとも寝ている時に限っては世話がかからなくなってきた昨今、出張りに行こうと思えば行ける条件は整ってきました。一方で、ここ2年近く自宅で気軽に惑星を撮影できる環境に浸かりすぎたためか、失敗のリスク(ピンぼけ、ガイドミス、電源トラブル)を恐れ、いつしか直焦撮影に身を投じようとは思わなくなってしまっていました。

そんな中、夏の暑さに自我を忘れ、勢いに任せて買ってしまったEOS−D X4。これ買ってからというもの、天体撮影に使ってみたいという気持ちも出てきて、悶々とする自分の背中をぽんと押してくれるきっかけを探していたのでした。

そんなとある9月の某日。オーストラリアに行くどろっぺパパ一家の壮行会(別名:マッツン幸せ会議)を船長っ宅で執り行ったとき、船長っから思いもかけない

  「10月当たり出張ってみないか?」

 

のお誘いの言葉。何と、船長っ自らネタ作り王決定戦第3節を提案してくるとは!!(違う違う)

パーティーライクな和やかな雰囲気で、しかもこんなにストレートに切り出すとはさすがです。さしもの家内もこめかみに青筋立てることは出来ませんで、「まぁ認めてやるわ」の意思表示。こうして、およそ2年ぶりの「父ちゃん星見」が成立することとなったのでした。

 

10月で条件がいい日は9日前後ですが、後で調べたところ、話題のハートレー彗星が8日から9日にかけて二重星団付近をかすめることが分かりました。明るい彗星が二重星団をバックに尾をたなびかせる様子は、想像しただけでもぞくぞくしてきます。復帰戦は、このハートレー彗星をメインに、リハビリを兼ねてメジャーな天体M31、M33、二重星団、そしてM42をじっくりと撮影しようと思います。毎度のことで、出張り星見の最大の目標はネタゼロ。そのためには、ピンぼけ・電源トラブル・ガイドミスの直焦3悪をクリアしなければなりません。これまであちらが立てばこちらが立たずで、常に入れ替わり立ち替わりいずれかのトラブルに見舞われてきましたが、

これからは違う!

 

何が違うかと言って、7月末に仕入れた最強兵器EOS−D X4があるからです。X4はライブビュー機能があるので、カメラのモニタを見ながらピント合わせが出来るのです。9月半ばに木星と天王星の接近でこのライブビューを試してみたところ、その効果は絶大。ピント合わせツール2穴式とか、ノギスチェックでさんざんピント合わせに苦労したのは一体なに?と呆れるぐらい簡単かつほぼ正確にピントを合わせることが出来るんです。

さらにX4の電池は結構持ちがよく、高々30分開放にしただけでバッテリー空とかいう事態はまずあり得ません。

そういうことで、3悪のうち2つはもうクリアしたも同然。残るガイドミスに全ての力を注げばいいことになります。今こそ入魂のタッチガイド伝説再び!

 

  

 

【雲が出たのは誰のせい?】

 

当初予定していた9日は朝から天気が思わしくなく、一旦は見合わせというところまで話が後退しましたが、昼過ぎから天気が持ち直し、ひょっとすると絶好の出張り日和かもと思わせるような青空が広がってきました。

ところが、この日は長崎伝統のお祭り「長崎くんち」の最終日。せっかくの機会なのでイオとタカをお祭り見物に連れて行ったら、思いの外体力を使ってしまい、出張りに行くだけの力がなくなってしまいました。さらに天気の方は今日よりも翌日がよさげな感じだったので、本日の出撃は見合わせることに。

一方、船長っはと言うと、同じくお祭り見物に来ていて体力を使ったはずですが、予定通り「船長っの山」に出かけたようでした。しかし、撮影を開始してから間もなく雲の襲来に悩まされ、網状星雲を数枚撮影して撤収したそうです。

 

翌日、読み通り朝から素晴らしい青空が広がり、夜への期待がますます強まりました。この青空を是が非でも夜につなげるべく、日中は家族サービスに努め、イオやタカの呪いを封じる手段を講じます。

