自宅で直焦プロジェクト

 

 

 

                         【フラストレーション拡散計画】

 

 

2月のXデーは大雨と共にお流れになってしまいました。

考えてみれば、月イチの出張りは大型連休期間をのぞけば大抵は「新月の時期」の「週末」に限られるわけで、その時に晴れを狙うのは確率的に非常に少ないわけで、運がない自分にはますます縁がないわけで、結果として怒りのビールか怒りのチャンポンが腹にたまってメタボ街道まっしぐらに突き進むわけで・・・。

あぁ、ブルー(鬱)スパイラルに引きずり込まれてしまいそう。

こんな仕打ちにあうと「Xデー以外の日でも天体撮影できないものか」との思いが強くなってきました。平日でもちょこっと撮影できれば、Xデーの時に曇られても雨降られてもフラストレーションは拡散されそうな気がします。

 

ここで浮上してくるのが「自宅で直焦」案です。自宅の庭とかから星を見れば、透明度の良いときは(たまに)4等星近くまで見えるときもあり、明るい天体なら存在の確認だけは眼視でもいけます。とは言っても近くには街灯あり、隣家の明かりあり、ちょっと離れたところにはマンションの玄関灯がこちらを向いて陳列していたりで、観望に適した範囲は限られますし、ましてや長時間露出を必要とする直焦撮影などとてもおぼつきません。

ここで「干渉フィルタ」という存在が頭をかすめました。天文サイトでよくお目にかかる「LPS-P2なる人工灯のスペクトルをカットするフィルタを併用すれば、一発解決とまでは行かなくともお気軽撮影ぐらいは楽しめるのではないでしょうか。

何より、定期的に撮影をこなすことでセルフガイドのカンを維持できる可能性があります。

ほんのちょっと思い立っただけだというのに、物欲指数が急速に跳ね上がってきました。さっそく、LPS-P2を調査してみましょう。

 

LPS-P2」と聞くと、つい赤外カットフィルタを想像してしまうのですが、水銀灯とかナトリウム灯などの人工の光をカットするフィルタです。これを使えばぶっちゃけ街灯の光は遮断され、天体の光だけ通過してきますので、やろうと思えば市街地でも天体撮影だって不可能ではありません。

ちなみに、自分が覚えている人工灯をカットする干渉フィルタとしては、20年ほど前に出ていたコスモポリスフィルターがあります。低価格でカット率もそこそこ良いというテスト結果が某天文雑誌に載っていましたが、カラーバランスがマゼンタ系に崩れるためDPEで現像するとちょっと不自然な色合いになっていたような気がします。そういうイメージが未だに根強く残っていたため、干渉フィルターにはなかなか手をだしづらいところがありましたが、デジタルカメラで撮影して自分で画像処理する手法が一般的になった昨今、多少の色崩れがあったとしても何とかできそうです。

 

ということで、「LPS-P2」を調べてみるとさまざまな径のフィルタが取りそろえられているのが分かりました。価格はフィルタ径が大きくなるほど高価になりますが31.7mm径のアイピース直付けなどは1万円ちょっとと思ったよりも安い価格。これは意外でした。てっきり3万円とか5万円とか目ン玉飛び出るぐらいの価格かと思っていたので、逆の意味で目ン玉飛び出てしまいました( Д) ゜ ゜

使う目的は直焦撮影がメインなので、カメラアダプター43NSTのフィルターリングに適合する48mm径のフィルタをチョイスします。こうすれば眼視観測でもそのまま使える利点が出てきます。価格はどこのショップでもほぼ横並びで15000円弱。決して安いものではないですが、予想を下回れば何だか得した気分になるから不思議ですネ。

あとは通販でよくお世話になっているアイベルとかで注文すれば万事終了・・・となるはずだったんですが・・・。

 

 

 

【どっちが主役?】

 

話はちょっと横道に逸れます。

直焦撮影をする上で一番ネックになるのが電池切れです。特に冬場は全然持たず、去年のクリスマス観望会ではひどいときは1時間も持たずにご臨終という憂き目にさらされました。バッタモンのバッテリーならいざ知らず、純正でもほとんど変わらないのですから蹴っ飛ばしたくなります。大体今時1440mAhぐらいの容量しかないっちゅうのがいただけません。せめて2倍の2500mAhぐらいあってもよさそうじゃないですか。

