デジタルに全てを

                                        

 

 

 

 

 

<プロローグ>

 

5月の初旬からニート彗星が西の空に見頃になってきたというのに、九州地方は曇りやら雨やらにたたられ、初めて彗星を見た5月6日以降は全然彗星の姿を拝めませんでした。

ついでに、怒りにまかせてオークションで(心ならずも)落札したEOS kissデジタル一眼レフも、家内の目を避けながらひっそりとバッグの中でスタンバってるだけの寂しい日々でした。

そんな中で5月14日の予報は「晴れ」。時間毎の天気を見てみると14日から15日午前までは晴れマークが並んでいます(15日以降は再び雨マーク)。これぞ、まさしく神のお告げです。絶対外してはなりません。萌えて…いや、燃えて来ましたよ。

しかし、その前にやっておかなければならないことがありました。家内の説得です。何となれば、6日の彗星撮影の時は「8時には帰る」と言っておきながら予想以上に彗星の位置確認に時間を取られて実際は9時前。これで家内の怒りが爆発し(運悪くイオが愚図ってドタバタしていたらしい)、2、3日口をきいてもらえなかったのです。9日の母の日にカーネーションをプレゼントしてご機嫌取りをしたものの果たして許してもらえるかどうか…。ここは一計を講じなければなりますまい。

5月13日帰宅後、自分はおもむろにイオの相手をしながら、

 

    父: 「姫、明日は晴れるらしいよ。父ちゃん、星を見に行ってもいいかな?」 →家内のこめかみ付近に青筋が立っている模様。

    イオ(のマネをする父): 「イイヨ。トウチャン ガンバッテオイデヨ。」 

    父: 「そうかそうか、許してくれるか。姫は優しいなぁ」 →家内のこめかみ付近の青筋が増殖している模様。

    イオ(のマネをする父): 「イイヨ。トウチャン ガンバッテオイデヨ。」  

    父: 「ということでイオの許しが出たから明日星を見に行ってくるよ」

    母: 「アホかー!己はぁぁぁぁ!」

 

まっ予想通り一筋縄ではいきませんでしたが、家内とイオは実家でお世話になることで何とか丸め込み、15日は何の憂いもなくニート彗星撮影に繰り出すことになったのでした。

 

 

 

 

 

<デジタルの神髄ここにあり>

 

 

さて5月14日当日、「晴れ」といいながら日中は雲がはってヤキモキさせられましたが、夕方頃から回復し何とか星が見られる程度にまで持ち直してくれました。イオと家内を実家に連れて行き、7時頃観測場所に向かいます。場所はもちろん「船長っの場所」。彗星の見える西の空の展望があまり開けてはいませんが、今の時期は彗星の高度も結構高く少なくとも到着後数時間は楽しめるはずです。

ところで、今回も自分の拙HPに「撮影にいくよー」とそれとなく匂ったスレッドを入れておいたのですが、船長っからもオクヒデ君からも特に反応がありませんでした。せっかくだったら人数が多い方が楽しいし、特に「船長っの場所」は当の発見者の船長っが「ここは何か背筋が寒くなるときがあるんだよねぇ」と、聞いただけで寒気がするような発言をしているところなので、出来れば一人でない方が心強いものです。そんなノミの心臓の自分は現地に到着後「今ニート彗星見てるよ」とメール打ってみましたが、やはり返事はありません。

ちなみにこの時船長っは出張中であり、オクヒデ君は爆睡していた、ということでした。

仕方ありません。楽しませてもらいましょう。

 

注目のニート彗星ですが、この日あまり空が澄んでいないこともあってか眼鏡をかけた状態でも彗星がどこにあるのか肉眼では分かりませんでした。双眼鏡だとかに座のプレセペ星団の近くにボヤッとした星雲状の天体がはっきりと認められ、若干の尾が伸びているのもそれとなく分かります。明るさは2等〜3等程度でしょうか。明るい彗星ではあるんですが、当初世間で予想されていた「ヘールボップや百武彗星並み」のイメージからはほど遠く、おそらく一般の人にとってはちょっとガッカリする姿かもしれません。

望遠鏡で見た彗星は、核の部分が恒星状に鋭く輝いているのが印象的です。それを包むようにぼんやりとコマが拡がり、周辺に行くにしたがってグラデーション気味にコマが薄くなっていきます。尾は「心持ち見えるかなー」という程度でコントラストがなく、やはり空の透明度が悪いのがかなり影響しているようでした。4月の「骨折り損のくたびれ撮影会」の時のような抜群の透明度だったら、もう少しいい眺めになっただろうにチト残念です。

ある程度彗星観望を楽しんだら、いよいよ撮影です。今回は例の直焦成功祈願セットを少しモディファイしてバージョン1.1にしてみました。バージョン1との違いはもちろん一眼レフカメラにEOS kissデジタルを導入したことであります。前回シャッターが勝手に切れてしまう不具合が原因で自分の貴重な4時間の青春を奪ったビクセンVX−1の姿は今日はありません。てか、永久に姿を見せないことも考えられるのですが…。

 

 