そして、船長っにはとりあえず今日の出撃をほのめかすメールを打ってみました。もっとも、船長っの場合二連チャンになることに加え、その翌日の11日は運動会が控えているそうですから無理強いせず、あくまでも出撃欲が高まる程度にほのめかすだけのメール内容にしておきました。するとどうでしょう。こちらがようやく夕食を終え、風呂に入ろうかと言うときに「先にやってます。」との返信が!実はこのとき既に船長っは現場に到着し、撮影開始のための準備を始めていたのでした。疲れているはずなのに早い!早すぎるよ、船長っ。このバイタリティには心底敬服します。

こちらは、船長っのメールを受け取ってから遅れること1時間、イオとタカを寝かしつけてからの出発となりました。2年ぶりに入る船長っの山への道は驚くほど荒廃していました。落石箇所の多さに加えシカやタヌキの数が尋常でなく、あまり人の手が及んでいないことが伺えます。

山登りに20分ほど要して、ようやく船長っのいる現場に到着。途中の道の荒れようから想像していたほど観望場所は荒れてなくて、逆に刈り取られた形跡が見受けられるなど綺麗な状態でした。奥の方では船長っが機材を構えていまして、撮影でも終えて一息ついたところなのか、ライト付けっぱなしで上がり込んできたにも関わらず、渋い顔1つせずに迎えてくれました。聞けば翌日の運動会を考えて夜半頃には帰るため早めに到着したとの事。ただ、早く来た割にはほとんど成果が出ていないと嘆いておられます。何とすれば、夜空には雲が断続的に流れているではないですか!!えーー!?下界は雲なんて1つも見あたらなかったのに、どうしてここに来ると雲があるんですかっ!

 

  船長っ:  「お前、今日洗車なんてしてこなかったろうな?」

 

いやいやいや、してないっすよ。今日どころか、ここ最近は自分のクルマはおろか、家内のクルマも洗ってませんって。それは誤解だ!

雲が流れる様子を見るとせっかくのモチベーションも下がり傾向になりますが、でもまぁ、量はそれほどでもありません。夜半過ぎぐらいから晴れ上がるかもしれませんので、それを期待して機材を組み立てます。

組み立て後は極軸の追い込み。2年近く極軸の微修正作業から相当遠ざかっていたせいか、もはやどっちの方向に修正すればいいのやら勘が働きません。ビタッと合わせたつもりが、実は全く違う方向に修正したことに船長っと会話している時に気づき、慌てて再調整と言った体たらくです。極軸を追い込んで撮影できる環境が整ったのは以前と変わらぬ12時前。撮影開始保存の法則は今なお健在でした。でもまぁ、こんなことはネタのウチには入れません。本当の勝負はこれからなのです。

 

 

  

 

【船長っの物欲】

 

極軸修正が終わると、次はカメラ取り付けピント出し・・・毎回毎回いつも苦労する作業です・・・・が、今回は違う!!

なぜならば、しつこいくらい言いますが、Y−daの最新にして最強兵器との呼び声高い(誰から?)EOS−D X4があるからです。X4のキングオブ目玉、それはライブビュー。デジタルズームで10倍に拡大すると、ピントの山が面白いように分かります。この便利さ、かねてからライブビューに注目していた船長っにもアピールして、物欲ワールドに引き込みたいところです。

ただ、このとき既に船長っは片足突っ込んだ状態だったのでした。聞けば、このところ赤道儀のグレードアップに心が揺れ動いているのだそうです。現在使っているビクセンのスーパーポラリス(SP−DX)では10cmクラスの屈折にガイド鏡の組み合わせでは荷が勝ちすぎ、風が吹くこんな日はガイドの安定性に欠けることが船長っの数年来続く悩みの種。このため、赤道儀を大型化する欲望が高まってきたと言います。