 

これを解決する1つの手段が、以前天文雑誌で目にした「マイバッテリー」なる外部バッテリーです。汎用性が広く容量も大きく、バッテリーがカメラの外にありますのでバッテリー本体を保温すれば一晩中使えそうなアイテムです。ところが運悪く現在後継機への移行期にあって、前モデルは軒並み売り切れ、ニューモデルは部品調達の遅れでリリース時期が延び延び。最新の情報では3月上旬と言うことですが、本当に販売にこぎ着けられるのか疑わしいところです(その後2月23日に上位モデルが3月上旬に発売されるとのニュースがありました)。

 

もう1つの手段は、12V電源を取ってカメラに供給することです。12V電源はDC-WORKから取り出せば電池切れの心配はまず不要と思います。マイバッテリーと比べると携帯性は劣りますが、日常の撮影では普通のバッテリーでも事足りるはずですので(バルブ撮影しないから)、天体撮影で使用するならこっちが有利といえるでしょう。コーチさんがご自身のHPで紹介されていた、カー用品を使って自作したカメラ用電源はまさに自分が追い求めていた理想の形です。

 

早速自分のカメラに応用できないか検討に入りました。しかし、そうそう事はうまくは運びません。まず電源仕様がコーチさんのカメラと自分のカメラでは違います。EOS-D7.2V仕様ですが、これに適合するコンバータがあるでしょうか。実物見れば早いと思い、カー用品店を巡るもそれらしきものを見つけられませんでした。

また、コーチさんは電池ボックスを利用してカメラに電源を供給していますが、EOS-Dには電池ボックスが無くカプラを改造する必要が出てきます。やります?改造・・・う〜ん・・・。

 

余談ですが、コンバータについては別にカー用品を使わなくても100円ショップで売っている携帯充電器を昇圧改造しても出来そうです。でもやります?改造・・・・え〜っと・・・。

 

やればできないこともないのでしょうが、自分は既存の機器を組み合わせて作る性分で、「改造」となると途端に腰が引けてしまうのが悪い癖。結局少々高く付いても、マイバッテリーの後継機を買った方が得策か、というオチに収束しかけていました。

 

そんな時に、LPS-P2探しの話です。LPS-P2購入のどさくさに紛れて、EOSの電源についても何か琴線に触れる物がないかとあれこれ物色していたら、とあるサイトにあったんです。供給はシガーソケット、降圧機器は小型のアイピースぐらいの大きさ、カプラも付属・・・。これよ、これ!

値段は少々お高いですが、物欲指数が跳ね上がれば何て事はない価格です。販売元がS社じゃなければ脊髄反射で注文PBもんです。

これには迷いました。S社と言えばあのプロジェクトEDで「金輪際世話にはならない」と公言した経緯があります。いわゆるマニフェストです。目的達成のためには公約をいとも簡単に撤回するなんて、こんなことが許されるはずが・・・・たまにあってもいいんじゃないか?

臨機応変に動きたいものです。

 

ということで、LPS-P2と電源装置をコミコミで購入することにしました。納期は電源装置の方が1週間かかると言うことでしばらく待たされそうですが、今度はプロジェクトEDのような展開にならないことを期待したいものです。さぁ、この後の展開はどうなるでしょうか。

 

 

 

 

【挑戦その1 ベランダ編】

 

LPS-PS2EOS用電源のセットを注文したのは2月20日。S社の話によれば「EOS用電源の納期が1週間かかる」とのことだったので、早ければ3月2日(注文日の翌週の金曜日)ぐらいには届くかなーと期待していました。が、実際に届いたのは3月11日・・・。まぁ、多少の遅れはプロジェクトEDで慣れっこですからね。S社には独自の時間の流れがあるんだと考えれば想定の範囲内の出来事です。もちろん、こういう事に備えて「正確な納期が分かれば連絡くれ」とのお願いしていたわけですが、これも結局叶わぬ夢でした。これだって過去に経験済みですから、何て事ァありませんって!要は、極力関わらないように心がければいいわけです。

・・・と、開き直りとも愚痴とも遠吠えともつかぬことを書き連ねましたが、ともあれ品物は届きました。フィルタの状態も問題なさそうです。EOS用電源装置は、サイトの紹介写真ではカプラが写っていなかったのですが、現品にはちゃんとあって安心しました。

