アポダイジングストーリー

 

                                          

 

 


<第1話>

 

Project EDを立ち上げてこれで「シャープな星像の探求」は収束したはずでした。ところが船長っのフローライトショックはまだまだ根深く、今度は今持っているVC200Lのあの像の甘さを何とか出来ないモノか、低いコントラストを何とか向上できないモノか、と思うようになったわけです。そしてその回答を求めて最近取り憑かれたように色んなサイトを見て回りました。そんな折り、ちと惹かれるアイテム発見!!その名もアポダイジングスクリーン(もしくはフィルタ)です。

アホ(・・)ダイジング?…とうっかり読んでしまいました。違います、アポ(・・)です。

 

見れば、「コントラストが飛躍的に向上した!!」とか「シーイングキャンセラーの働きがある!!」とか、疑わしくも生唾ゴックンな記事がそこかしこに乱舞しています。しかも、材料費わずかに1000円もあればできるそうなのです。これは調査してみなければなりますまい。早速詳しい情報を提供しているサイトを探してみました。Yahooでアホダイジング…、いやいや、アポダイジングスクリーンで検索してみると…おおっあるわあるわ。結構多いなぁ。

個人的には簡潔で分かりやすいサイトはこちらで、また、工作も含めて詳しく書いてあるのはこちらでした。

それによりますと、アポダイジングスクリーンは穴の空いたメッシュの細かい網をいくつか重ねて出来たフィルタのようなモノのようです。ただし全く同じように重ねるのではなくて、穴はそれぞれ大きさを変え、重ねるときも角度を変えるのがミソ。要は簡易グラデーションがかかったスクリーンを作るわけです。歴史は結構古いようで、過去に天文雑誌にも紹介されているようです。

スクリーンの材料というのが何と「網戸」というのが実にエキゾチック。なるほど、網戸だからこそ安く作ることができるのか。これなら失敗しても致命傷にならずにすみそうだし、こんなもんでコントラストが上がるのなら安いもんです。図工の成績が5だった経験(ただし一度っきり)を生かして作ってみようじゃありませんか。

 

さてさてまず使用した材料ですが、左から@網戸、A発泡スチロール板(裏面は粘着タイプ)、B発泡スチロール板(普通)です。

網戸は2.5m×1.8mぐらいで390円。安い!!…んだけど、こんなに使うのか?いや、多分使いません。かといって網戸の切り売りなんて普通しませんよねぇ。

発泡スチロール板は、両方とも30cm×45cmです。ボール紙でも十分と思ったんですが、夜露でフニャフニャにならないようにこちらを選定しました。後にこの選定は失敗したんですけど…(^ ^;

最終的な完成イメージとしては、網戸をスチロール版でサンドイッチするような格好にしようと思ったので、スチロール板の1枚は裏面に粘着シートが貼ってあるものにしました。お値段は2枚で600円弱です。

しめて合計990円。何とか1000円以内に収まりました。この時点では…。

 

次に型紙作成に入ります。網戸の寸法は25cm四方にとりました。

アポダイジングスクリーンの穴の大きさは、望遠鏡の口径の50%、70%、90%ぐらいに取ることが一般的のようです。

VC200Lの場合は、それぞれ10cm、14cm、18cmです。

ただ、自分としては一番最適な穴の大きさを試験してから最終的な組み合わせを決めたかったので、いくつか穴径の違う網戸を作ってカートリッジ式に交換できるような構成を考えていました。

ということで、型紙に書いた円も50%〜90%の間を10%刻みで書いておきました。

 

 

さーて網戸切り抜きに入ります。これがまた難儀しました。網戸の野郎と来たらフニャフニャしてカッターで切りにくい、っていうか切れないんです。無理に切ろうとすると網戸より先に型紙が切りまくられそう。

やむなくハサミで切ることにしました。自慢じゃありませんが、ハサミを持たせたらまともな形に切り抜けない程ブキッチョさ。おまけに相手は軟体動物のような網戸なものだから、切りにくいことこの上ありません。切り上がった網戸は型紙とは似ても似つかぬものばかりで、失敗作がどんどん部屋に散乱します。よかった…網戸のサイズが大きくて。