しかし、この秋ビクセンから発表された新型の中型赤道儀は100万を超える、もう「貧乏人お断り」の価格帯ですし、ビクセンに限らずどこのメーカーでも中型赤道儀はなかなかのお値段ですので、所帯持ちには結構つらい。もっとも、Y−daの経験則によれば心の奥底で燃えさかる物欲の火は消えないのがお約束ですから、何かのきっかけであっさり「心体分離」を起こしてしまうに違いありません。このところ、ロスマンディのG11をしきりに気にかけていて、その語りようも熱いものがありましたので、近い将来Dreams come trueの歌声が聞こえてくるだろうと思った次第です。

さらに言わせてもらえれば、赤道儀を大きなヤツにすると今度はきっと望遠鏡も大きな物が欲しくなるはずです。オートガイドも再構築が必要になるかもしれません。おまけに、新しい赤道儀を買ったその嬉しさで、撮影システムのグレードアップ(光害カットフィルタやデジ一眼の新調とかなんとか)が一気に進む可能性があります。SP−DXはその物欲インフレを防止する砦だと思うんですが、これを超えるといろんな意味でやばいんじゃないでしょうか。

やはり時代は船長っを求めているのかもしれません。今後の行く末を注意深く見守りたいものです。

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そんなこんなでピント出しが終わり、ようやく撮影に入ります。最初のターゲットはM31アンドロメダ星雲。お次にメインのハートレー彗星に行って、続いてM33、二重星団、NGC253、M42ぐらいで締めくくる予定にしています。どれもこれも以前撮った天体ばかりですが、今回はリハビリと位置づけているので、あまり欲張ることなくじっくり行きたいところです。

本番に入る前に、まずISO1600でどこまでいけるか試験撮影してみました。昔のEOS−Dだとノイズや熱カブリが盛大に出て見るに堪えない結果になりましたが、このX4ではそれらの影響がかなり軽減されていて、5分程度の露出でも我慢できる結果でした。M31など明るい天体だったら3分の露出で十分写ります。さすがにノータッチだと星が流れてしまいますのでタッチガイドはやらなければならないものの、神経集中の時間が短くなる分1回の撮影に対する入魂レベルが上がるというものです。

よし、ISO1600で3分の本番行ってみますよ!いざ、撮影開始です。

この日は時折風が強まり、ガイド星も大きく振られていました。船長っのオートガイドはあっちこっちに動き回るガイド星を健気にも追い求めていますが、もしかするとそれはガイド鏡だけが風に揺られて星が動き回っているだけかもしれません。風によるフェイントは追いかける必要はないですが、オートガイドで真偽を正確な識別は難しいはず。ここにこそ、己の目で見て判断するタッチガイドの神髄があります。うなじに受ける風の強さと星の動きから、その動きが風によるぶれか赤道儀の追尾エラーによるものかを瞬時に振り分け、追尾エラーの時にのみ修正をかけるわけです。これにはかなり神経を使います。3分が30分にも感じられる時間の流れの中で完璧とも言えるタッチガイドを遂行したとき、その喜びは言葉に言い尽くせないものがあります。それだけに、

 

スイスイ流れまくりの写真に泣いた(2年ぶり)

 

偉そうなことを吐いた割にはさっぱりいけてませんでした。っていうか、ほったらかした方がまだマシという内容で、どうも真実と虚像を見分けられない能力の低さは仕事以外のこんな場面でも影響するようです。もっと、洞察力を磨かなければ!ちなみに、ガイドの精度はオートガイドの方が断然上だったことを参考までにご報告しておきます。

 

2年振りのアンドロメダ星雲

 

ピントは良好でしたが、ガイドは今イチ。目立たない程度に縮小して載せてみました。

 

JPG形式で撮影しているため、ダーク減算がうまく出来ませんでした。RAPはX4にも対応しているようなのですが、WIN XP SP3以上でないといけないらしく、XP SP2止まりの自分のPCではRAW画像処理が出来ません。

ステライメージ6あたりが対応してくれればいいんですが・・・・。

 

 

 

  

 

【雲に泣くも】

 

M31で「一応」肩慣らしは終わりましたので、次はハートレー彗星行ってみます。昨日二重星団に接近していた彗星は、その後の移動で少し外れたところにありましたが、比較的明るいため導入するのは問題なし。あとは彗星の移動量が大きいため、彗星の動きに合わせてガイドするか通常の恒星ガイドをするかが悩むところです。彗星を追いかけてガイドすれば、ガイドミスが目立たないという思わぬ副産物も得られます。