 

 

 

干渉フィルタ LPS-P2

EOS12V電源装置DC-CS3

 

 

ちなみに、フィルタを組み込んでの撮影構成は左の写真の通りです。以前にも書きましたように43NSTの第2リングは48mm径のフィルタが取り付けられますので、これに取り付け・・・・あれ?付かんじゃないか。

ってか、フィルタ径とリング径が同じですよ。もしかして選定をミスったか?でもS社も「取り付け可能」って言ってたしなぁ・・・(5分間沈黙)・・・おおっ、よく見れば手にしていたフィルタリングは1回り小さい36NST用のものでした。フィルタリングはどっちも共通しているのかと思ったんですが、36NST用には適合しないのですか。43NST用のフィルタリングを持ってくるとピタリとはまりました。ひとまず安心です。

これで自宅で直焦プロジェクトの環境は整いましたので、さっそくベランダから直焦撮影してみることにします。

 

 

決行したのは3月23日。上弦近くの月が輝いているものの夜半過ぎには沈みますから問題はありません。直焦撮影ということで普段よりも念入りに極軸を調整します。ところが念入りに調整していると、これまで気にかけていなかったところが問題化してきます。一番の問題は、木造のベランダ故の「床の柔らかさ」です。三脚付近に荷重をかけると星が大きく動いてしまうのでした。体勢上、自分の足はどうしても三脚の近くに来てしまいますが、びんぼう揺すりなんて以ての外、ピクつくだけでも神経を使わなければいけません。これはツライ!!加えて室内からの振動も気にする必要が出てきて、ますますツライ!!

しかし考え方を変えれば、ベランダで直焦特訓すれば多少の困難にはめげないだけの心・技・体を身につくんじゃないでしょうか。特に忍耐力と集中力のレベルアップが期待できそうです。

 

セッティングを終えれば次にピント合わせ。今回初めて実践に使うEOS電源DC-CS3の電源カプラをEOS-Dに突っ込んで、電源ON・・・・・しませんね。何で?バッテリーは活きていますし、電圧変換装置の受電ランプも点いてるし、プラグはちゃんと差し込まれていますが?

フタを閉めないと電源が入らない!

 

うはー!よく見てみると、電池ボックスのフタの一角にノッチがあって、フタをしっかり閉めると、ノッチの先にあるスイッチが押されてカメラ電源を投入することが出来るような構造になっているのです。電池の脱落防止のためなんですが、カプラから伸びるコードのせいでフタが閉まらず、ノッチがスイッチを押せないわけです。

え?え?こんなのS社の説明書には書いてありませんでしたよ?皆さんどうやってカメラの電源を入れてるんだ?

 

 

この事前確認不足は痛いです。さんざん善後策を考えましたが妙案浮かばず、時間も惜しく、やむなく残量が気になるバッテリーで乗り切ることにしました。

撮影対象はM104ソンブレロです。サブスコープでM104を導入します・・・が、

周りがあまりにも明るすぎて視野に入っているのかすら分かりません!!

 

自宅で直焦プロジェクトの最大の難関は、対象天体(特に星雲)をいかに導入するかではないでしょうか?

当てずっぽうでここと思われる箇所でテスト撮影しながら徐々にソンブレロを導入します。これも結構難儀な作業で、4、5回ほどトライしてやっとこさ中央付近に持ってくることが出来ました(疲れたけどここからが本番)。呼吸をすることすら抑えに抑え、石のように固まりながら1枚目の試写を行いました。さぁ!結果はどうだ!!

 

むちゃくちゃ流れまくり

 

小さい液晶ですらはっきりと流れているのが分かります。正直ガイドはかなりうまくできたと思ったので、これには果てしない虚脱感を覚えてしまいました。星の流れは東西方向にほぼ一文字で、自分が架台に対して西側に座っていることを考えると、自分が荷重を加えたことが原因のようです。

えゑい!!何の、これしき。今度は固まり率を石→「動かざること 山のごとし」に更にアップして撮ってくれるわ。2回目トライは、それどうだ!

またも名刀菊一文字炸裂!!

