PROJECT ED(後編)

 

 

 


<メーカーは黙して語らず>

 

注文した品のうち4mmLVアイピースは届いたものの、メインのED屈折の方は生産が追いつかないとの理由で、当初の1月Mから1月E〜2月Bに延びてしまった今回の一大プロジェクトですが、あまり延びすぎるのは非常に具合が宜しくありません。なぜならば家内からの静かなる追求があるからです。

どういう風に具合が悪いのかって?…と言うのはですね、こんな会話があったわけでして…。

      嫁: 「そう言えばさぁ、望遠鏡いくらで買ったの??」  ← いきなりの切り出し!一気に本丸侵入か

      私: 「3万円」                          ← ついに言ってのけた!!もう後戻りは出来ません

      嫁: 「ふーーん、……そんなもんなの?」         ← 明らかに疑っている

      私: 「新古品で買ったから」                 ← その場しのぎの自爆行為その1

      嫁: 「じゃぁ、展示品なんだ」                 ← (その割には時間がかかってるんじゃない?)とでも言いたげな質問

      私: 「そうそう、一度メーカに送って各部調整してもらう事になっとるらしい」  ←自爆行為その2

 

うそつき大魔王ここに降臨?「メーカ調整」とは、パッと浮かんだ言葉をそのまま出したんですけど、設定自体が無茶苦茶です。冷静になって考えると、納期が遅れればそれだけで「メーカーで調整しているのか」どうか疑念を抱きます。そしてその度につかれるウソにより、鵜飼いの鵜状態になっていくのです。全く持って具合が宜しくありません。

そう言うわけで、販売店は「最悪2月上旬」と言ってても、1日でも早く来て欲しいものです。その一方で、ホントに2月上旬までには来るのかどうかも怪しいところです。

以前、VC200Lを買ったときにお世話になった前橋至誠堂は、納品が遅れそうなときは事前に電話連絡をしてくれたりして「親切な販売店」という好印象があったのですが、今回の販売店は何の連絡もありません。これが普通なのかな。

 

さて、1月も終わりの30日になってもまだブツが届きませんで、怪しい気配はいよいよ濃厚になってきました。2月上旬までまだ猶予期間は10日残されてはいるものの、念のため「ちゃんと2月上旬までに届くんすか?」と問い合わせのメールを打ってみました。…………が、返事はなかなか来ません。このままでは焙り焙られて照り焼きチキンになりそうです。

1週間経過した2月6日ついに連絡メールが入りました。さぁどんな内容でしょう?…「生産が大幅に遅れて云々、2月の後半にずれ込む可能性が云々、今出荷できる分を充てるよう交渉するもメーカーからの回答がない云々、6日中に確実な情報を再度連絡する云々」と苦しい心の内を打ち明けとります。

何小出しに納期をずらしとんじゃい!!メーカー調整とはそんなにかかるんかい!!←いや、メーカ調整は関係なかですよ?

 

その6日も過ぎました。結局メーカから何の回答も来なかったのか音沙汰ナシでした。2月後半というのも何の根拠があるわけでもなく、ホントに来るのかどうか眉唾ものです。

男は引き際が肝心です。やはりワタシにはおしんあみんは似合いません。キャンセルです。値段が安いとはいってもここまで遅れれば如何ほどの苦痛です。

とは言え、いきなりキャンセルなんていうのは紳士(?)がとるべき行為ではありませんから、まずは「2月後半にずれることが確実ならキャンセルすることもあり得る」と、そこはかとなく匂わせておいて販売店の対応を待つことにします。…………………数日経過。回答無し。

問答無用です!回答を待たずしてキャンセル+返金依頼のメールを送信。

販売店からは(案の定)連絡は来ないのですが、果たしてお金は返ってくるのでしょうか。それとも例え納期が遅れようと力づくで納品するのでしょうか。

さぁさぁProject EDに暗雲が立ちこめます。今後の展開に目が離せません。まさに起承転結の「転」に突入です。

                                                                         

 

 

 

<浮気のち寝返り>

 

タイミングというのは実に難しいもので、「もうちょっと待っていれば!!」と地団駄を踏むケースはよくあることです。

このProject EDを開始するに当たって、機種の選定や価格の比較など吟味に吟味を重ねてその結果ED102SSWT 140,400円を注文したはずなのですが、それから3日後にビクセン開発工業からほぼ同じ機種がほぼ半額の値段で売られていたという事実にショックを受け、その約2週間後にはED115Sという少し大きいED屈折鏡筒がED102SSWTとあまり変わらない価格で発売される始末。つくづく自分は時の声を聞くのが下手だなぁと思うのです。

ちなみに半額のお値段で販売された望遠鏡は、自分がHPを見たときには完売していましたので諦めがつくというものです。しかしED115Sは在庫が多いのか、はたまた売れていないのか、なかなか完売になりません。これには参りました。何故かと言いますと「納期5日」という魅惑的な言葉がワタシの心を揺さぶるからです。納期5日という事は、年末に注文したとしても楽々ED102SSWTよりも早く入手出来るわけです。

 

 

 

うーーん、いい(まん)ねぇ(だ〜む)