ただ、この日見た彗星は確かに明るいんですが淡く、芯のないぼんやりしたイメージでした。低倍率でも分かりにくいのに、高倍率ではどこに彗星があるのか分かりません。これでは彗星のモーションに合わせてガイドするのは難しそうです。やっぱり普通のガイド撮影に徹することにします。3分ぐらいだったら彗星の移動もそう目立たないと思います。

それにしても、次から次へと流れていく雲の嫌らしいこと!心なしか、さっきまでは少なかったハートレー彗星付近の雲の量が、ここに来て増大したような気がします。「それなら晴れるまで他の天体を撮ればいいやん。」と思われることでしょう。しかし、天体を導入してそれからガイド星を探して、となると結構時間を食うのです。そうしている間にハートレー彗星付近の雲が取れ、逆にこれから撮影しようとしているところに雲が来ると、もう発狂すること間違いなし。ここは、雲が晴れるか自分が負けるか、コンクラーベ(また懐かしい言葉が・・・)です。

その頃船長っはと言うと、網状星雲のもう片方を撮るべく構図決めと試験撮影をしていましたが、どこでどうミスったか、もう片方を入れたつもりが実はさっき撮った網状星雲が写っていたというマジックを展開し、ネタ作りを順調にこなしているようでした。焦らずいこうぜ!と言いたいけど、もうそろそろ網状星雲も沈む頃だし、何より明日の運動会を考えると帰宅を急がないといけません。どうしても慌てますわな。

 

しばらく待っているとようやく雲の切れ間が見えだして、少なくとも3分ぐらいは露出がかけられそうな状態に改善されてきました。コンクラーベに勝利した喜びに浸る前に、このときを逃してなるものかと速攻で撮影開始。予想に反して雲の動きが速く、撮影中雲が横切る場面はありましたが、撮影したらもう後には引けません。写ってくれることを願ってただただガイドを続けるのみです。

そうして撮った彗星のうち、まともなのは10枚中3枚でした。あとの7枚は雲の影響を受けて・・・・ならまだよかった(?)のですが、半分以上が目に余るガイドミスなわけで、直焦3悪全てのクリアはまだまだ険しい険しい。

まあ、それでも緑色に輝く彗星が撮れただけでもマシとします。リハビリだし、うん。

 

ハートレー彗星

 

撮影した3枚をコンポジットしてみました。撮影インターバルがバラバラですので、星の間隔が等間隔になっていない上に、星の大きさも不揃いという載せるのが恥ずかしいような出来ではありますが、小さくリサイズして極力アラが目立たないような形で載せてみます。

 

網状星雲を撮影した船長っもハートレー彗星に挑んでいましたが、こっちは自分よりもかなり大ざっぱで全てオートガイドに任せっきり。雲があろうとなかろうとそんなことお構いなしの状態でした。見れば、夜空は雲一色。正直、まともに撮れたコマはないんじゃなかろうかと思いましたが、後日の結果を見る限りではしっかりしたイメージで撮れていたようです。一体どんな手品を使ったんでしょうか?

その後、船長っは翌日の運動会のためハートレー彗星撮影終了を持って撤収。自分はどうしてもオリオン星雲を撮りたかったので、雲の切れ間を狙いながら撮影を続けましたが、雲の量はどんどん増すばかりで、撮影した写真は全てソフトフィルターをかましたようなイメージになってしまい、加えて星の流れも大きくなってくる一方でしたので、船長っが帰ってから2時間ちょっとしてから自分も撤収しました。

必ずしも満足のいく結果にはなりませんでしたが、X4のおかげで直焦3悪のうち2つが解消された喜びを胸に、リンガーハットでダブルチャンポンを食べ、翌日大いにもたれた次第です。

さて、これを機会に新たなY−da伝説が紡がれるでしょうか。船長っの物欲ワールド疾走譚とともに今後目が離せなくなるかもしれません。

 

 

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