EOSをED115Sに取り付けて、カメラのファインダー越しに彗星を見てみます。おお!彗星の核付近はもとより尾もはっきりと見えるではありませんか。その見やすさとピントの合わせやすさはVX−1に勝るとも劣りません。お次に感度をISO800に設定し、3分ぐらい露出をかけてどれくらい写るものか試し撮りをしてみます。すると何と言うことでしょう。わずか3分の露出だというのに写った彗星は露出オーバー気味ではないですか。もちろん液晶で見た彗星には尾もしっかり写し出されています。これなら、防具76EDでガイドをしなくてもノータッチである程度いけそうです。素晴らしい!! これまで直焦撮影には散々苦労させられた割に全然報われなかったのに、EOSデジタルを使うことでこんなにお気軽に撮れるとは。

よっしゃ、試し撮りに気をよくしてガンガン行きたいと思います。先ほどはISO800でオーバー気味だったからISO400に落として同じく3分で狙ってみます。…うんうん、ワタクシ好みのコントラスト良い仕上がりです。液晶で見る限りピントも大きくは外れてないようですし、星のズレも思ったより小さい模様。

苦節20年、ようやく自分の願いが成就しようとしています!

もちろん、それに支払った代償は考えてはいけません。

 

 

普通のフィルム撮影の方は135mmの望遠レンズをつけてやってみました。先ほどのEOSのファインダーを見た後ではキャノンFXのファインダーがとても見にくく、こちらでは彗星があるのかないのか全然分からないので構図に大変苦労します。結局、最後の最後まで構図を決めることが出来ず、「とにかく入っていればいいや」と開き直りました。この前のブラッドフィールド彗星の二の舞にならなければそれでいいです。。。

彗星が木々に隠れるまでの1時間半、撮りも撮ったりデジタル側20枚、フィルム側7枚。フィルム側はまだ現像に出していないので結果は分かりませんが、久しぶりに会心の出来にホクホクです。

 

 

 

5月14日 20時19分 

望遠鏡: ED115S+EOS Kiss Digital

架台: EM200で自動追尾(ノータッチガイド)

設定: ISO800として露出3分

5月14日  21時39分

カメラ: EOS Kiss Digital+カメラレンズ(55mm

架台: EM200で自動追尾(ノータッチガイド)

設定: ISO800として露出1分

 

 

 

 

 

 

 

撮るべし撮るべし撮るべし

 

 

ニート彗星撮影ですっかり調子に乗った自分は、勢いもそのままに星雲・星団の直焦撮影にシフトしました。ターゲットは、これまでことごとく失敗してきたものばかり。特に前回のくたびれ撮影会で涙を飲んださそり座やいて座付近の天体は外すわけにはいきません。

とにかく、3〜4分の極めて短い露出で写ってくれるのですからオドロキです。これによって得られる恩恵は数え上げればキリがありません。例えば…

      

    @撮影枚数を多くできる→一晩で多くの天体を撮影可能、あるいは1つの天体を多く撮ることで後でコンポジットして画像の向上を図ることが出来る

          A架台の追尾誤差の影響が少なくなる→サブスコープで星のズレを修正しなくてもOK→精神的負担が軽くなる

          B外乱(突然強風が吹いたり、クルマのライト攻撃を受けたり)との接触確率が少なくなる→撮影中ビクビクしなくてOK     などなど

 

そういうことで、一つの天体につき3〜4枚程度撮影しては次の天体に移って同じ事を繰り返すというパターンで撮影していきました。この日ゲットしたのは、M65&M66、それにM51・M104の系外銀河、M3・M4・M5・M13・M22の球状星団、M8・M16・M17・M20の散光星雲、M27・M57の惑星状星雲と延べ13天体47枚に上りました。

途中、滅多にクルマの通ることがないこの山道を暴走族が通ったり(何でまた全然目立たない所を走るのか??)、鹿やタヌキが近くを通ったりして小心者の自分をビビらせましたが特に何の障害もなく午前3時まで頑張ってまいりました。

帰りは、久しぶりにリンガーへ直行。ニート彗星を見ることが出来た感動を胸にノーマルチャンポンを食します(ちなみにこの日は、昼にラーメン、夜にカツカレーうどんを食っている)。自分には「リンガーでチャンポン/皿うどんを食べればその日の結果は良好」という変なジンクスがありまして、多分今回の直焦はいい案配に仕上がっていることでしょう。

 

自宅に戻って一眠りし、ちょっと寝ぼけ眼でいよいよ画像の確認に入ります。…イイじゃないですか。EOSの液晶で見たときほど尾っぽの写りは良くないのですが、全体的には満足のいく出来映えです。星雲・星団撮影の方も、星が流れていることにちょっと目をつぶればナイスです。やっぱりリンガー効果は伊達ではありませんぜ。

これで、もはや自分はデジタルの世界から逃れることが出来なくなりました。直焦撮影のためにと買ったビクセンVX−1ボディーの出番は限りなく0に近づいた感じです。やはり自分にアナログ派(=銀塩フィルムによる撮影を主体とする派閥でオクヒデ君がその筆頭)は似合いません。EOS Kiss Digitalの台頭で益々デジタグ派(デジタル主体でありながら、極々たまにアナログもかじりたいと思っている派閥)よりに動いてしまったのでした。

 

 

 

 

M104 ソンブレロ銀河

M13 有名な球状星団 右端に小さな銀河も見えます

 

 

 

 

M4(右)とアンタレス(左の赤い星)

M8 干潟星雲 星団と重なってます

 

 

 

 

M16 これも星雲と星団が重なった天体です

M27 亜鈴状星雲

 

                  

 

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