 

ああ、久々にアクタガワ状態になってしまう。

 

 

有効口径 115mm、焦点距離 667mm、明るさ 5.8、見れば見るほど魅力的なスペックに、納期5日の合わせ技。

そよ風が吹けばそれだけでなびきそうな自分をかろうじて踏みとどまらせたのは、お世辞にもスタイリッシュとは言えない外観と、158,000円という少々お高い値段でした

ところが、よくよく調べてみると口径1cmあたりの値段はED102SSWTが13,765円に対して、ED115Sは13,739円とほとんど変わらないことが分かりました。これはあとで分かったことなのですが、ED102SSWTは写真性能を高めるためにフラットナーレンズを配置しているのに対し、ED115Sはフラットナーなしバージョンということで、その分安くなっているのでした。しかしそのことを知らなかった自分は、てっきりED102SSWTに付いている付属品が少し多いから割高になっているのだろうと思ったのでした。そのため、必要のない付属品が付いて1cm辺りの価格が高くなるよりは、最低限の付属品を付けて1cm辺りの価格を安いED115Sに次第に心が傾きかけてきたのです。あぁ心の中のアクタガワがだんだん大きくなってきた…(浮気率23%)。

 

いや待て待て。例えこちらの方が納期は早くても、1月M納期で注文したED102の方を全てに於いて優先しなければ。それが販売店への義理というものです。………そう思った矢先に、納期が1月Mから2月上旬への変更ですよ!!(→前編参照)  心の中のアクタガワ、さらに膨れて浮気率62%。

その後も、アクタガワの膨張は止まりません。来るのが遅くなればなるほどアクタガワが大きく大きくなってきて、2月6日の時点で浮気率は既に98%に達してしまいました。

浮気率が100%になった時、それはED115Sに乗り換えることを意味します。ただし、そのためには2つの壁を乗り越えなければなりません。

1つ目の壁は言うまでもなくED102が2月10日前後までに納入できないこと。2つ目はキャンセルができるかということです。納期については、2月10日前後というのは絶望的とほぼ確定したようなものですが、キャンセルの可否は微妙です。ひょっとしたら、キャンセル料を取るぞ、と言ってくるかもしれません。「金返せ!!」と威勢よく言っている割には、実はカラ元気だったりするのです。まっ、根が小心ですからな。

上の顛末の通り、キャンセルの連絡は2月10日に入れたわけですが、それにしてもこれ程返信が来ないとは思っても見ませんでした。普通だったらキャンセルの可否ぐらいならすぐ連絡をくれてもよさそうなものです。

 

このままメールを待っても埒があきそうにないので、仕方なく電話を入れてみました。もちろん小心でアドリブが下手な自分は、相手に丸め込まれないようこっちの正当性をあれこれ準備しての電話です。

結果は…あっさりキャンセル完了。返金の振り込み手続きも既に終わっていたそうです。

キャンセルするかどうかの対応も連絡しないし、全くここは接客対応が最低だと思います。あるいはこっちがクレーマーなのか?いずれにしても、この販売店のお世話になることは金輪際ないでしょう。

まっ、ともあれキャンセルできたと言うことで、これで安心してアクタガワ100%になりました。返金の振り込みが確認できたら、早速ED115Sを注文しましょう。

浮気して3ヶ月、ついにProject EDは「寝返り」という予想外の展開に走っていくのでした。

                                           

 

 

 

<ヘッドライトテールライトファーストライト>

 

2月14日、通帳に返金額が振り込まれているのを確認したその夜、さっそくビクセン開発工業に申し込むことにしました。ブツは当然ED115S。もしかしたらテスト結果ももらえるのではないかと密かに期待して、備考欄に「ロンキーテスト結果も欲しい」と書き置き、運命の「送信」ボタンを押しました。

メーカから返信の連絡が来たのは16日の夜で、それによるとお値段は発送料+消費税コミコミで166,425なり。ED102SSWTが約147,000円余りだったので、大体2万円のアップになりますが、1cm当たりの値段は変わらないし、しかも驚くべき事に順調にいけば20日には発送できると言うではありませんか!!→つまり、来週の月曜日には夢にまで描いたEDが手元にくるのです。これはもう断る理由はありません。17日は金をおろして振り込みケッテーーイ。

ところが、17日は心の準備も出来ていないのに子供が誕生するという予想外のイベントに見舞われまして、やれ両親に報告だ、やれ両親の(家←→病院間)送り迎えだ、やれ自宅で洗濯だ、とドタバタ劇が繰り広げられ、なかなか振り込む時間を与えられません。かろうじて銀行が閉まる17時前に振込完了し、ひとまずホッ。あとは望遠鏡の到着を待つのみとなりました。

ちなみに、ロンキーテストの方は、別料金で実施すると言うことで、その価格は12600円。通販で精密なロンキーテストツールを買うよりは遙かに安いんですが、懐の冷たさを考えるとこれ以上の出費はキツイですので(実はVC200L復活計画に更なる出費を検討中)、やむなく見合わせることにしました。いくら何でも粗悪な製品を送るようなメーカーではないでしょう。ここは信じることにします。

 

その後は、子供や家内の世話(と言ってもほとんどバイク便をしたようなものですが)で忙殺され、望遠鏡のことなど考える余裕も与えられませんで、気付いてみれば23日月曜日。もし予定通りに向こうが発送していればそろそろ着いているはずです。どれどれ??