さらに、網戸のフニャり様は「カートリッジ式にして最適な組み合わせを検証する」という目論見すらはじき飛ばしました。

もう初めっからスチロール板でサンドイッチにした方が早そうです。ということで、穴の組み合わせは50%、70%、90%のスタンダードな構成にしました。。。

 

やっ…との思いで3枚切り抜きました。これを角度を変えて重ね合わせます。情報によれば30度ずつずらすのだそうで、90%穴を0度として、70%穴を30度、50%穴を60度ずらしました。

右の写真は重ね合わせた状態を画鋲で固定したところです。おお?結構グラデーション気味になってるじゃない。ちょうど発色数の少ないPCで見たときのグラデーションそっくりです。今までの苦労がちょっと報われたような気がしました。

あと、ベースとなる発泡スチロール板の切り抜きもしておきます。27cm四方に切り取って、中央に20cmの穴を開けます。20cmとは当然VC200Lの有口径に一致させておきます。が、実際は望遠鏡の口径よりも少し大きくした方が良かったかもしれません。ギリギリに取ると、中心がずれた場合に望遠鏡の口径を絞ることになりますので…。

 

 

 

最後は、もう1枚のスチロール板(粘着タイプ)を切り取り、上の網戸付きスチロール板に貼り合わせます。

が、ここで問題!!網戸を3枚も重ねると当然厚さが出てくるのですが、この厚みのためにスチロール版がぴったり貼り合わさらないのでした。もちろん予想はしてましたが、力ずくでやりゃあ何とかなるさ、と考えていたのが大甘でした。

ならばアロンアルファがある!!強力な接着力でばっちり貼れるはず。まさに力ずく。量を惜しまずべっとりとアロンアルファを塗りたくります。

いゃぁ!!スチロール板が溶けていくよぅ!!

そういや、前も同じ体験したっけ…。

結局板は張り合わさっていませんが、今のところ網戸が抜けてくるようなことはなさそうですのでそのままにしました。すでに当初のイメージから大きく外れつつある完成型です。

 

 

 

ということで、本当はこれにキャップを付けて望遠鏡にカポッとはめるようにしないといけないのですが、この時点で既に力尽きた自分はこのままの状態で望遠鏡に縛り付け、その効果を見てみることにします。ターゲットは木星です。

久しぶりにベランダから見る木星は、今までになくぼやけています。かろうじて中央に2本の縞があるのが分かる程度です。

 

もしかして、コイツ(VC200L)光軸が狂ってねぇ??

 

そう思わせるほどひどい像です。とてもシーイングが悪いと言うだけで片づけられるレベルではなさそうですが…。まっ、それは置いときますか(←それでいいのか!?)

さて、自作したアホダイジン…じゃなくてアポダイジングスクリーンで見てみましょう。…ぐわっ!?木星の周りに放射状に広がる虹色の回折光(イメージはこちらをご覧下さい)がエゲツない!!

感想としましては、他のサイトで紹介されているような効果の片鱗が確認できたかな、という程度ですか。コントラストが上がったという印象はないのですが、縞が見やすくなったのは確かですし(と言っても2本だけしか見えないのは相変わらず)、像の揺らぎも少なくなりました。

ただ、やっぱり光軸がずれている可能性があるので、ちょっと判断しづらいっすね。今度ED屈折が来たときに専用のアポダイジングスクリーンを作って、もう一度調べた方がよさそうです。  

 

 

 


<第2話>

  

 

前回VC200L用にアポダイジングスクリーンを作ってから1年が経過しました。「ED屈折が来たときに…」と言いながらなかなか実行に移しませんで、2005年の冬休みにふと思い立って作ってみました。結局取り付け対象はホタロンになってしまいました。

穴はスタンダードにホタロンの口径の50%、70%、90%で取ってみます。ですので、50%だったら140mm×0.5で70mm、70%なら140mm×0.7で98mm、90%なら140mm×0.9で126mmです。この寸法を普通の紙に書いて型紙を作り、網戸に重ねて一緒に切り出します。多少いびつな円形になろうが、3枚の網戸を重ねるときにちょっと中心軸がずれようが大勢には影響ないだろうと楽観的な気持ちで作業をすすめます。大雑把もいいところです。

まっ、何とか形は出来ました。前回の経験が活きて今回かかった時間は3時間程度と大幅な時間短縮です。これであとは晴れた夜を待つのみ…って、あれ?ホタロンってたしか口径は130mmじゃなかったっけ?