 

自分の自信が唐竹割りにされた瞬間です。固まり率をアップしたにも関わらず、撮影結果は悪化方向にアップしています。・・・・だめだこりゃ。ベランダでの直焦は無理がありすぎました。次回は駐車場から狙ってみたいと思います。

だんだん、LPS-P2の効果確認から内容がずれてきていますね。本来の観望大作戦の流れに乗ってきているのが心配です。

 

 

 

 

【挑戦その2 庭先でお気軽撮影編】

 

 

3月にベランダで挑戦し、無理な注文だったと分かってから早8ヶ月。カプラをつけたままバッテリーのふたを閉める方法も解決し、LPS-P2の効果も大体確認出来はしましたが、惑星撮影に力が入ってしまって、「自宅で直焦計画」は忘れ去られた状態になってしまいました。

この状態を払拭したのが、10月下旬にバーストを起こして肉眼彗星になったホームズ彗星です。街灯の影響とか月明かりの影響を物ともしない明るさと、ペルセウス座にあるという条件の良さが、やっとこさ庭先での直焦撮影を実行させるに至ったのでした。

 

ホームズ彗星はいろんな意味でありがたい存在でした。バースト直後は2等級台という明るさだったので、長時間露出をかけずに撮影することが出来ましたが、40秒程度であればホタロン+レデューサにEM200の組み合わせでもノータッチでいけることが分かりました。

自分のEM200は追尾制度がすこぶる悪く、ガイド中はイオ同様目が離せないと思っていただけにうれしい誤算です。これなら、明るい星団とか星雲だったらそれなりに写せそうです。

また、LPS-P2の効果で近くにある街灯の影響もかなり減らせることも確認できました。

 

一番の収穫は、レデューサーをつけた場合のピント合わせをコンスタントに出来るようになったことでしょうか。初めは例のピント合わせツール2穴式を使っていましたがなかなかうまく合わせきれず、途中からマグニファイヤーで直接星像を見ながらピント出しをする方法に切り替えました。これが思ったよりもやりやすく、撮ってPCで星像チェックするサイクルを2、3度繰り返すことで満足のいくピントに追い込めるようになりました。天体写真を撮り始めてから常に背後霊のごとくつきまとってきた「ピンぼけ王」ともおさらばする日は近いと思います。これでレデューサーなしでのピント合わせをコンスタントに出来るようになれば、あと怖いものはガイドミスぐらいなものでしょう。

 

 

 

 

10月30日撮影のホームズ彗星

11月11日撮影のホームズ彗星

 

 

先日はホームズ彗星以外の対象として、h−χ二重星団、オリオン星雲、すばるを撮ってみました。露出はISO800の40秒〜50秒で、星数は少ないですが周りが明るい割にはそこそこ写ったなとと思います。これにステライメージのスターエンハンス処理を施せば擬似的に長時間露出をかけたような感じに仕上がります。

惑星撮影と同様、機材をぱっと出して極軸を普通に合わせ、ガイドもせずに短時間の露出で済ませることができるため、かなりお気軽に撮れます。

今後の目標としては、ガイド撮影でもう少し露出をかけて撮影してみることですが、まずはノータッチでどこまで露出をのばすことが出来るか挑戦してみようと思います。

 

庭先から撮影したh−χ二重星団

 

11月15日 00時51分〜54分

ホタロン+レデューサ EM200でノータッチ撮影

EOS−D ISO800設定 露出40秒×5枚

 

各画像をRAPでダーク減算処理

ステライメージを使用してコンポジット、レベル調整、コントラスト処理、スターエンハンス処理

 

二重星団らしい雰囲気は出ていると思います。

庭先から撮影したオリオン星雲

 

11月18日 23時02分〜09分

ホタロン+レデューサ EM200でノータッチ撮影

EOS−D ISO800設定 露出50秒×5枚

 

各画像をRAPでダーク減算処理

ステライメージを使用してコンポジット、レベル調整、コントラスト処理、スターエンハンス処理

 

淡い部分を出そうとすると全体的にノイズの多い写真になりますが、明るい中での撮影を言うことを考えれば個人的に満足できるレベルにあります。

庭先から撮影したすばる

 

11月18日 22時55分〜59分

ホタロン+レデューサ EM200でノータッチ撮影

EOS−D ISO800設定 露出50秒×5枚

 

各画像をRAPでダーク減算処理

ステライメージを使用してコンポジット、レベル調整、コントラスト処理、スターエンハンス処理

 

青い星雲は極々かすかにしか写りませんでした。眼視に近いイメージではないかと思います。

 

 

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