おお!!あるある!届いてますよ!?

ついに待ち焦がれた瞬間がやって来ました。家の中には巨大な直方体の段ボールが置かれてあります。この大きさだったら間違いなくEDでしょう。もしこれで中身がアイピースだったら蹴り倒してやる。

もちろん、そんな心配は無用でした。開けると、おお!でかいでかい!船長っのFS102もそうですが、10cmの屈折ともなると大きいですね。写真で見るとものすごくコンパクトな印象だったので実物とのギャップに少々驚いた次第です。

 

 

 

 

梱包された状態

 

梱包を開けたところ。意外とシンプルな梱包です

組み立て完了。ファインダーがでかい!!

 

 

細部のチェックは次の機会に回すとして、取りも直さず早く星を見てみましょう。ウレシイことに、望遠鏡の到着

したこの日は見事に晴れ渡り、なかなかの透明度のようです。いやー、普通であれば決まって曇りか雨の歓迎

を受けるんですけどねぇ。子供が産まれてから運勢上向きの様相です。もしかしたら、グリーンジャンボも

当たるやもしれません。…いや、そんなことはどうでもいいか。

一通り組み立てて、さぁ待ちに待ったファーストライトの時間です。

ファーストライトの対象は、シリウスにします。きっと、船長っのFSに迫る切れ味鋭いシリウスが輝いているに

違いありません。…

ありゃ?思った以上に星が肥大してます。

 

 

こちらは架台に載せた状態。

 

 

 

FS102で見せてもらったときのシリウスは、もうちょっとこう、針で突いたような鋭さがあったんですが、ED115Sだとパンチ穴みたいです。夜空を見上げると、少し星が瞬いていますんでシーイングが悪いのかもしれません。しかしこれまで光軸の狂ったVC200Lに慣れていたので、すっきりとした点状の星を見ると気分爽快です。ここで、少し倍率を上げてみます。

 

LV9mmにして74倍。するとシリウスの周りに青いハローが薄く広がっています。ハローと言っても機動戦士ガンダムにでてきたコイツ→

じゃないですよ?

 

シリウスを包むようなボーッとした雲状の広がりです。ちょうど皆既日食に時に見えるコロナを想像すると分かりやすいかも知れません。→

もちろん、コロナよりもはるかに薄く一見した感じではあまり気付かないぐらいです。

 

 

これがEDレンズの特性なのかアイピース側の特性なのかちょいと調べる必要があるようですね。

ピントの合う範囲は大変狭いです。ただ、焦点が合ったときの像はカチッと見えるので「どこがピントかな〜」とドローチューブを延々と往復させることはないかと思います。VC200Lの場合は大変だったんです、ピントの合う位置を探すのが。

さて、次にいよいよ木星をToUcamで動画撮影・・・・の前に眼視で見てみました。やはりちょっとシーイングが悪いために、思ったよりもシャープに見えませんが、コントラストが良く揺らぎも少ないですのでしっとりした印象があります。驚いたのは、ToUcamをつないでPCモニタ上に写し出したとき、中央の縞がはっきりと映し出され、眼視では気付かなかった大赤斑も見えていたことでした。VC200Lの時は筒内気流があってか絶えず画面内を木星がダンスして、ゴムボールみたいにグニャグニャしていたのですが、今回は少なくともゴムボール現象が全くありません。これなら、きっといい写真が得られることでしょう。

 

ということで、60秒間動画を撮ってこれをRegistaxでコンポジット&画像処理してみました。

すると今まで撮ったことのない木星が得られたではありませんか。

これぞハッブル宇宙望遠鏡の像だ!!

というのは大げさですが、縞のうねり、右端に見える衛星の影、木星らしい木のような感じ、ワンダフル

ジュピター!!と思わず叫んでしまいそうな感動に襲われました。

いやぁ、とても3万円の望遠鏡で撮った写真とは思えませんねぇ(??)

昨年船長っがフローライトで撮影した木星/土星の写真を見せてもらってから、自分の胸に刺さった

屈折病。価格の高さという大きな壁に悩んだ日々。注文してからも家内にひたすら嘘をつきまくり、針の

むしろにいるような毎日。遅れる納期に焦らされ結局他の望遠鏡に乗り移るという波乱の出来事。

それら全ての苦労と葛藤は、この木星の画像によって吹き飛んだ思いです。

屈折病に犯された男の一大プロジェクトは、今ようやく一つの区切りを迎えようとしていました。まさに

 

「ヘッドライトテールライト」のBGMが似合うシーンに違いありません

た〜び〜は〜まだ終わら〜ない〜 ちゃ〜らら〜 ♪

そう、次なる旅へ向けてY−daは再び歩き始めるのでした……

 

木星: 2004年2月23日 22時21分撮影(60秒間)

ED115S LV15mm(44倍)+ToUcam

900枚の中から768枚をコンポジット

 

   

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