そうです、ホタロンの口径は130mmなのに、何を勘違いしたのか自分は口径を140mmベースにして穴を開けたのでした。しかもその事実を完成した後で何かの拍子で気付いたのでした。ガチョーン!!

ま、まぁ元々がざっくりと作っただけだし、140mmベースで作ってもそう結果は変わらないでしょう…。

で、右の写真が出来上がったアポダイジングスクリーンです。今回は3枚の網戸をボール紙で挟みました。ボール紙は多少曲がりが効くので網戸を挟んでもピッタリくっつきました。裏側には、フードの内径に合わせてスポンジを貼っていて、フードに差し込む形にしています。

ホントは裏側の様子も披露したかったんですが、あまりにもスポンジの切り出しがへたくそで、人様に見せられるような状態ではないので、止めます(写真を撮ろうという意欲を萎えさせる出来具合)。

 

さて、一応出来はしましたので早速その成果を試してみたいところです。ちょうど、コレを作った夜はそこそこ晴れてくれました。まずは、恒例としてシリウスを見てみましょう。

その結果はと言いますと、ノーマルに比べてかなりジフラクションリングというんですか、周りの回折光が弱められ、相対的に中心のエアリーディスクが強調されるようになりました。このため、星像がシャープになったように見受けられ、特に60倍〜100倍程度なら0.5mmのシャープペンで突いたような鋭い像に一変したことに驚かされました。これまで「ちょっと星が肥大してるなぁ」と感じたのは、ひょっとしたら回折光がいっぱい取り巻いて、着ぶくれしていたからなのかもしれません。

二重星として有名なオリオン座のリゲルなんかを見ると、通常でも伴星の存在ははっきり分かるのですが、アポダイジングを通して見ればよりすっきりした形で楽しむことができました。回折光が少なくなるだけでこれだけ見やすくなるとは思いもしなかったので、これならもうちょっと気合いを入れて作るんだったなぁ、と悔やんだ次第です(特に穴の寸法間違えてるし…)

 

恒星でこれだけ効果があるのなら、惑星だとさぞかし劇的な改善が見られることでしょう。ということで土星に今度は向けてみました。ところが土星はベランダの天井の淵にさしかかっていたことが災いして、ノーマルではもはやラグビーボールみたいな状態となり、何が環っかで何が土星本体なのか区別がつかないのです。これじゃとてもアポダイジングの効果なんてなきに等しいのでは?ダメ元で付けてみますか…。う〜ん、環と本体の区別がついて心持ち縞模様が浮かんでるかな、と言った程度です。ベランダでの土星観測は既にシーズンオフみたいです。これは今度出張ってもう少し建物の影響のないところで改めて確認してみることにしましょうか。

ならば木星です。木星はこれからがベランダシーズンであり、4時頃起きればちょうどいい案配の高度になります。4時と言えばシーイングも落ち着いている時間帯ですから、これなら効果のほどがはかれるというモノです。で、一旦仮眠して4時頃起きることにしましょう。……(仮眠中)………。

4時です。寝ぼけ眼をこすりこすり起きて、ちょっとモチベーションを高めつつ東に昇っているであろう木星を迎え入れましょう。…雲ってんじゃんかっ!!

またこのパターンです。最近は夜半までは一応晴れるんですが、夜明け前木星を見ようと起きると曇っているパターンに悩まされ、今シーズンはまだ1、2回しか見たことがありません。今回もご多分に漏れず、木星は分厚い雲のカーテンに遮られてペケでした。

結局惑星での効果というのは1月5日現在でまだ確認できていませんが、少なくとも恒星を見る限りではなかなかいい出来なのかなぁ、と思ったアポダイジングスクリーンでした。

 

 

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